彼様あん)” の例文
旧字:彼樣
屹度何時までも乃公を此処に入れて置こうと思って、何時までも癒らないでいるだろう。彼様あんな悪い友達を持つと本当に困ってしまう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
猪子蓮太郎との関係だつても左様さうでせう。彼様あんな病的な思想家ばかり難有ありがたく思はないだつて、他にいくらも有さうなものぢや有ませんか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうおこつてはこまる喧嘩けんくわしながら歩行あるく往来わうらいひとわらふぢやアないか。だつてあなたが彼様あんなことばつかしおつしやるんだもの。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
此奴こいつア成程姐さんの云う通りなんでも彼奴あいつい旦那どりをしてこっそり金を呉れる奴が有るにちげえねえ、彼様あんなけちな千代紙で貼った糸屑を
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
逸散いっさんに駈て来て、ドカッと深い穴へ落ちたら、彼様あんな気がするだろうと思う。私は然う聞くと、ハッと内へ気息いきを引いた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼様あんなことをいう処を見れば、今朝の使者が何処から行ったということを長田のことだから、最う見抜いているのではなかろうか、とも思いながら
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ズウズウしい女達おんなたち順番じゅんばんになった彼女を押のけてミシンを占領したりするので、彼様あんな処へは最早もう行くのはいやでござりますと云って、到頭とうとう女中専門になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それで彼様あんな風に為つたのだと言ふけれど、単に愛情の過度といふのみで、それで人間が、おのれの故郷の家屋を焼くといふ程の烈しい暗黒のきやうに陥るであらうか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
何処を押せば其様そんが出る? ヤレ愛国だの、ソレ国難に殉ずるのという口の下から、如何どうして彼様あん毒口どくぐちが云えた? あいらの眼で観ても、おれは即ち愛国家ではないか
主『なアに、皆柴漬ふしつけです。それでなくては、彼様あんなに揃ひやう無いです。』
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
けれどもね、おしょうさん僕が若し彼様あんな不幸に会わなかったら、今の僕では無かったろうと思うと、残念で堪らないのです。今日が日まで三年ばかりで大事の月日が、ほとんど煙のようにって了いました。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
『でも、左様ぢや御座ませんか——新平民だつて何だつて毅然しつかりした方の方が、彼様あんな口先ばかりの方よりは余程よつぽど好いぢや御座ませんか。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あたしだって彼様あんな窮屈なとこくよか、芝居へ行った方が幾らいか知れないけど、石橋さんの奥様おくさんに無理に誘われてことわり切れなかったンだもの。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
己が云やアいやというのに極っている何故ならばふすまともにする妾だから、義理にも彼様あんな人はいやでございますと云わなければならん、是は当然だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「へッ! 此の間、彼様あんなに悪い人間のように言っていたものが、何うしてまた、そうにわかに可哀そうになった?」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
元はと言へば気ばかり有つて、体が自由にならぬから、それで彼様あん自暴自棄やけな真似をるのであるのに……と心から同情をへうさずには居られなかつたといふ事だ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
乃公に彼様あんな巧い事が書けるものか。「先生御夫婦は両親の如くいつくしみ被下候くだされそろ」なんて乃公が言うものか。けれども家では乃公の頭脳あたまから出たものと信じているらしい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
先生にとって人のかたちをとった一番の宝は、あなたでした。臨終の譫言うわごとにもあなたの名を呼ばれたのでも分かる。あなたは最後までも先生の恋人でした。あなたの為に先生は彼様あんな死をされた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なにしろ彼様あんな田舎にクスブつて居たんぢや仕様がないからと思つて、叔父さんが東京へ出られるやうにして遣つたんサ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くたばろうと何うしようと世話にはならねえ、とう云うので、の野郎彼様あんな奴ではなかったが、魔がさしたのか、始終はハアろくな事はねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もう斯う心機が一転しては、彼様あんな女に関係している気も無くなったから、女とは金で手を切って了った。其時女の素性も始めて知ったが、当人の言う所は皆虚構でたらめだった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
寺本さんの作代さくだいは今年も勤続つづくと云うが、盆暮の仕着せで九十円、彼様あんな好い作代ならやすいもンだ、と皆が羨む。亥太郎さんの末の子は今年十二で、下田さんの子守こもりに月五十銭でやとわれて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
何アに、其様そんなに心配した程の事は無えでごす。警官も奴の悪党の事は知つて居るだアで、内々は道理もつともだと承知してるでごすが、其処は職掌で、さう手軽く済ませる訳にも行かぬと見えて、それで彼様あんな事を
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「そうか。まあ彼様あんなものを読む学者だ。私は。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それにしても何の用事があつて、彼様あんな男が尋ねて来たらう。途中で一緒に成つてすら言葉も掛けず、見れば成る可く是方こちらけようとした人。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼様あんなことをおっしゃる、悋気などはございません、何時いつでも往って来い、彼様あゝやって心中する処を旦那のお蔭で助かったのだから、浪島の旦那がお前を
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新「困るね、えゝ、おい師匠何うしたんだ、冗談じゃアねえ、顔から火が出たぜ、生娘きむすめのうぶな彼様あんな事を云って、面目無めんぼくなくって居られやアしない」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼様あんなものを知つてるかと思ふと、可笑をかしいわねえ。」とお節は妹に。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その床下へどうして彼様あんな広い座敷を建てましたか、二間ふたま程の大広間がございまして、夫圖書もおりますし、千島禮三と申す以前下役の者もおりまして
本当の親で無くって彼様あんなことをいう筈はい、それに五十両という金を……おゝ左様だ、の金は何うしたか
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此間こないだ甚公じんこうの野郎が涙をこぼながら、あのは泥坊なぞをする様な者じゃアねえ彼様あんな娘はねえってう云ってた
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが彼様あんな人は諦めておくんなましよ、しっかりしなましよ、おまはんも親族みより兄弟もなし、わちきも親族兄弟がないから、お互に素人に成ったらば姉妹きょうだいになろうと
い着物を着たがらんで信心一三昧で温順しくうちにばかり居る、彼様あんな感心なものはない、いずれ気象が知れたら女房にようと幸三郎は思って居りました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
うち彼様あんな塩梅に成って此方こちらよりほかに居る処がえから、い事にして、新吉が寝泊りをして居るというのだが、わっちも新吉もお賤さんもお互に江戸子えどっこで、妙なもので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伯父も彼様あんなお方はない、額にきずを受けるまで命懸で助けて下すったから、その御恩を忘れては済まないよと伯父も申しますから、わたくしも有難いお方と存じて居りまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其の上お小遣いまで下さり、それからくしかんざしから足の爪先まで貴方が御心配下さるてえますから、彼様あんな結構な旦那さまをしくじっちゃアならんよ、己は職人の我雑者がさつもの
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
灯台もと暗しで、東京の近処ちかま彼様あんな変ったお祭の有る事を是までちっとも知らずに居りましたが、実に何うも不思議、へゝゝゝのテレツク/\なんぞは悉皆すっかり覚えましたが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちょっと三八さん、あの何だね、一昨年おととしの九月四日にね………贔屓だって情夫いろでも何でも無いのですが………あの晩にお帰りなさらなきゃア彼様あんなことは無いものを……あれを
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅「ったのは悪いが、お前さんも彼様あんな事をお云いだから、私も打ったのじゃアないか」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
主人「お前までが然ういう老耄もうろくしたことを云いなすっては困るよ、それだからお前がみん彼様あんな道楽者にしたのだ、チビ/\私に隠して遊びの金までお前が遣んなすったのだ」
まへ去年きよねんわたし寸白すばこいてゐる時分じぶんうち療治れうぢたに、梅喜ばいきさんの療治れうぢ下手へただが、何処どこ親切しんせつ彼様あんじつる人はないツて、うち小梅こうめ大変たいへんまへ岡惚をかぼれをしてゐたよ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼様あんな親孝行な娘を引張ってって牢へ入れちまって、金を呉れた奴が盗人ぬすびとだか、武家だてえが何うしたんだか訳が分らねえ、物を人に呉れるなら名でも明して呉れるがいんだ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
由「本当だよ、お酒も彼様あんいのを飲んだ事アないと見えて、大層酔ったようだった」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新身あらみの刀を試すといって居やアがるから、ヒョッとして彼様あんな奴が持って居めえもんでもねえから、己が一番あのさむれえのところへ飛び込み、殴り付けて、あの刀をふんだくるから
彼様あんなはアかてえ義理を立てる人はねえ、此の前彌次郎やじろううちとり喜八きはちめたっけ、あの時おふくろが義理が立たねえって其の通りの鶏を買ってねえばなんねえと、幾ら探しても
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
実に何うも彼様あんいやな心持はありませんね、何んとか云うお女中が其方そっちから這入っちゃアいけません、此方こっちくと其処に泥坊が居りますよと云われた時にゃアわっちアとっちたね
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やい何をやアがるんだ、んなものを打附ぶっつけやアがって、畜生め、財布の中へいしころか何か入れて置いて、人の頭へ叩き附けて、ざまア見やアがれ、彼様あんな汚ないなりていながら
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まア左様いう塩梅で……二月ふたつきばかり参詣をいたさんうちに御本堂が大層お立派になりました、の左の方にある経机は何方どちらからの御寄附でございますか、彼様あん上作じょうさくは是まで見ません
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わしはお前さんに面目ないが、実は命がけで年にも恥じずお前さんに惚れました、それ故に此の間酔った紛れに彼様あんいやらしい事を云かけて、お前さんが腹を立てゝ愛想尽あいそづかしを云うたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は何うしても彼様あんな者はうちへ入れません
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)