盂蘭盆うらぼん)” の例文
俳諧師はいかいし松風庵蘿月しようふうあんらげつ今戸いまど常磐津ときはづ師匠しゝやうをしてゐるじついもうとをば今年は盂蘭盆うらぼんにもたづねずにしまつたので毎日その事のみ気にしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
盂蘭盆うらぼん墓詣はかまうでに、のなきはゝしのびつゝ、なみだぐみたるむすめあり。あかのみづしづくならで、桔梗ききやうつゆ置添おきそへつ、うきなみおもふならずや。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
君も知っているだろうが、ここらじゃあ旧暦の盂蘭盆うらぼんには海へ出ないことになっている。出るとかならず災難に遭うというのだ。
海亀 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その思いはいねの子供たちがえ、毎年の盂蘭盆うらぼんや年忌などに墓へゆくたびにどの子供かの質問でよけいはっきりとそう思うのであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
美濃と武蔵のある個所には雪さえも降った。盂蘭盆うらぼんのころには冬のように霜が降り、稲の実るころには大風と霖雨が続いた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
色白く、傾く月の影に生れて小夜さよと云う。母なきを、つづまやかに暮らす親一人子一人の京の住居すまいに、盂蘭盆うらぼん灯籠とうろうを掛けてより五遍になる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の滯在中に盂蘭盆うらぼんが來た。盆の夜は、町の橋の上で、土地の男女が編笠や手拭をかぶつて、鄙びた稍〻みだらな感じで踊つてゐたのを思ひ出す。
やがて盂蘭盆うらぼんがきた。町の大通りには草市くさいちが立って、苧殻おがら藺蓆いむしろやみそ萩や草花が並べられて、在郷から出て来た百姓の娘たちがぞろぞろ通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
……りん青年……友吉の忰の友太郎が今年の盂蘭盆うらぼんの十二日の晩に、ヒョッコリと帰って来たのにはきもを潰したよ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お盆だ/\と騷がれて、この山脈の所々に散在して居る小さな村々などではお正月と共に年に二度しかない賑かな日の盂蘭盆うらぼんも、つい昨日までゝすんだ。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
刀自はそれが盂蘭盆うらぼんの頃であつたと思ふと云ふ。嘉永元年八月二十九日に歿したと云ふ記載と、ほゞ符合してゐる。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
暑い/\八月も中旬なかばになつた。螢の季節ときも過ぎた。明日あすは陰暦の盂蘭盆うらぼんといふ日、夕方近くなつて、門口からはしやいだ声を立てながら神山富江が訪ねて来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ドレ一寝入しようか。………………アア淋しい淋しい。この頃は忌日が来ようが盂蘭盆うらぼんが来ようが誰一人来る者もない。最も此処ここへ来てから足かけ五年だからナ。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
伝七はそう云ったが、盂蘭盆うらぼんに死んで行った薄命の女達をいたんだのであろう、その眼は涙に濡れていた。
「そン通りでございます。姉娘のお種も同じ七月十五日の盂蘭盆うらぼんの夜、古川町闕所けっしょ屋敷で唐通詞の陳東海に匕首で脊骨の下を突ッぽがされて死んでしまいました」
旧暦は盂蘭盆うらぼんの十五日、ちょうど今夜は満月である。空ははれ、風はさわやかに、日の光は未だ強い。その良夜りょうやの前の二、三時間を慌ただしい旅の心がさわめきやまぬ。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
明結願あけけちがんの日でもあり、折柄盂蘭盆うらぼんのことでもあるから、名残惜しく思って乳人と共に佛前に通夜をしていると、二人ながらしばらくとろ/\とねむった隙に同じような夢を見た。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ひと月前の七月十三日の夜には哲学者のA君と偶然に銀座の草市を歩いて植物標本としてのがまの穂や紅花殻べにばながらを買ったりしたが、信州しんしゅうでは八月の今がひと月おくれの盂蘭盆うらぼん
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日は傾きて風吹き酔いて人呼ぶ者の声もさびしく女は笑いは走れどもなお旅愁をいかんともするあたわざりき。盂蘭盆うらぼんに新しき仏ある家は紅白の旗を高くげてたましいを招くふうあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
取片付とりかたづけさせ自分はいそぎのことゆゑ一足先へ出立してあとよりおひつくべしと申聞け日の暮頃慈恩寺村じおんじむらを立出けるが時しも享保きやうほ八年七月十六日にて盂蘭盆うらぼんのことなれば村々にては酒宴さかもり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
盂蘭盆うらぼんが来て十王堂の境内からトントコトコといふ音が聞え出すと、私はこつそり家を抜け出し山寄の草原径を太鼓の音の方に歩いて行つて、其処で人目を忍ぶやうにして見た
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
真夏の空高く、高灯籠をかゝげつゝうたふ子供たちにとつて、盂蘭盆うらぼんはお祭にもましてなつかしいのだ。父と母ときやうだいたちが故郷の一つの家に集まつて、御先祖さまを思ふのだ。
八月の星座 (新字旧仮名) / 吉田絃二郎(著)
馬も牛も実際の動物でなく、生霊棚しょうりょうだなに供えられた瓜の馬、茄子なすの牛であることは、註するに及ばぬであろう。苧殻おがらの足で突立ったその馬も牛も、いささかしなびて見える。盂蘭盆うらぼんはもう済んだのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「あの月は旧の七月の、本当の盂蘭盆うらぼんの月だな。」
月を見ながら (新字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
最後に大祓え・盂蘭盆うらぼんまでに跨っている。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
盂蘭盆うらぼんが来た。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俳諧師はいかいし松風庵蘿月しょうふうあんらげつ今戸いまど常磐津ときわず師匠ししょうをしているじつの妹をば今年は盂蘭盆うらぼんにもたずねずにしまったので毎日その事のみ気にしている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
信者たちももう疑う余地はないので、善昌と相談の上で、七月の朔日ついたちから盂蘭盆うらぼんの十五日まで半月の間、弁天堂で大護摩おおごまを焚くことになった。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
分けて、盂蘭盆うらぼんのその月は、墓詣はかもうでの田舎道、寺つづきの草垣に、線香を片手に、このスズメの蝋燭、ごんごんごまを摘んだ思出の可懐なつかしさがある。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小倉にはまだ乞巧奠きこうでんの風俗が、一般に残っているのである。十五六日になると、「竹の花立はなたてはいりませんかな」と云って売って歩く。盂蘭盆うらぼんが近いからである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
盂蘭盆うらぼんを過ぎたあとの夜は美しく晴れて、天の川があきらかに空によこたわっている。垣にはスイッチョが鳴いて、村の子供らのそれをさがす提灯ちょうちんがそこにもここにも見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
日は傾きて風吹き酔ひて人呼ぶ者の声も淋しく女は笑ひ児は走れどもなほ旅愁を奈何いかんともするあたはざりき。盂蘭盆うらぼんに新しき仏ある家は、紅白の旗を高く揚げて魂を招く風あり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
春から、夏から、待ちに待つた陰暦の盂蘭盆うらぼんが來ると、村は若い男と若い女の村になる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
陰暦いんれき七月、盛りの夏が過ぎた江戸の町に、初秋の風と共に盂蘭盆うらぼんが訪れると、人々の胸には言い合わせたように、亡き人懐かしいほのかな思いと共に、三界万霊などという言葉が浮いてくる。
この夜こそ旧暦の盂蘭盆うらぼんであった。明るい明るい満月である。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
盂蘭盆うらぼんの夜、さんざんに飲んで酔ったあげく、戸田が
三界万霊塔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
枕山の妻は七月盂蘭盆うらぼんのころからまくらに伏していた。枕山は老母と病妻とをたすけて五十日ほど某所に立退たちのき、やがて三枚橋の旧居に還った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
盂蘭盆うらぼんの迎い火を焚くという七月十三日のゆう方に、わたしは突然に強い差込みに襲われてたおれた。急性の胃痙攣いけいれんである。
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
盂蘭盆うらぼんすぎのい月であつた。風はないが、白露しらつゆあしに満ちたのが、穂に似て、細流せせらぎに揺れて、しずくが、青い葉、青い茎をつたわつて、点滴したたるばかりである。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
盂蘭盆うらぼんが来たので、子供が酸漿ほゝづきを買つて来た。と、不意に、垣根に添ひ井戸端に添つてその赤い酸漿の無数に熟してゐるシインが浮んだ。老いた女がそれを手で採つてゐる……。
谷合の碧い空 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
春から、夏から、待ちに待つた陰暦の盂蘭盆うらぼんが来ると、村は若い男と若い女の村になる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
旧暦の盂蘭盆うらぼんが近づいて来ると、今年は踊が禁ぜられるそうだといううわさがあった。しかし県庁で他所産たしょうまれの知事さんが、僕の国のものに逆うのは好くないというので、黙許するという事になった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
盂蘭盆うらぼんの夜の出来事
盂蘭盆うらぼんの迎い火を焚くという七月十三日のゆう方に、わたしは突然に強い差込みに襲われてたおれた。急性の胃痙攣いけいれんである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
旦那だんな此方こっちだよ。……へい、それは流れ灌頂ではござりましねえ。昨日きのう盂蘭盆うらぼん川施餓鬼かわせがきがござりましたでや。」
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
露店のおでんやは汁粉やと共にそろ/\氷屋にかはり初めると、間もなく盂蘭盆うらぼんが近づいてくる。
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私が六歳むつつ位の時、愛宕あたご神社の祭礼おまつりだつたか、盂蘭盆うらぼんだつたか、何しろ仕事を休む日であつた。何気なしに裏の小屋の二階に上つて行くと、其お和歌さんと源作叔父が、藁の中に寝てゐた。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その後十日とおかばかりは何事もなかったが、盂蘭盆うらぼんが過ぎると、山城屋の女房お菊と、女中のお咲が奉行所へ呼び出された。
露店のおでんやは汁粉やと共にそろそろ氷屋にかわり初めると、間もなく盂蘭盆うらぼんが近づいてくる。
にぎり飯 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
加賀の安宅あたかの方から、きまって、尼さんが二人づれ、毎年のように盂蘭盆うらぼんの頃になると行脚をして来て、村里を流しながら唄ったので、ふしといい、唄といい、里人は皆涙をそそられた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)