理由わけ)” の例文
医師が診察して薬を飲まして病気を外に発散させると、ぼんやりとして物に迷ったようになった。母親はその理由わけを聞こうと思って
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
ええ実は、出鱈目にやったことではなくて、理由わけがあったのですが、最初に否定したものですから、つい云いそびれてしまいました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
貴方あなたのように世間を広く渡っておられる方に、その理由わけというのを聞いて頂いたら、何か適当な御意見が聞かれはしまいかと思って
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三国ヶ嶽へお登りにならなければならないとおっしゃって、その理由わけはまだ、ちっともお説き明かし下さらないではございませんか。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「兄さん、私が逃げたのは、それだけの理由わけじゃありませんよ。おまえだって、あまりじゃないか。人の身体を何だと思ってるのさ」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御自身は是非京都の方へと御望みなさったのを、そこには色々な理由わけもありましたろが、親ご様が無理にこちらへ取りきめて……」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが、どういう理由わけであったかは、ほんの一部の人にしか、ハッキリは分って居りません。なぜか、事が秘密のうちに運ばれたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貞吉は茶の間へ呼ばれて、さんざんしかられて、理由わけはなしに、丹精した花ガルタの画を、半できのまま取上げられてしまいまいた。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
だが、それ程まで洋服が好きなのは、深い理由わけのある事なので、その理由わけを聞いたなら、どんな人でも成程と合点がてんをせずには置かない。
その上、自分にはほんたうにその人を斬る理由わけがあるだらうか。なる程兄さんは殺された。しかし、兄さんも悪い点はなかつたか。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
何の故とも知らねども正太は呆れて追ひすがり袖を止めては怪しがるに、美登利顏のみ打赤めて、何でも無い、と言ふ聲理由わけあり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「大一座の振舞酒ならそんなこともあるだらうが、一人旅の客が、旅籠屋の吐月峯に酒を捨てるのは、理由わけのあることに違ひない」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「然うさね。美人だけれど少し鼻が低い代りに額が高いと確信しているんだろう。もなくてあゝ白粉をコテ/\塗る理由わけはない」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ういふ性質たちの男は克く北部の信州人の中にあつて、理由わけも無しに怒つたやうな顔付をして居るが、其実怒つて居るのでも何でも無い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それには何か深い理由わけがあるだらうと、村の人達は思つてゐましたが、湖の中におゐでになる水神様のほかには、誰も知りませんでした。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「うん、それもある。だが、もっと他にも理由わけがあるよ。だいち、この船は、どろぼうぶねだってことを、君は、知ってやしまい」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
細君が驚いてその理由わけを訊ねると、馬のことが心配になって眠れないから、厩舎に間違いでもないかを見に行くつもりだという。
全然まるで理由わけの無い反抗心を抱いたものだが、それも獨寢の床に人間並ひとなみの出來心を起した時だけの話、夜が明けると何時しか忘れた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何故なにゆえにこれを排斥するかの理由わけもわからず、ただなんかなしに「筋の違ったもの」として、これから遠ざかろうとしているのです。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
なるほど、おれは九等官だが、どういう理由わけで九等官なのだらう? もしかしたらおれは全然九等官なんかぢやないかも知れん。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
これにはもっともの理由わけがあった。他がどんなに綺麗でも、爪に一点の斑点しみがあったら、貴族の婦人とは見えないからであった。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勘次かんじたゞひゞきてながら容易よういめぬあつ茶碗ちやわんすゝつた。おつぎも幾年いくねんはぬ伯母をばひとなづこいやう理由わけわからぬやう容子ようすぬすた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
僕は忙しくてとてもそんな所へ出かける理由わけには行かぬというと、かく非常に忙しいからとても教えられないと体よく断られてしまった。
先生を囲る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
京都は頻りに能弁な眼をK夫人に向けていましたが、どういう理由わけか彼女は彼に対して非常に冷淡な態度を示しているのです。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
殊に弱年の其方を那程あれほどに目をかけ給ふ小松殿の御恩に對しても、よし如何に堪へ難き理由わけあればとて、斯かる方外の事、言はれ得る義理か。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
甲「なに肥料こやしをしないものはないが、直接じかに肥料を喰物くいものぶっかけて喰う奴があるか、しからん理由わけの分らん奴じゃアないか」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「えゝ、何うもそう行かない理由わけがあるもんですから。」と詳しく事情を知らぬ饗庭に答えていると、また長田が口を出して
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
わたしとしては何うといふ理由わけもわからず、これは一体何としたことなのか、失望ともつかぬ何とも彼とも云ひようもない
浪曼的月評 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
永助はこそこそ店へ引きかえすと、職人に代って客の顔を剃り、かねがね理由わけもなく母親に頭の上らぬ自分の顔をしょんぼり鏡に覗いてみた。
婚期はずれ (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「私は理由わけは云わずに、婚約を取消してしまいました。そして、私は——私は今日までずッと、十三歳のその少年の寡婦を通してきたのです」
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
おおかみが人間にんげんいのちろうとするのこそまちがっているが、自分じぶんがおおかみに、にわとりをやらなければならぬという理由わけはないであろう。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからのがれたい理由わけが何ぞあるのであろうと尼君も今では思うようになって、くわしいことは家の人々にも知らせないように努めていた。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その理由わけは彼女が幼い頃に、捕えようとした蝶々をベートーヴェンがハンケチを振ってすっかり追い払ってしまったために。
「あの、旦那からだが、理由わけは覚えがあるだろうから何も云わないが、今日かぎり、出入でいりをしないようにって、そう云いつかって来たのだが」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やつらを「殺しても、あき足らないほどなのに、場合によっては、下船どころか金まで出すとは!」全く、彼のくやしがるのは理由わけがあった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
それには色々な理由わけがあるであろうが、作者自身が「肩の凝らぬ読み物」を書くのだということに、一種責任が軽くなったような感じをもって
『心理試験』を読む (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
いや、磯でもなし、岩はなし、それの留まりそうな澪標みおつくしもない。あったにしても、こうひと近く、羽を驚かさぬ理由わけはない。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
如何どういう理由わけがあるのか知りませんが、僕は他人の自殺を知ってこれを傍観する訳には行きません。自滅というも自殺に違いないのですから。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
独身ひとりみりましたが、それにはふか理由わけがあるのです……。じつは……今更いまさら物語ものがたるのもつらいのですが、わたくしにはおさなときから許嫁いいなつけひとがありました。
男は滅多に紅顏の人のほかは好いてゐないのだが、いまあなたを見てゐると私にも蒼白顏を好まなければならない理由わけが判り出したと男は答へた。
はるあはれ (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
レアは窓臺の上に立つて、煙で曇つた窓の硝子ガラスを拭いてゐた。あの出來事にどんな理由わけがあつたかを私は知りたかつた。
家を出て円タクを呼留めて、車中の人になると、野村の頭には、之という理由わけもなく、ちいさい時の事が思い浮んで来た。
そのこみ入った理由わけはわし如き者に分ろうはずはございません。お出懸け先でございますか、それは全く存じません。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こんな理由わけであるから、古典学者などは別として普通一般の人々は植物の名は一切仮名で書けばそれでよいのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「まあ、そう泣いてばかりいないで、理由わけを話しなさい。何かね、やっぱり御主人との仲がしっくり行かないかね」
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
誰穢多村の出身と、知らぬを幸ひ、学校へそなたを預けて。我一人金貸世渡とせいも、手を広げず、人交際もせぬ理由わけは。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
勿論不要プヤオとか「等一等タンイタン」とか、車屋相手の熟語以外は、一言も支那語を知らない私に議論なぞのわかる理由わけはない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しかし、正勝さんも少し気がどうかしているのじゃないかなあ。理由わけもなく他人さ大金を分けてくれたりしてさ」
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それを見ただけでも随分胸が悪いのです。で、生れてから身体を洗わないという理由わけはどうかと言いますと、洗うと自分の福徳が落ちると言うのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この晩に限って何うした理由わけか、ふとこの「求縁」の文字が、当初はじめから異常な重大さでかれに関心を強いたのだ。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)