ステツキ)” の例文
牧師は慌ててステツキ引込ひつこめた。ステツキといふのは、さる富豪ものもち寡婦ごけさんが贈つて来たもので、匂ひの高い木に金金具きんかなぐが贅沢に打ちつけてあつた。
『今日は奈何して、那麽ああ冷淡だつたらう?』と、智恵子の事を考へ乍ら、信吾は強くステツキを揮つて、路傍みちばたの草を自暴やけ薙倒なぎたふした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
げ、ばうり、ステツキはしなどして、わあわつとこゑげたが、うちに、一人ひとりくさおちをんな片腕かたうでたものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「基督も『せまき門よりれよ』と仰有つたぢやないか、お前達がこんなステツキなぞ持つてたら窄い門を入るのに邪魔にならあ。」
げてやらうと、ステツキで、……かうくと、せみはらに五つばかり、ちひさな海月くらげあしやうなのが、ふら/\とついておよいでる、つてゐやがる——ゑびである。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
信吾は五六歩歩いて、思切悪気おもひきりわるげに立留つた。そして矢張やつぱり振返つた。目は、淡く月光つきかげを浴びた智恵子の横顔を見てゐる。コツ/\とステツキさきで下駄の鼻を叩いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「御心配さつしやりますな。その窄い門とやらに入ります前に、わしステツキを売る事を知つとりますな。」
ステツキるやいなや、畜生ちくしやうつて、まど飛下とびおりると、うだらう、たゝきもひしぎもしないうちに、へびが、ぱツと寸々ずた/\れてとをあまりにけて、蜿々うね/\つてうごめいた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
『ハハヽヽ。』と笑つて信吾はステツキさきでコツ/\石を叩き乍ら歩いたが
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と怒鳴りつけて、厭といふ程しりぺたステツキでどやしつけたものださうだが、新太郎少将はそんなステツキを持たなかつたから城下の人達はしりぺたを叩かれる心配だけは無かつた。
んで、ト引返ひきかへした、鳥打とりうちかぶつたをとこは、高足駄たかあしだで、ステツキいためうあつらへ。みちかわいたのに、爪皮つまかはどろでもれる、あめあがりの朝早あさはや泥濘ぬかるみなかたらしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
備前の新太郎少将が、ある時お微行しのびで岡山の町を通つた事があつた。普魯西プロシヤのフレデリツク大王は忍び歩きの時でも、いつもにぎふとステツキり廻して途々みち/\なまものを見ると
さま/″\のをんな引込ひつこむのをとしたが、當春たうしゆん天氣てんきうらゝかに、もゝはなのとろりと咲亂さきみだれた、あたゝかやなぎなかを、川上かはかみほそステツキ散策さんさくしたとき上流じやうりうかたよりやなぎごとく、ながれなびいて
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
生意氣なまいきステツキつてつてるのが、くるめくばかりにおもはれました。
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
動悸どうきわかりませう、ふるへるのを御覽ごらんなさい、ステツキにもはづかしい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
よこステツキした、をとこまたやゝさかしたはなれたのである。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……ほそステツキたないのが物足ものたりないくらゐなもので。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)