拙者せっしゃ)” の例文
よってかの家を彩牋堂とこじつけ候へども元より文藻ぶんそうに乏しき拙者せっしゃ出鱈目でたらめ何かき名も御座候はゞ御示教願はしく万々ばんばん面叙めんじょを期し申候
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
若君のお刀は伝家の宝刀、ひとの手にふれさせていいしなではありませぬ。また、拙者せっしゃつえ護仏ごぶつ法杖ほうじょうおいのなかは三尊さんぞん弥陀みだです。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お見受け申せば、御女中二人の旅のようでござるが、どちらへ往かれる、拙者せっしゃはこの村に住居いたす者で、怪しい者でござらぬ」
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
殿との、功は拙者せっしゃ一人ひとりのものではありませぬ。こ、この朝月あさづきも働きました。このことを、戦功帳に書いていただくことはあいなりませぬか」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
どうもね、それは拙者せっしゃは昨夜人の出入のたびに怒鳴りつけたり追いかけたりしたかも知れないけれど、どうも、よく覚えていないのでね。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「おう、左様か。拙者せっしゃ箱根下山の際に、ちょっと数えて見たら、十二名のように見受けたが、それでは他の旅人まで数え込んだのであろう」
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「恐れながら、恐れながら拙者せっしゃとても、片時へんしも早く、もとの人間に成りまして、人間らしく、相成あいなりたう存じます。とうげを越えて戻ります。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
目科は威長高いたけだかに巡査に向い「貴官は拙者せっしゃしりませんか、拙者は目科です、是なる若者は拙者と一処いっしょに来たのです」目科の名を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「こういう仲になった貴様の便利が計っていられるか? それとも、拙者せっしゃに伴れがあるので、怖ろしくなったのか?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「大汽船エンプレス号が百万ドルの金貨を積んで横浜に入港しているが、あれは拙者せっしゃが頂戴するから、悪く思うなよ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼奴きゃつは、ちゃんと心得ていて聞いたのだが、聞かれると、返答せん訳には参らぬ。拙者せっしゃが答えると、じっと、拙者の顔を、ちらっと、天一坊殿の顔を——
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ギニョール——したが拙者せっしゃは出られないのでござる。なぜと申せば、拙者の股引パンタロンめをとびがさらってまいったゆえ。
働き出し玉う御容貌ごきりょうは百三十二そうそろ御声おんこえうぐいす美音錠びおんじょう飲ましたよりまだ清く、御心ごしんもじ広大無暗むやみ拙者せっしゃ可愛かわゆがって下さる結構づくゆえ堪忍ならずと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
拙者せっしゃは貴殿に深きうらみを抱くものである。長の年月としつきを、拙者は、ただ貴殿への復讐準備の為についやして来た。今や準備は全く整った。愈々いよいよ恨みをはらす時が来たのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ようし、それでは拙者せっしゃがひとりで。」と言いながら危い足どりでその舟に乗り込み、「ちゃんとオールもございます。沼を一まわりして来るぜ。」騎虎きこいきおいである。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そうだ。用があるのだ。拙者せっしゃは、まだこの裟婆しゃばに用があるのだ」喬之助は、夢みるような声で
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
拙者せっしゃの前にこうしていようとは、お前の両親も知らぬであろう、アア今頃は何処どこにどうしているだろうと、暑いにつけ、寒いにつけお前の事を心配しているに相違ない
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
貴君あなたの親御より十万円恩借おんしゃくありて、今年返済の期限きたり、万一延滞そろ節は所有地家蔵いえくらを娘諸共もろとも、貴殿へ差上候さしあげそろと申す文面の証書をしたゝめて、残し置き、拙者せっしゃは返金に差迫さしせま
拙者せっしゃこそは浪人にて人丸左陣と申す者。御意ぎょい得たきことござりまして遥々はるばる参ってござります」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
拙者せっしゃ性癖有時吸之、若而人じゃくじじん之未能、いささか因循至今、唯しばらく酒当而已歟のみか
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
明治六年、維納ウィーン府大展覧会の開場のとき、拙者せっしゃもその差遣さけんせられた官員の一人でありました。当時〈(そのとき)〉目に触れ、耳に聴くところの利益は、種々しゅじゅ様々でありました。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
拙者せっしゃ事幼少の頃より御貴殿様に一方ならぬ御迷惑相掛け、千万申訳無之これなくお詫び申上候。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いやいや、拙者せっしゃが借りようと申すのではない。どうじゃ。金貸しは面白かろう」
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夫れでも拙者せっしゃと話は出来ないかと少しく理屈をいった所が、そう云うけなら直ぐにうと云うので、夫れから公使に面会して戦争中止の事を話掛はなしかけると、なか/\聞きそうにもない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ああ水戸、拙者せっしゃにもあこがれの地です、だがもう行ける望みはない、このとおりのからだですから……そして、水戸へいかれるとすると、おそらく東湖先生をおたずねなさるのでしょうね」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「先ほどから拙者せっしゃの後を跟けているようだが、何か用事でもあるのかな」
生まれつきの馬鹿者ばかもののゆえ、かかるものを切っては殿の刀のけがれ、いかがなものでしょうか、もう一度外のことをうらなわせて、それで当たらずば殿の前にて拙者せっしゃが真っ二つにいたしましては。
とんまの六兵衛 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「無礼者……とは、かく申す拙者せっしゃのことですよ……酔っている? 酔っているかと問われれば、酔っています。……ガンベの酔ったのを見たことがありますか……現在ははは……現在を除いてさ……」
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
拙者せっしゃが応対して参ろう」
拙者せっしゃが替ろう——」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
また、武田たけだの若君ともあるおんかたが、拙者せっしゃやかたへおいでくださったのは天のおひきあわせ。なにとぞ幾年でもご滞留たいりゅうをねがいまする。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人田舎もののしょうがには、山の芋を穿ってうなぎとする法を飲込んでいるて。拙者せっしゃ、足軽ではござれども、(真面目まじめに)松本の藩士、士族でえす。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大博士が拙者せっしゃにきくとは意地が悪いな。まア、笑わずに素人探偵の意見をきいて貰おうか。珠緒さんが王仁の寝室から立ち去ったのが十一時十五分。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
川音清兵衛かわおとせいべえ殿とのにまで申しあげます。拙者せっしゃの乗馬朝月あさづきが、こよい異様いようにさわぎまして、くらをかみます。そこで、鞍をつけてやりますと、静かにあいなりました。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
いれかえて、新らしい気もちになってかかれ、決して其の方たちにお咎めはない、お咎めがあれば拙者せっしゃじゃ
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「いや、遊びの心で参詣ではあるまい。大師信心……どうか拙者せっしゃの代参として、二人で行って貰いたい」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
拙者せっしゃがお尋ねの藪原長者、何かご用でもござるかな?」長者はぞんざいに云うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
侍「とんだ良さそうな物、拙者せっしゃ鑑定かんていするところでは備前物びぜんもののように思われるがうじゃな」
道ならぬ恋に迷ひ家中かちゅうの者と手に手を取り駈落致したりとのうわさ、世に立ち候時は、師匠の御身分にもかゝはり申べく候。今のうちなれば拙者せっしゃの外は誰一人知るものなきこそさいわいなれ。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御老中松平信祝のぶとき様より、御取調べの御使の参られましたせつにわかのこととて、取調べもつかまつらず、と、申しまするは、拙者せっしゃが当地へ赴任仕らぬ前のこととて、一向に何事も存じ申さず
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
爆発物は妾の所持品にせんといいたるに、いな拙者せっしゃの所持品となさん、もし発覚せばそれまでなり、いさぎよばくかんのみ、かまえて同伴者たることを看破かんぱせらるるなかれと古井氏はいう。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
わしらも、後悔こうかいしておる。ちと悪ふざけの度が過ぎました。それも、仲間なかまうち——と思えばこそ、まったく、貴殿のことは、拙者せっしゃなど、失礼ながら、弟のように思っておりましたからな。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おお、拙者せっしゃも、たしかに一度逢ったすがたと思うたが、では、あの時の——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
成程昨今のドルラルは安くない、しかし三井にはズットその前安い時に買入れた弗もあるだろう、拙者せっしゃのこの一歩銀いちぶぎんはその安い弗と両替して貰いたいと云うと、三井の手代は平伏して、かしこまりました
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
委細いさい承知。みなまで仰言おっしゃるな。つまりですナ、この牛君……牛様に武芸万般を仕込んでぜひともヘルキュレスを闘技場アレエヌの砂に埋葬しようという。……それならば秘策は万事拙者せっしゃの方寸にありますヨ。
拙者せっしゃに、……あの狼を拙者に、……」三之丞はにやりと笑った。
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それなら拙者せっしゃだ、この伊坂権内いさかごんない、左利きの上に三人力だぞ」
悪人? さあ、それが拙者せっしゃにはどうもわからなくなったんだ。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「羅門氏にはまだご承知あるまいが、拙者せっしゃは、しばらく見なくとも忘れはせぬ。あの若者こそ、先刻お話しいたした、塙江漢はなわこうかん先生のご子息じゃ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殿との、早々、御城おしろへお退しりぞきなされませ。拙者せっしゃ朝月あさづき先登せんとうつかまつります。朝月、一の大事、たのむぞ」
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)