うみ)” の例文
琵琶湖の一番奧になつてゐる、もう餘呉よごうみに近い鹽津をまだ闇いうちに出帆した船が竹生島に朝の五時三十分に寄航するのである。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
刀は抜けてうみに沈んで、小刀しょうとうばかり帯に残つたが、したくがに成つた時、砂浜のなぎさに少年を落して、鷲は目の上の絶壁の大巌おおいわに翼を休めた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あとの二階部屋は、青白いうみになった。窓からす残月が町屋根を黒々浮かしている。初夏ながら肌さむい。星が飛ぶのがスーと見えた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貫く根元ねもとから。それから、行つて見たかや田沢たざはうみへ、そこの浮木うきぎの下のみづ。かういふのは幾らでも出ます。校歌の方は一遍さいに書かせてみます
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
このうみべり一帯は、いたるところ土龍の作業場といつたありさま。説教師は小尖塔ピナクルを仰いで、呪ひのさけびをあげる。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
かがやく日没の光りが、大氷原を血のうみのようにいろどった。私はこんな美しい、またこんな気味の悪い光景を見たことがない。風は吹きまわしている。
気をかして、女は剃刀の手を休め、客をして月明の諏訪のうみをながめ飽かしめんとした好意を、竜之助は断わって
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はじめは物のかたちなどほの/″\見えておりまして、おうみのうみの水の色が晴れた日などにひとみにあこうつりましたのを今に覚えておりまするくらい。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わが師曰ひけるは、こはカーコとてアヴェンティーノ山の巖の下にしばしば血のうみを造れるものなり 二五—二七
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
かかる事まのあたりに見しこそいと不思議なれとて、八二従者ずさを家に走らしめて残れるなますうみに捨てさせけり。
と例の桜のつえで、杉の間を指す。天を封ずる老幹の亭々と行儀よく並ぶ隙間すきまに、的皪てきれき近江おうみうみが光った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このごろ聞くと、村の人達が、うみの泥をあげて田を作ろうとすると、お前が亀に云いつけて、その人を喫い殺さすそうじゃ、不都合じゃ、その罰に毒蛇に云いつけて
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二年ほど前から近江のうみべりに新たに工を起された宮居の進捗しんちょくぶりや規模などについての情報が、しだいにはつきりした形をとりつつ飛鳥のうちに弘まるにつれて
春泥:『白鳳』第一部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
うみの面は油のように平らにトロリと湛えているが、しかし玲瓏れいろうと澄んではいない。底に無限の神秘を秘め、表面おもてに不安の気分を現わし、どんよりと拡がっているばかりである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勝家の軍がこの処まで来て見た時には、既に余吾のうみを中心として、秀吉の防備線が張られた後なのである。勝家この線を打破らなければ、南下の志は達せられないわけである。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
湯のうみは左手にその幽邃味の溢るゝばかりなすがたを、沈默のうちに見せてゐる。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
という哀婉あいえんな一章などを拾い読みしたりしつつ、ひる過ぎ、やっと近江おうみうみにきた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
就中なかんづく、老母は我が元来の虚弱にて学道まなびのみちに底なきうみを渡るを危ぶみて、涙を浮べて我が健全を祈るなど、都に多き知己にも増して我が上を思ふの真情、ありがたしともふとしとも言はん方なし。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
イエス・キリストがガリラヤのうみのほとりや野はらや町を歩かれた時、いつも十二人の弟子がみんなで従いて歩いたわけではなかつた。さてこれはイエスがペテロ一人だけ連れてゆかれた時の話。
イエスとペテロ (新字旧仮名) / 片山広子(著)
そして何か遥かなものばかりを眺めてゐるかのやうにいつも眼をうつとりとさせてゐるためか、白く切り立つた鼻筋の嶺の左右に据つてゐる眼は春霞に煙つてゐるうみのやうなひろさを感じさせた。
天狗洞食客記 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
冬のうみに見てゆく鴨の沖べにはつぶつぶとひたり羽音すらなし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
山のうへの榛名のうみの水ぎはに女ものあらふ雨に濡れつつ
なまけ者と雨 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
ヒマラヤのサルワマナサうみに宿りける月は明石あかしの浦の影かも
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
牛つれて松明たいまつしたる山少女やまをとめうみぞひゆけば家をしへける
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
絶えまなくらげるうみに影をうつして
ひしひしと玻璃戸はりど灯虫ひむしうみの家
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
名月やうさぎのわたる諏訪すはうみ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
うみの向ふのあつちの国の
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
深く溢れてうみとよどみ
先駆者 (新字新仮名) / 中山啓(著)
諏訪すわうみには魚多し
県歌 信濃の国 (新字新仮名) / 浅井洌(著)
うみそこひめくに
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
後閑ごかんの間道から風戸峠へと、やがて、悍馬かんばは死にもの狂いでのぼってゆく。——一面の鏡のように、やがて遙かに榛名はるなうみが見えてくると
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つらなわたる山々の薄墨の影の消えそうなのが、霧の中にへりめぐらす、うみは、一面のおおいなる銀盤である。その白銀しろがねを磨いた布目ばかりの浪もない。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこか「夜啼鶯」とでもいひたいが、——うみどりとおぼしいそのこゑは囁きつゞける。張りのある、わかい調子で。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
『北日本の脊梁せきりやうの。千秋万古ばんこやまのまに。偉霊の水をたたへたる。田沢のうみの水おちて。鰍瀬川かじかせがはとながれたり』
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
日輪の焔いとひろく天をもやすと見えたり、雨または河といふともかくひろがれるうみはつくらじ 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
といっても、事は近くで発見されたにしろ、うみは広い。霧というものがその広さを、無限大のものにぼかしている。よし広さに限度が出来たとしても、底は深い。
それでは村の人達に云いつけて、うみの中の島へ亀の宮をこしらえさして、その下へ亀の一族を住わすことにしたらよかろう、それには、今日鮒になった男を、元の人間にして
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ぶった切って水葬礼、一切後腹あとばらやめぬよう、うみへ沈めてしまいましょう。……櫛木氏」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寺務じむいとまある日はうみに小船をうかべて、網引あびきつりする泉郎あまに銭をあたへ、たる魚をもとの江に放ちて、其の魚の遊躍あそぶを見ては画きけるほどに、年を細妙くはしきにいたりけり。
よしや此恋諏訪すわうみの氷より堅くとも春風のぼや/\と説きやわらげ、凝りたるおもいを水に流さし、後々の故障なき様にせではと田原は笑顔えがおあやしく作り上唇うわくちびるしばなめながら、それは一々至極の御道理
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ここよりぞ富士は裾野の見わたしと水照みでりしづけき四つのうみ見ゆ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
山のうへの榛名のうみの水ぎはに女ものあらふ雨に濡れつつ
大夏おほなつ近江あふみの国や三井寺みゐでらうみへはこぶと八月雲す
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
うみを断つ夏木の幹のたゞ太し
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
うみはひかりて
「学生警鐘」と風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
桃園の梢のうみを、秋の小禽ことりが来てさまざまな音いろをまろばした。陽はうらうらと雲を越えて、朝霧はまだ紫ばんだまま大陸によどんでいた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はて、時ならぬ、何のための水悪戯みずいたずらぢや。悪戯いたずらは仔細ないが、ぶしの怪我けがで、うみちて、おぼれたのではないかと思うた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
われ澤に走りゆき、あしひぢとにからまりて倒れ、こゝにわが血筋ちすぢの地上につくれるうみを見ぬ。 八二—八四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
放生のうみへ舟を乗りだして、寝ておると、何時の間にかじぶんが魚になって、湖の中で泳いでおる、どうして魚になったろうと思いよると、そこへ他の魚が来て、海の神様が来たから
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)