さん)” の例文
旧字:
キリリコロコロ、私はいつもこの雨戸のさんに御厄介になっているもので御座います。キリリコロコロ、私のうちはここで御座います。
キキリツツリ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
また掛け合いばなしになる。——黙って聴け。痣の熊吉は雨戸を外したり、さんを切り取ったり、かなり器用なことをして忍び込むようだ。
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
くるりと入口へ仕切られた背中になると、襖のさんはずれたように、その縦縞たてじまが消えるがはやいか、廊下を、ばた、ばた、ばた、どたんなり。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぼくがあの旧式な銭箱という物を横にしてさんの隙間から銀貨を棒か何かで掻き出そうとしているキワどい所を見つけて「あらっ……」と
上の棚の裏側のさんで手の甲を擦る様になる、それが桟のかどだったりすると、そこに溜った煤のために、こんな跡がつく訳なんです
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
美禰子のそばけてうへへ出た。馬尻ばけつくらい縁側へ置いて戸を明ける。成程さんの具合がわからない。そのうち美禰子もがつてた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
書巻の眼はまりのように飛んで、戸締りのさんに向ったのは、その戸の外で、縁の近くに忍び寄った、外からの何者かの気配があるからです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仕切られているところの襖のさんの、隙間がかなりあいているので、隣りの部屋をのぞこうとしたら、十分のぞくことはできるのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私はそこで、重い燃えるような頭を、支えかねる両手でかろうじて支え、両ひじを膝につき、両足先を椅子のさんにかけていた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
神秘めいてぼんやり白んでいるガラスの上に、窓のさんがくっきりとえがき出されている。雷雨だな——とわたしは思った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そこへは入口の戸のさんを登って行けた。二階は太いはりが二本、三尺くらい離れてあるだけだ。その上に枯れた偃松の束がたくさん並べて置いてある。
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
跳びのいた栄三郎、横に流れた乾雲がバリバリッ! と音をたてて、障子のさんを斬り破ったと見るや、長光を宙になびかせて左膳の頭上に突進した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
家中の畳の数や電燈の数は固よりのこと、障子の格子こうし天井てんじょうさんまで数えている。数に兎角興味がある。この間銀座へ行く途中、電車に故障があった時
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
丈の低い小僧はそれでも僧衣ころもを着て、払子ほっすを持った。一行のたずさえて来た提灯はをつけられたまま、人々の並んだ後ろの障子のさんに引っかけられてある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ちょうど具合よく、あの男は仔鹿かよあぶらをうけて、右眼が利かないのですし、さんの間から洩れる月の光が、紙帳の隅の、その所だけを刷いているのですから。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
障子のさんにはべたッとほこりがへばりつき、天井には蜘蛛くもの巣がいくつも、押入れには汚れ物がいっぱいあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
さんは支柱に、しっかり縛りつけてある。我々の梯子は両側の部分に穴をあけるから、自然弱いものになる。
もう煤煙ばいえんがどこからか入って来て障子のさんなどをよごす大阪の町々のことを考え、それらの町のどこか奥ふかく脈々と動いているであろう不屈の意志を感じ——すると
(新字新仮名) / 島木健作(著)
私は窓のさんを力をこめて掴みながら、何ものにか襲いかかりたいような空しいさびしさを感じた。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
おれは小用をしに立って、くぐさんをはずして表に出る。暗さは暗し、農家のこととてかわやは外に設けてある。ちょうど雨滴落あまだれおちのところで物につまずいて仰向あおむけに倒れたね。
地は黒塗で、牡丹の花弁かべんは朱、葉は緑、幹は黄、これに金箔きんぱくをあしらいます。蓋には二つのさん、胴には二段のたが、その間に線描せんがきの葉を散らします。作るのは盛岡であります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かゝる行装ぎやうさうにて新婚しんこんの家にいたるゆゑ、その以前雪中の道を作り、雪にて山みちのやうなる所は雪を石壇いしだんのやうにつくり、あるひは雪にてさんじきめく処を作りて見物のたよりとす。
夜中に起きて、まぐさを一口食うんです。つのが飼棚のさんにあたってことこというのが聞こえたりします。冬は、奴らの吐き出す息でからだが温まる。しかし、夏はよく外へ寝ました。
などいって、障子しょうじさんへなど留まらせると、本当に、赤蜻蛉とバッタが陽気の加減で出て来ているように見える。老人は得意になって、そのままぶらり何処かへ出て行ってしまう。
板は二つに割れるようになって、其板それに二つのさんがあってその桟をもって二つの板を合せて、そうしてそこへ錠をおろしたもので、その板の上の紙にチベット語で罪状が記してある。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
乱暴をするといってもせいぜい障子しょうじさんを壊すぐらいのことしか出来る筈がない。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹屋で売る竹よりも節が高くて、さんをつけるに工合がよかった。考えて見ると、竹馬も長崎凧も、根っ木も、ブン/\も、私達子供の頃は皆自分の手で作った。小刀で手をよく切った。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
省三はさんを打って滑らないようにしたその船板の上を駒下駄こまげたで踏んでボートの方へおりて往った。船板はゆらゆらとしなえて動いた。ボートは赤いしごきのようなものでつないであった。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
幸子は一人おもて格子こうしさんを両手で握ってごとごとゆすっていた。彼女は二つだ。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
床にさんがあって、脚の安定が危かったが、割れたままのガラス窓から吹きこむ縮みあがるような隙間風すきまかぜもなく、暗くても戸を閉ざしたら人いきれで暖かかったし、座席の設備がないかわりに
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ある所では路が全く欠けてしまって、向うの崖からこちらのがけへ丸太を渡したり、さんを打った板をけたり、それらの丸太や板を宙でつなぎ合わして、崖の横腹を幾曲いくまがりも迂廻うかいしたりしている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もう内さんをおろしてしまったようで、あきませんでした。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
静かに障子のさんからおちたよ
冬に死す (新字新仮名) / 竹内浩三(著)
こころのさんに雪が積む
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
檻の中へ入れられた子熊は輾転てんてんとして、烈しく悲鳴を立てました。その時ずかずかとせ寄った米友は、大八車のさんを後ろから引っぱって
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三四郎は要目垣かなめがきのあいだに見えるさんをはずそうとして、ふと、庭の中の話し声を耳にした。話は野々宮と美禰子のあいだに起こりつつある。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「夜中にそっと忍んで来て、主人を殺した上、何かうまい工夫で障子を締め、外からさんをおろして、そっと引揚げたかも知れないじゃないか」
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
がたっと、障子のさんがつよく鳴った。又四郎は立つやいな、勢いよく、そこを開けた。そして一足跳びに縁をこえ、外の闇に突っ立っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くだん泉水せんすいを隔てて寝床のすそに立つて居るのが、一間いっけん真蒼まっさおになつて、さんも数へらるゝばかり、黒みを帯びた、動かぬ、どんよりした光がさして居た。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いきなりとびらさんに足をかけると、なんなくそれを乗り越して、建物の入口らしい箇所へ駈けつけ、そこのドアを叩いた。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すぐ前に、さんのほそい障子をてきった小部屋がひとつ、何かをのんでいるように妙にシンと静まり返っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
見ると、その雨戸のさんの上に小さい小さい虫が一匹、洋服を着て眼鏡を掛けて、揺れ椅子に腰をかけて書物を読んでいます。今の音は虫が揺れ椅子をゆする音でした。
キキリツツリ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
その光景をさん窓越しに眺めている滝人には、いささかもそうした物凄い遊戯が感じられず、まったくその数瞬間は、緊張とも亢奮とも、なんともつかぬ不安の極点にあった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
蛇は二人の正面になった柾の方へにょろにょろとっていた。定七は蛇の方を見い見いななめに往って表庭と入口の境になった板塀の方へ往って、そこにある耳門くぐりさんけて出て往った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
眩暈ナラ大概二三分間デ平常ニ復スルノダガ、イツマデタッテモ物ガ二重ニ見エルノデアル。障子ノさん、便所ヤ風呂場ノタイルノ目地めじ、ソレラガスベテ二重ニ見エ、カツ少シズツゆがンデ見エル。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其所そこで、父は、とある荷物の中から、一つの網戸を引っぱり出し、それを床店の屋根に掛けました。そうして、私の尻を押すようにして、私を屋根にのぼらせました(戸のさんを足場にしてじ上る)
そこで両人は再び協力し、誰がトランクを天井のさんに釘をうってそれへ引掛けたかを怪しみながら、机に椅子を積み重ね、箒や蝙蝠傘こうもりがさやノックバットまで持ちだしてそのトランクを下ろそうと試みた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ヘエー、内からさんをおろしてあるはずですが、不思議に雨戸が一枚開いていたそうです。戸を閉め忘れるなどということのない御主人ですが」
水入みずいれ餌壺えつぼ引繰返ひっくりかえっている。あわは一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠のさんにかじりついていた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジリジリと瓦のさんに足の指をかけて詰め寄ると、かれは、四囲の叫喚きょうかんも耳になく、八方の御用提灯も目にないものの如く
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)