わか)” の例文
「しかし帝大の文科が好い。一生の損徳そんとくわかれ目だから、早稲田の方はもう一遍考え直して御覧。正月になってから返辞をしなさい」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
『夜蕎麦売とは、変った渡世とせいをしているな。おれも、の日が、生涯のわかれ道になって、とうとう、つまらない刀鍛冶に成っている』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十字路の間からまた一筋細くわかれ出て下町への谷に向く坂道がある。坂道の途中に八幡宮の境内けいだいと向い合って名物のどじょう店がある。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
新宿は二人が別々の方向へわかれる地点だ。そこで下車してお茶をのんだが、記代子は放二のアパートまで送って行くと言いだした。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ここが一生の運命のわかれ目と思い込んでいるらしい真剣味をもって、今一層グッと身を乗出しながら、男盛りの脂切あぶらぎった顔を光らした。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
路が二つにわかれた。狭い人道の方へ這入つて、暫く行くと、何時の間にか、富岡の歩調はにぶくなり、ゆき子と肩を並べる位になつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
北のかたなる仕合に参らんと、これまではむちうって追懸けたれ。夏の日の永きにも似ず、いつしか暮れて、暗がりに路さえわかれたるを
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔ながらの一つ流れから只わかれたというばかりの相違ではない相異を質的に主張したプロレタリア文学が強い潮騒いをもって動きはじめた。
作家と教養の諸相 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
へばふほど枝葉えだはしげつて、みちわかれてたにふかく、ひろく、やまたかつて、くもす、かすみがかゝる、はて焦込じれこんで、くうつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまりは百韻三十六ぎんの連続の中に、一句も俳諧の無い句があってはならぬという松永貞徳まつながていとくなどの意見を、認めるか否かがわかであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
道が二つにわかれるところへ来た。少年は其処そこで足を止めた。……そしてなにかを聞き取ろうとでもするように耳を澄ませた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
南西にわかれて霊岸島と亀島町との間に去るものは、新亀島橋亀島橋及び高橋の下を下りて本澪ほんみよに入り、兜町地先にて岐れて南西に去るものは
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その森もっと半分過ぎたことを知らせる或わかみち(その一方は村へ、もう一方は明がそこで少年の夏の日を過した森の家へ通じていた……)
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこらが名奉行とぼんくらのわかれるところで、大岡越前守や根岸肥前守はそういう難問題をうまく切り捌いたのでしょう。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつもそこでわかれ道になっている田甫のあいだにはおりてゆかないで、彼女はきづかぬ風に、土堤道をさきへ歩いてゆく。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
時にはかの孝——姑のいわゆる——とこの愛の道と、一時に踏み難くわかるることあるを、浪子はひそかに思い悩めるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
わしが、貴様を、救おうともし、救わぬかもしれぬと申すのも、この大きい目当の邪魔になるかならんかが、そのわかれ目だ。判るだろうな、小太
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
併し豐臣方では福島の下、傳法川と木津川とのわかれる所に、舟番を置いて、諸大名の夫人達を逃がさぬ用心をしてゐる。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
僧徒らはそのさま一つ腹より出でたる犬の子らのごとく、われともなしに退り行き、上手二路のわかるるほとりに止まる。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
なおまた人の容貌は一様ならず、美醜のわかるるところ愛憎起り、愛憎の在るところ偏頗へんぱ生ずるは、免れ難き人情である。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
しず そりゃ、女にとっては一生のわかで、並大抵のことではないのだから気がすすまなければ無理にという性質のものではないのだけれど……。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
踏みまよいしりぞけられて、オヤフロの野と交わる尾根のふもとを歩かせられた。ここは、二つの地形のわかれ目にあたる。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
路のわかれる毎に人数ひとかずが減つた。とある路傍の屋根の新しい大きい農家の前に来た時、其処まで一緒に来た村長は、皆を誘つて其の家に入つて行つた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
丹治はもう山におるのがいやになった。そこから向うのたにへ降りる捷径ちかみちわかれている。丹治は銃を引担ひっかついでそのみちの方へ往きかけた。鶴は動かなかった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
八丈島の上で二つにわかれた編隊の一つは、まっすぐ富士山の方に向い、他は、熊野灘くまのなだに添って紀伊水道の方へ進む。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
見よ諸〻の星をたづさふる一の圈、かれらを呼求むる世を足らはさんとて、なゝめにかしこよりわかれ出づるを 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二つにわかれた経済が持ちきれなくなって、笹村がほどなく下宿を引き払ったのは、谷中の友人の尽力でお銀の体のきまりがようやく着いてからであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
国家の安危盛衰のわかれるところはこの道徳的に精神的にいわゆる人類の共同ということを忘れるや否やにある。
始業式訓示 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そして、たうとう、大きなてっぺんの焼けたくりの木の前まで来た時、ぼんやり幾つにもわかれてしまひました。
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが其優れた山の描写が亦、最異色に富んで居る。峰の二上山形にわかれている事も、此図に一等著しい。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
この田舎めいた岩窟の中の迂回した道を歩いて行つたら、際限の無い不思議のある処、又事によつたら己の生涯の禍福がわかれる処に出はせぬかと思つたからだ。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
お城下へもうひと息という阿武隈あぶくま川の岸近くで左右二つに道のわかれるところが厶りまするな、あの崖際がけぎわへさしかかって何心なく道を曲ろうと致しましたところ
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
額堂を出たがんりきを先登に、南条らの一行は白雲山妙義の山路へ分け入ったが、下仁田街道しもにたかいどうの方へわかれるあたりからこの一行は、急速力で進みはじめました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてわかみちのところから、右の方へすすんでいきました。それをいけば川沿ひの村に出るのでした。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
此処ここから天龍川を遡上さかのぼったものか、右へ秋葉山の近道を辿ったものか、それとも左へ気賀きがへ出たものか、暫らく考えて居ると、男の子が二三人、わかれ路のほとりで
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
中央に一子房があって三つにわかれた花柱を頂き、子房の辺に蜜汁が分泌せらるるのでよく目白めじろの鳥がそれを吸いに来り、その際に花粉を柱頭に伝え媒助してくれる。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
それから幾つもわかれている別の狭い曲りくねった街路、そのどこにもかしこにも襤褸と寝帽ナイトキャップとの人間が住んでいて、どこにもかしこにも襤褸と寝帽ナイトキャップとの臭いがして
すると、恰度彼のよろめいて行くアスファルトの大通りが、やがて二つに裂けて左右にわかれていた。
放浪の宿 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
第五人格修養の五目にわかれるのであるが、これを煎じ詰めていわば、教育とは人間の製造である。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勇進するという心は一つであるけれども、方法として用いる場合と目的いかんによって善と悪とにわかれるですから、何事にしろただ勇進すればよいという訳にはいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
頸城軌道が出来て、それが幹線の黒井からわかれて、かなりに奥深く入つて行つてゐるので、何でもその終点駅からは、松の山温泉までいくらもあるまいといふことであつた。
女の温泉 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
その時の心掛次第で女の幸不幸がわかれるのでしょうが娘の時代に何の覚悟もなかった人は多く自ら不幸の地におちいります。私自身の事を考えてみても色々な事がございますよ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
差は一歩にして、末は救いの歓喜と滅亡の恐怖とにわかれる。真に怖るべきことであります。キリストしゃは他の人々に比し決して生まれながらの道徳堅固な者ではありません。
そもそも塩原の地形たる、塩谷郡しほやごほりの南より群峰の間を分けて深く西北にり、綿々として箒川ははきがわの流にさかのぼ片岨かたそばの、四里にわかれ、十一里にわたりて、到る処巉巌ざんがんの水をはさまざる無きは
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家持店員の給与は七十五円ないし二百円であるが、一家を構えてみると今までの寄宿舎生活と違い、すべてが複雑になって来て、それぞれの事情により生活の難易がわかれて来る。
農鳥山は大約おおよそ三峰にわかれているようだ、手近を私たちは——後の話だが——仮に南農鳥みなみのうとりと名づけた、雪が二塊ばかり、胸に光っている、近づくほど、雪の幅が成長して大きくなる
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一条の細径が右にわかれて二、三町の彼方に崖の中腹を穿った暗い坑道の入口が二つ許り覗かれた。間もなく雪渓を渡ると草原を斜に稍やなだらかな道が私達を一の峠の頂上に導いた。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
『死の家の記録』と『サガレン島』のわかれが、ドストエーフスキイとチェーホフの岐れを端的に示すものと言える。この大旅行はチェーホフの内部に何一つ痕跡を残さなかったからだ。
南穂高から東北にわかれ、逓下ていげして梓川に終る連峰は、この谷と又四郎谷との境で、屏風びょうぶ岩または千人岩(宛字)「信濃、屏風岩、嘉門次」と呼ばれ、何れもよく山容を言いあらわしている。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
その微妙なものを感ずるか、感ぜぬかで、この句に対する興味はわかれるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)