悉皆しつかい)” の例文
何れも皆立派な美徳を具へた神様達ぢやが、わが天理王の命と申すは、何と有難い事でな、この十柱の神様の美徳を悉皆しつかい具へて御座る。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
見性けんしやうしたに、うれしさのあまり、うらやまあがつて、草木さうもく國土こくど悉皆しつかい成佛じやうぶつおほきなこゑしてさけんだ。さうしてつひあたまつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
又た彼の多年苦心して集めし義太夫本、我を得て沈滅の憂ひなきを喜び、其没後には悉皆しつかい我に贈らんと言ひければ、我は其好意に感泣しぬ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
然るに悉皆しつかい成就の暁、用人頭の爲右衞門普請諸入用諸雑費一切しめくゝり、手脱てぬかる事なく決算したるに尚大金のあまれるあり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
何が楽しみに轅棒かぢぼうをにぎつて、何が望みに牛馬うしうまの真似をする、ぜにを貰へたら嬉しいか、酒が呑まれたら愉快なか、考へれば何もかも悉皆しつかい厭やで
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さいはひ娘さんも、家にゐた。私は客間に通され、娘さんと母堂と二人を前にして、悉皆しつかいの事情を告白した。ときどき演説口調になつて、閉口した。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
石鏃せきぞく製造せいぞうをわるにしたが悉皆しつかいやがら固着こちやくされしにはあらずして、餘分の物は種々の入れ物にたくはかれしものと見ゆ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
... 其蔵儲は今悉皆しつかい久原くはら家の有に帰し居候。」按ずるに初編の「四月」は恐くは再三版であらう。藤陰は六月発兌の二編を、早くも五月末日に贖ひ得たのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
こゝ五六年も経つと、山は悉皆しつかいがらん堂になつてしまふかも知れない、それには今迄のやうに宝物を物の判らない、よくぱり僧侶ばうずまかせて置いては安心が出来ない、なんでも博物館を一つ拵へて
なにたのしみに轅棒かぢぼうをにぎつて、なにのぞみに牛馬うしうま眞似まねをする、ぜにもらへたらうれしいか、さけまれたら愉快ゆくわいなか、かんがへればなに悉皆しつかいやで
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かへさでは我あるべきか、今は一切世間の法、まつた一切世間の相、森羅万象人畜草木しんらばんしやうにんちくさうもく悉皆しつかいわがみあだなれば打壊うちくづさでは已むまじきぞ、心に染まぬ大千世界、見よ/\
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
徳川氏は封建制度を完成したり、その「完成」とは即ち悉皆しつかい日本社会に当篏あてはめたるものにして、再言すれば日本種族の精神が其制度に於て「満足」を見出すほどに完備したるなり。
午後の三時、規定おきまりの授業は一時間前に悉皆しつかい終つた。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
悉皆しつかいあやまりのやうに思はるれど言ふて聞かれぬものぞとあきらめればうら悲しきやうに情なく、友朋輩ほうばいは変屈者の意地わると目ざせどもおのづから沈みゐる心の底の弱き事
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
悉皆しつかいの詩人哲学者小説家を以て、ベベルの高塔を築くものなりとは言はれざりし、神知霊覚といふ事は先生も亦た之を認められたり、赤心を以て観るといふ事も大に吾人の心を得たるものなり。
人生の意義 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
嫁入よめいりてより七ねんあひだ、いまだにりてきやくしこともなく、土産みやげもなしに一人ひとり歩行あるきしてるなど悉皆しつかいためしのなきことなるに、おもひなしか衣類いるいいつもほどきらびやかならず
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さいは海軍かいぐん鳥居とりゐ知人ちじん素性すぜうるからで利發りはつうまれつきたるをとこあるよし、其方そなた異存いぞんなければれをもらふて丹精たんせいしたらばとおもはるゝ、悉皆しつかい引受ひきうけは鳥居とりゐがして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
考へれば何も彼も悉皆しつかい厭やで、お客樣を乘せやうが空車からの時だらうが嫌やとなると用捨なく嫌やに成まする、呆れはてる我まゝ男、愛想が盡きるでは有りませぬか、さ、お乘りなされ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とてしたいて歎息たんそくこゑらすに、どうもなんとも、わし悉皆しつかい世上せじやうことうとしな、はゝもあのとほりのなんであるので、三方さんばう四方しはうらちことつてな、第一だいいち此娘これせまいからではあるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
土産もなしに一人歩行あるきして來るなど悉皆しつかいためしのなき事なるに、思ひなしか衣類もいつもほどきらびやかならず、稀に逢ひたる嬉しさに左のみは心も付かざりしが、聟よりの言傳とて何一言の口上もなく
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いまだにに入りて客に来しこともなく、土産もなしに一人歩行あるきして来るなど悉皆しつかいためしのなき事なるに、思ひなしか衣類もいつもほどきらびやかならず、まれひたる嬉しさにさのみは心も付かざりしが
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ちゝ仕業しわざはゝ處作しよさあね教育したても、悉皆しつかいあやまりのやうにおもはるれどふてかれぬものぞとあきらめればうらかなしきやうなさけなく、友朋輩ともほうばい變屈者へんくつもの意地いぢわるとざせどもおのづかしづこゝろそこよわこと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)