トップ
>
空洞
>
うつろ
ふりがな文庫
“
空洞
(
うつろ
)” の例文
空洞
(
うつろ
)
な部屋々々に立ち籠めた重い澱みは人の生気とそぐはない廃墟のやうな過去の死臭に満ちてゐて、睡むる気持にはなれなかつた。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
そのまぼろしの影がだんだんに薄れてゆくと共に、かれの魂もだんだんに消えて、自分のからだが
空洞
(
うつろ
)
になってゆくかとも思われた。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
私は茫然として少時の間は無意識状態に陥ってしまって悲しくもなく、恐怖もなく、まるで
空洞
(
うつろ
)
の心で目の前の死体を眺めていました。
消えた霊媒女
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
そこに
恭
(
うや/\
)
しく
臥
(
ね
)
かしてある死体の、品のよい、
肌理
(
きめ
)
の細かい、のっぺりした顔を想像し、さてその顔の
空洞
(
うつろ
)
になった中央部を想像すると
武州公秘話:01 武州公秘話
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ハタハタハタハタと
羽搏
(
はばた
)
きしながら森の隙間を翔け廻わっていたが、またスーッと帰って来たかと思うと
空洞
(
うつろ
)
の中へ隠れ去った。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
が、その鐘は今や深い、鈍い、
空洞
(
うつろ
)
な、陰鬱な一時を打った。たちまち室中に光が閃き渡って、寝床の
帷幄
(
カーテン
)
が引き捲くられた。
クリスマス・カロル
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
と涙も忘れて、胸も、
空洞
(
うつろ
)
に、ぽかんとして、首を
真直
(
まっすぐ
)
に
据
(
す
)
えながら潟の
鮒
(
ふな
)
の
碗
(
わん
)
を
冷
(
さま
)
して、
箸
(
はし
)
をきちんと、膝に手を置いた
状
(
さま
)
は
可哀
(
あわれ
)
である。
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
かくてそこより力をこめて引きたれば、扉は破れ、割れ、
微塵
(
みじん
)
に砕けて、乾きたる
空洞
(
うつろ
)
に響く音は、森もとどろにこだませり
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
爺さんは
空洞
(
うつろ
)
のやうな眼をして、じつと考へ込んでゐたが、ふといゝ事を思ひついたので急に顔ぢゆうが明るくなつた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
この日光を受けた緑の森がところどころで両方へ分れて、その間から日もささない
空洞
(
うつろ
)
が、まるで暗い落し穴のように、ぽっかり口をあけている。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
空洞
(
うつろ
)
で苔が生えた林檎の木に兎の噛み痕が見られ、どんな種類の隣人をわたしがもつことになるかを示していること。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
葉子は今起きたばかりの庸三の傍へ来て、
空洞
(
うつろ
)
な笑い声を立てたが、
悄然
(
しょんぼり
)
卓子
(
テイブル
)
に
頬肱
(
ほおひじ
)
をついている姿も哀れにみえた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
『かしこまりました』と椋鳥は、二人の姉妹に白い布で目隠しをして、
大
(
おほき
)
な椋の木の
空洞
(
うつろ
)
の前へつれてゆきました。
仲のわるい姉妹
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
彼は自分の耳が
空洞
(
うつろ
)
になつたのをぼんやり感じながら、何物かを待ち続けた。だがつひに明子の巧みに包まれた心は皮膚面にあらはれては来なかつた。
青いポアン
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
がそれよりも私が驚いたことには、彼の眼は急に曇りが晴れたようになって、底深い
空洞
(
うつろ
)
を示してきた。そして薄い唇にはなおしまりがなくなってきた。
林檎
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
凭
(
もた
)
れも肘掛けも、非常に部厚に出来ていて、その内部には、人間一人が隠れていても、決して外から分らない程の、共通した、大きな
空洞
(
うつろ
)
があるのです。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
藁
(
わら
)
に火を
點
(
つ
)
けて蜂の巣を燒かうとすると、火は
忽
(
たちま
)
ち
空洞
(
うつろ
)
の枯れ果てた部分に移つて、ゴウ/\と盛んに燃え出し、村人が大勢で、火消し道具を持つたり
東光院
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
永久に一つの「無」が、自分に有ることを信じたいのだ。神よ! それを信じせしめよ。私の
空洞
(
うつろ
)
な最後の日に。
田舎の時計他十二篇
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
皆はびっくりして、近づいて行くと、
件
(
くだん
)
の喚声は、何という事だろう! 退却する負傷兵の泣き声であった。
空洞
(
うつろ
)
のような大の男たちの泣き声であった。
戦争雑記
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
竹の稈には節がある上に中が
空洞
(
うつろ
)
で筒になっています。それゆえ風に抵抗してもとても強く容易に折れません。アノ雪の竹を見てもそれが分りましょう。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
隣近所でおろす槌の響は、狭い
空洞
(
うつろ
)
の中に籠り切って、丁度鳴りはためいて居る大鐘に頭を突っ込んだ通りだ。
かんかん虫
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
涙に
薫蒸
(
くんじやう
)
して、青い顏が頬のあたりだけポーツと赤くなり、大きい眼が、
空洞
(
うつろ
)
に平次を見上げるのも哀れです。
銭形平次捕物控:276 釣針の鯉
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
ただ
土掘
(
どほ
)
の中がぽかんと少しばかり
空洞
(
うつろ
)
になっているばかりで、そこから地上に向って直径一寸ばかりの穴がひょろひょろと抜け通っているきりだったのです。
穴
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
金製の
紡錘
(
つむ
)
でつついて怒らせ噛ましたといひ、第三の説によると
空洞
(
うつろ
)
になつた
鈿
(
かんざし
)
の中に毒を入れて常に髪に挿して居て、其の毒を仰いで死んだといふのである。
毒と迷信
(新字旧仮名)
/
小酒井不木
(著)
しまいには
畠山
(
はたけやま
)
の
城址
(
しろあと
)
からあけびと云うものを取って来て
瓶
(
へい
)
に
挿
(
はさ
)
んだ。それは色の
褪
(
さ
)
めた
茄子
(
なす
)
の色をしていた。そうしてその一つを鳥が
啄
(
つつ
)
いて
空洞
(
うつろ
)
にしていた。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
空洞
(
うつろ
)
のような橋廊下——、口を開くと一緒にその奥から、ムーッとするばかりな熱風が
面
(
おもて
)
を
衝
(
う
)
ってきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、忽然
頬肉
(
ほお
)
が落ちて、眼窩は
空洞
(
うつろ
)
となって、——薄い霧のようなものがふんわりとその顔を押し包んだ……と思うと、それはやはり一個の骸骨に過ぎないのであった。
誰?
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
「いや、何うも気の毒なこってしてね、SとMと二人の
妹
(
いもと
)
を連れて上京したんですが、Sの方は左右の肺とも、
空洞
(
うつろ
)
になっていたそうで、コロリと死でしまいましたよ……」
友人一家の死
(新字新仮名)
/
松崎天民
(著)
……胸の
空洞
(
うつろ
)
の中へ潮がさしてくるような。……闇が魂を包み込んでしまうような、この、淋しい不安な感じ。……子供のときから、いくど悩まされたことだったでしょう。
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「タルチュフと紛失した薬物室の鍵か……」法水は
空洞
(
うつろ
)
な声で
呟
(
つぶや
)
いたが、熊城を
顧
(
かえり
)
みて、「この
曝
(
さら
)
し
札
(
ふだ
)
の意味はどうでも、だいたい犯人の芝居気たっぷりなところはどうだ?」
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
お
魂消
(
たまげ
)
なさるな西洋日本で。天の
際涯
(
はて
)
から地のドン底まで。調べ抜いたる科学者連中が。寄ってたかって研究しても。カンジンカナメの一番
大切
(
だいじ
)
な。オノレが
頭蓋
(
あたま
)
の
空洞
(
うつろ
)
の中に。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
組み合せた二本の痩せた手が前額を支へて、顏の下部に黒い
面紗
(
ヴエイル
)
をかけ、骨のやうに白く、全く血の氣のない額と、絶望に曇つた無表情な眼、
空洞
(
うつろ
)
な動かない片眼のみが見える。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
夢
(
ゆめ
)
かな‥‥と
思
(
おも
)
ふと、
木
(
き
)
の
空洞
(
うつろ
)
を
叩
(
たた
)
くやうな
兵士達
(
へいしたち
)
の
鈍
(
にぶ
)
い
靴音
(
くつおと
)
が
耳
(
みみ
)
に
著
(
つ
)
いた。——
歩
(
ある
)
いてるんだな‥‥と
思
(
おも
)
ふと、
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
知
(
し
)
らない
女
(
をんな
)
の
笑
(
わら
)
ひ
顏
(
がほ
)
が
眼
(
め
)
の
前
(
まへ
)
にはつきり
見
(
み
)
えたりした。
一兵卒と銃
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
赤い羽二重の
寛衣
(
シャツ
)
をつけた人形は、わざとらしい桃色の唇に永劫変らない微笑を泛べ、両手をさし延して何かを
擁
(
だ
)
き迎えようとしながら、凝っと暗い
空洞
(
うつろ
)
の眼を前方に瞠っているのだ。
或る日
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
夜の冷気とともに身に
沁
(
し
)
みて感じながら、重ねて
委
(
くわ
)
しいことを訊こうとする気力も抜けてしまい、胸の中が
空洞
(
うつろ
)
になったような心持で、足の踏み度も覚えず、そのまま
喪然
(
そうぜん
)
として電車に乗り
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
その張りきった
焦躁
(
しょうそう
)
で、舞台の方に向けている眼は
空洞
(
うつろ
)
になろうとする。
間諜座事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
「もうよし給え」と云った小川の声は、小さく、異様に
空洞
(
うつろ
)
に響いた。
鼠坂
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
最後の、悪い、
空洞
(
うつろ
)
な刹那を取り留めて置こうと思った。11590
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
笛
(
ふえ
)
の
中
(
なか
)
は、ただ一
本
(
ぽん
)
の
空洞
(
うつろ
)
の
竹
(
たけ
)
にしかすぎませんでした。
赤い船のお客
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
天地
(
あめつち
)
を鳴らせど風のおほいなる
空洞
(
うつろ
)
なる声淋しからずや
かろきねたみ
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
星の砂もて満されたるひろき
空洞
(
うつろ
)
の空をうごきゆく
魚と蠅の祝日
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
わが世は
空洞
(
うつろ
)
の実なし小貝
『二十五絃』を読む
(新字旧仮名)
/
蒲原有明
(著)
周囲一丈もありましょうか、そんなにも太い杉の木があり、その根が
空洞
(
うつろ
)
になっていましたが、それが集会所の入口なのです。
さまよう町のさまよう家のさまよう人々
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
たとえば「大きく
空洞
(
うつろ
)
になっている
臍
(
へそ
)
は美しいものとされているばかりでなく、幼児にあっては
健
(
すこ
)
やかに生い立つ
兆
(
しるし
)
であると思われている」
蓼喰う虫
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
大蛇
(
だいじゃ
)
が
顋
(
あぎと
)
を
開
(
あ
)
いたような、
真紅
(
まっか
)
な土の
空洞
(
うつろ
)
の中に、づほらとした黒い
塊
(
かたまり
)
が見えたのを、
鍬
(
くわ
)
の先で
掻出
(
かきだ
)
して見ると——
甕
(
かめ
)
で。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と二人の姉妹に、また白い布の目隠しをして、元来た暗い
空洞
(
うつろ
)
の一本道を山の神様のところへつれて戻りました。
仲のわるい姉妹
(新字旧仮名)
/
野口雨情
(著)
忽ちグッタリ仰向けに寝倒れたまま
空洞
(
うつろ
)
な
眼
(
まなこ
)
を閉ぢもしないで、次から次、次から次へと取り止めもない物の
像
(
すがた
)
を額へ運んだ、全く何等の意識もなしに。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
永久に一つの「無」が、自分に有ることを信じたいのだ。神よ! それを信ぜしめよ。私の
空洞
(
うつろ
)
な最後の日に。
宿命
(旧字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
樹の
空洞
(
うつろ
)
はどんなものだろうか。それから朝の訪問や晩餐会! キツツキがたたくばかりだ。ほんとにかれらは群がりすぎる。太陽はあそこでは暑すぎる。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
何遍か危ない目にも逢わせた女房ですが、急にいなくなると妙に身辺が
空洞
(
うつろ
)
になったような心持です。
銭形平次捕物控:227 怪盗系図
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
“空洞”の意味
《名詞》
空洞(くうどう)
中に穴があいて空間があること。また、その空間。
ほらあなのこと。
肺結核などにより体内の組織が液化して空間が生じること。
(出典:Wiktionary)
空
常用漢字
小1
部首:⽳
8画
洞
常用漢字
中学
部首:⽔
9画
“空洞”で始まる語句
空洞木
空洞球状