引掻ひっか)” の例文
……畜生ちくしゃう兩方りゃうはう奴等やつらめ!……うぬ! いぬねずみ鼷鼠はつかねずみ猫股ねこまた人間にんげん引掻ひっかいてころしをる! 一二三ひふうみいけん使つか駄法螺吹家だぼらふきめ! 破落戸ごろつき
その跫音にすらすらと衣服きものの触る音でもしょうなら、魂に綱をつけて、ずるずる引摺ひきず引廻ひんまわされて、胸を引掻ひっかいて、のた打廻るだ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の襟がみを吊るしあげている逞しい腕を、生半可なまはんか引掻ひっかきなどしたので、土匪どひは、この小さい者にも疑いぶかい眼を光らした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はね起きて追いにかかると一目散に逃げたと思った女は、反対に抱きついて来た。二人は互に情に堪えかねてまた殴ったり引掻ひっかいたりした。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
与一はパレットナイフで牡蠣かきのように固くなった絵の具をバリバリとパレットの上で引掻ひっかきながら、越して来たこの家がひどく気に入った風であった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
和泉の人はやはり土手のうえに倒れて何かあたりを引掻ひっかくような恰好かっこうをしながらも、津の人ののた打つのを眼だけ生きのこっているように見つめていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
道の片端を走抜けようとしますと、また寄って来ます。嫌がるのが面白いのでしょう。私は顔を真赤にして逃出すので、夢中ですから引掻ひっかいたかも知れません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
汽車は鉄橋にかかり、常盤橋ときわばしが見えて来た。焼爛やけただれた岸をめぐって、黒焦の巨木は天を引掻ひっかこうとしているし、てしもない燃えがらのかたまり蜿蜒えんえんと起伏している。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
自制を失って、甲板上で、狂おしく泣き叫びながら、お互の身体からだ引掻ひっかいたり、たたき合ったりしている。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
そして骸骨がいこつの様な上下の白歯しらはが歯ぐきの根まで現れて来た。そんなことをした所で、何の甲斐もないと知りつつ、両手の爪は、夢中に蓋の裏を、ガリガリと引掻ひっかいた。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ああそうだろう、源左は馬鹿で間が抜けてるからな、いつも芥溜ごみためばかり引掻ひっかき廻して、痛ッ」
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
主人も迷亭も独仙も糞をくらえと云う気になる。金田のじいさんを引掻ひっかいてやりたくなる。妻君の鼻を食い欠きたくなる。いろいろになる。最後にふらふらと立ちたくなる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒く目の潰れた畳を、苦しまぎれに引掻ひっかいた、女の爪からは血が流れていた。髪は乱れて、瞳は開いて大きく、歯が折れるほど噛み鳴らした、歯茎からは血を噴き出していた。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで負けず嫌いな一郎は友達と喧嘩けんかするときよく引掻ひっかくので「猿」というあだ名を
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「野郎」、「この野郎」、と互に顔を引掻ひっかきながら、相撲すもうを取って遊んでいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
どぶの水を持って来て引掻ひっかき廻させようなんぞは、しみったれでお話にならねえ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お力は、かんざしで、髪の根元をゴシゴシ引掻ひっかいていたが
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
マーキュ うんうん引掻ひっかかれた/\。はて、これで十ぶんぢゃ。侍童こやっこめは何處どこにをる? 小奴やっこ、はよって下科醫者げくわいしゃんでい。
「はあ、喧嘩したんです。私、喰いついてやったり、引掻ひっかいたり、一生懸命だったんです。でも負けたわ。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くやしくなって、引掻ひっかいてやりますと、その顔が、怖い顔になって、呶鳴どなったり、泣きだしたりします。私は少しも悲しくないのに、ポロポロ涙をこぼしたりします。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はじめは口惜くやしがって、おれのつらを引掻ひっかきやがったが、今では阿魔あまめ、おれの行くのを待遠しがっていやがる、そうなってみると、焼杉やきすぎの下駄の一足も買ってやらなきゃあ冥利みょうりが悪いから
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「こんなに家中無断で引掻ひっかきまわして、済みませんなンて云わないッ」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
咽喉のどは裂け、舌は凍って、しおを浴びたすそから冷え通って、正体がなくなる処を、貝殻で引掻ひっかかれて、やっと船で正気が付くのは、あかりもない、何の船やら、あの、まあ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飛び散る血潮、ギャッといううめき声、そして、宙を引掻ひっかく、真白な指……。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
熱いものが引掻ひっかき廻す、仏頂寺、おまえのも楽じゃあるまいが……
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども、この恭屈頂礼をされた方は——また勿論されるわけもないが——胸を引掻ひっかいて、はらわたでもむしるのに、引導を渡されでもしたようで、腹へ風がとおって、ぞッとした。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
痛痒いたがゆい処を引掻ひっかいたくらいでは埒あかねえで、田にしも隠元豆も地だんだをんで喰噛くいかじるだよ。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れた女の腹の中で、じたばたでんぐり返しを打って騒ぐ、み合う、掴み合う、引掻ひっかき合う。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々悪戯いたずらをして、その紅雀の天窓あたまの毛をむしったり、かなりやを引掻ひっかいたりすることがあるので、あの猿松が居ては、うっかり可愛らしい小鳥を手放てばなしにして戸外おもてへ出してはおけない
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうも始末に悪いのは、高く崩れる裾ですが、よくしたもので、うつつに、その蚤の痕をごしごし引掻ひっか次手ついでに、膝をじ合わせては、ポカリと他人ひとの目の前へ靴の底を蹴上けあげるのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三味線背負しょつた乞食坊主が、引掻ひっかくやうにもぞ/\と肩をゆすると、一眼いちがんひたとひた、めっかちの青ぶくれのかおを向けて、う、引傾ひっかたがつて、じっと紫玉の其のさまると、肩をいたつえさき
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
引掻ひっかくようにもぞもぞと肩をゆすると、一眼ひたといた、めっかちの青ぶくれのかおを向けて、こう、引傾ひっかたがって、じっと紫玉のそのさまを視ると、肩をいたつえさきが、一度胸へ引込ひっこんで、前屈まえかがみに
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
がちがち震えながら、傍目わきめらず、坊主が立ったと思う処は爪立足つまだちあしをして、それから、お前、前の峰を引掻ひっかくように駆上かけあがって、……ましぐらにまた摺落ずりおちて、見霽みはらしへ出ると、どうだ。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児一 じゃあ、階段だんだんから。おい、ほうきの足りないものは手で引掻ひっかけ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
持主の旅客は、ただ黙々として、俯向うつむいて、街樹なみきに染めた錦葉もみじも見ず、時々、額をたたくかと思うと、両手でじっ頸窪ぼんのくぼおさえる。やがて、中折帽なかおれぼうを取って、ごしゃごしゃと、やや伸びた頭髪かみのけ引掻ひっかく。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暑さの取着とッつきの晩方頃で、いつものように遊びに行って、人が天窓あたまでてやったものを、業畜ごうちく悪巫山戯わるふざけをして、キッキッと歯をいて、引掻ひっかきそうな剣幕をするから、吃驚びっくりして飛退とびのこうとすると
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引掻ひっかいてよ。」と手を挙げたが、思い出したように座を立って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ごしごしかゆそうに天窓あたま引掻ひっかいていたのを見ると
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へい、引掻ひっかいたんじゃありませんか。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とその何だか、火箸で灰を引掻ひっかいて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)