さが)” の例文
DS の昼と悪魔の夜と交々こもごもこの世をべん事、あるべからずとは云い難し。されどわれら悪魔のやからはそのさが悪なれど、善を忘れず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一たび愛慾の迷路めいろに入りて、七五無明むみやう七六業火ごふくわさかんなるより鬼と化したるも、ひとへに七七なほくたくましきさがのなす所なるぞかし。
そを何ぞといふに、影を顧みて自ら喜ぶさがありて、難きを見て屈せざるうまれなきこと是なり。そもこの弱點はいづれの處よりか生ぜし。
出づれば、その道まさり、その伴ふ星またまさる、しかしてその己がさがに從ひて世の蝋をとゝのかたすこといよ/\いちじるし 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
記されてある如く既にその正覚しょうがくを取ったというからには、右の事実はもはや動かすことが出来ぬ。至極のさがには相対する質がない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
つまは実直なるさがなれば家業におこたることなく、妻も日頃謹慎の質にして物多く言はぬほど糸針の道には心掛ありしとのうはさなり。
鬼心非鬼心:(実聞) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そして上にずらりと書いてあるのは、すべて南斗、北斗の星の名まえ、下にはその星のさがをもった人間の名が記されておりまする
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蕪村が照射と射干との区別を知らざるはずはなけれど、かかる事に無頓著のさがとて気のつかざりしものならん。近江も大身おおみと書くべきにや。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ただかの絳雪を伴なふごとにたやすくはえも来ず。怨ずるに香玉、『わが情癡のさがには似もやらで、絳雪物に拘らはねば、こころ自からゆるやかなり。』
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それらの果敢なきさがゆゑに、それらの現象なり、事物なりを、もつともつと新しい理解をもつて把握し、それらのものを變化せしめなければならない。
我がさがは生れて粗野なりければ、初めは嗜むでものを感ぜしが、いつしかその嗜は病の如くに、心はともすれば顫へて止まらず、幾たびか人に軽んぜらる。
測量船拾遺 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
されど心ごうにして気韻高きさがなれば、はしたなく声を立てず、顛倒てんどうして座を乱さず、端然としていたまえり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
邸内を歩くにも忍びに歩かなくてはならぬと云ふ拘束を豪邁なさがを有してゐる壮年の身に受けて、綱宗はをさない亀千代の身の上を気遣きづかひ、仙台の政治を憂慮した。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
あのように嫌いぬかれて、なおもこころひそかに男を思うなどということは、お藤のさがでも、またそんなしおらしい年齢でもなく、頭からできない芸当であった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父と母さが合はず、さびしくましき。若きより悲しかりにき。今老いて、七十路過ぎて、さらさらに何の事なし。頼りなく頼りますかも、まさびしくしづけかるかも。
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
女性のつつましやかなさがとして、その上になおあらわに迫って来ることがどうして出来よう。そういう心理からかの女は失望して、今回のような事を起したのかも知れぬ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
流通大自在のさがを享け、新たなる生命を賦与せられたものの特権として盛んに奔放する。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
生れながらのさがもあろうが、ピッタリと、ものに廻りあわぬ悲しい人たちなのである。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
恋の曲者くせもの、代言人、物事に熱くなるさが乳母うば、それに猥褻わいせつな馬鹿話、くだらぬ妄想もうそうは、すべて運星のめぐりに邪魔をいたします……さあ、いらっしゃい、わたしたちの力を頼めば
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冬次郎様とせめぎ合い、幾変転幾安危、その間死者あり生者あり、失脚せし人、乗り出す人あり、浮世のさがをきわめましたが、ふたたびそなたを駕籠にのせ、冬次郎様お屋敷へ差し立てまして
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「邪神は年経としへたるおろちなり、かれがさがみだらなる物にて、牛とつるみてはりんを生み、馬とあいては竜馬りゅうめを生むといえり、このまどわせつるも、はた、そこの秀麗かおよきたわけたると見えたり」と云っていましめた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
悲しきさがになりました。まあ海底の異端者とでもいつたやうなところですかね。だんだん故郷の竜宮城にも居にくくなりましてね、しかし、あそこは遊ぶには、いいところだ、それだけは保証します。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
女子のさがの斯くなさけふかきに、いかで横笛のみ濁り無情つれなかるべきぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
はなやかに咲けども何かさびしきは鶏頭の花のさがにかあるらむ
秋草と虫の音 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
『秋の声まづ逸早いちはやく耳に入るかゝるさがつ悲むべかり。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おしはかるだに、そのさがおそろしときく荒神あらがみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
素腹すばらさがうらみわび、れて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
さがて、またなれひて、その熟実うみみ
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
かなしきさがをひとりさびしむ
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
みづからたのむそのさが
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
あしき鳥のさがなり
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
そのさが
悦び多きさがより流れ出づるがゆゑに、このまじれる力、物體の中に輝き、あたかも生くる瞳の中に悦びのかゞやくごとし 一四二—一四四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だから、なにも知らず十一にもなった不知哉丸は、わがままいッぱいで、こわいもの知らずな小暴君のさがをいよいよつのらせていたのである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聲は類なくめでたし。おん身にかれが歌ふを聞かせまほし。法皇の伶人もこれには優らざるべし。そが上にさがすなほなる兒なり。善き兒なり。
蕪村が照射と射干との区別を知らざるはずはなけれど、かかることに無頓着のさがとて気のつかざりしものならん。近江も大身と書くべきにや。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
されどわれ、わがにて見、わが耳にて聞きたるこの悪魔「るしへる」を如何いかにかして疑う可き。悪魔またさが善なり。断じて一切諸悪の根本にあらず。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
村人某、かねて無頼のさがなりけり。村外に遊びけるをり、少婦の馬に乗りて来るを見て、同遊つれの者を顧みていへらく、おのれ彼の少女をして笑はしめむと言ふ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
されど剛愎ごうふく我慢なるそのさがとして今かくとりこはずかしめを受け、賤婦せんぷの虐迫に屈従して城下のちかいを潔しとせず、断然華族の位置を守りてお丹の要求をしりぞけたるなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが畢竟ひっきょうは迷いに過ぎない。そのため本来清浄なさがに濁りが来るのである。醜さとはこの濁りの色である。しかしこのために救いの誓いが弱められたことはない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
父と母さが合はず、さびしくましき。若きより悲しかりにき。今老いて、七十路過ぎて、さらさらに何の事なし。頼りなく頼りますかも、まさびしくしづけかるかも。
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われさがとして人とともに歎き、人とともに笑い、愛憎二つの目もて久しく見らるることを嫌えば、かかる望みをかれに伝え、これにいいつがれて、あるはいさめられ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かれがさがみだりなる物にて、二八二牛とつるみてはりんみ、馬とあひては竜馬りようめを生むといへり。二八三此のまどはせつるも、はたそこの秀麗かほよき二八四たはけたると見えたり。
悲しきさがになりました。まあ海底の異端者とでもいつたやうなところですかね。だんだん故郷の龍宮城にも居にくくなりましてね。しかし、あそこは遊ぶには、いいところだ、それだけは保證します。
お伽草紙 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
『秋の聲まづ逸早く耳に入るかゝるさがつ悲むべかり』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おしはかるだに、そのさがの恐しときく荒神あらがみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
素腹すばらさがを恨みわび、夜を泣き濡れて
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
仮に堅めた今日けふさが
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
恋ふるわがさがなれば
信姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
汝等は天の左右しあたはざる智力を汝等の中に造るもの即ち天より大いなる力、まされるさがもとに屬して而して自由を失はず 七九—八一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)