小溝こみぞ)” の例文
といって伝吉は、前の方へ身を泳がせ、かど石塀いしべいにその勢いでひたいをぶつけたらしく、鼻血を抑えたまま小溝こみぞへりへ倒れました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠近をちこちやまかげもりいろのきしづみ、むねきて、稚子をさなごふね小溝こみぞとき海豚いるかれておきわたる、すごきはうなぎともしぞかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ところがその雄羊が一ぴき小溝こみぞえて道のまん中にやって来ました。しかして頭を下げたなりであとしざりをします。
岡田も僕も、灰色に濁ったゆうべの空気を透かして、指ざす方角を見た。その頃は根津に通ずる小溝こみぞから、今三人の立っているみぎわまで、一面にあしが茂っていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と床を敷く間新吉は煙草をんでいると、戸外おもての処は細い土手に成って下に生垣いけがきが有り、土手下のよしあしが茂っております小溝こみぞの処をバリ/\/\という音。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
路に沿うた竹藪たけやぶの前の小溝こみぞへは銭湯で落す湯が流れて来ている。湯気が屏風びょうぶのように立騰っていて匂いが鼻をった——自分はしみじみした自分に帰っていた。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
越後の国魚沼郡うおぬまこほり五日町といふえきちかき西の方にひくき山あり、山のすそ小溝こみぞあり、天明年中二月のころ、そのほとりにわらべどもあつまりてさま/″\のたはむれをなして遊倦あそびうみ
この黒塀のそば小溝こみぞに添うて、とぼとぼと赤羽橋の方へやって来た、眼の前には芝山内さんないの森が高く黒い影を現しておる、うしろの方から吹いて来る汐風しおかぜやつくので
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
かうした石斧せきふなどをさがすのには、はたけころがつてゐるいし片端かたはしから調しらべてるとか、はたけそば小溝こみぞなか石塊いしころとか、あぜまれたいしなか熱心ねつしんさがすにかぎります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
じめじめした小溝こみぞに沿うて根ぎわの腐れた黒板塀くろいたべいの立ってる小さな寺の境内けいだいを突っ切って裏に回ると、寺の貸し地面にぽっつり立った一戸建こだての小家が乳母うばの住む所だ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「このとおり水だよ! 橋を通らねばいけないよ。」——橋というのは、菱形の赤い床石の間につづいてる小溝こみぞである。——母親は彼の言葉を耳にもかけないで通ってゆく。
垣根かきねの朝顔やう/\小さく咲きて、昨日今日がくれに一花ひとはなみゆるも、そのはじめの事おもはれて哀れなるに、松虫すゞ虫いつしかなきよわりて、朝日まちとりて竈馬こほろぎ果敢はかなげに声する、小溝こみぞはし
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
海岸に小溝こみぞのように深く雪道が踏み固められてあった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ふたりは、ちょろちょろと水のせせらぐ小溝こみぞへりにしゃがみあって、足のしびれるほど長い時間をついやしている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しほのさゝない中川筋なかがはすぢへ、おびたゞしいぼらあがつたとふ。……横濱よこはまでは、まち小溝こみぞいわしすくへたとく。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
熟覧よく/\みておもへらく、これまさしく妙法寺村の火のるゐなるべしと火口ひぐちに石を入れてこれをし家にかへりて人にかたらず、雪きえてのちふたゝびその所にいたりて見るに火のもえたるはかの小溝こみぞきし也。
なんとなくぼんやりして、ああ、家も、みちも、寺も、竹藪たけやぶを漏る蒼空あおぞらながら、つちの底の世にもなりはせずや、つれは浴衣の染色そめいろも、浅き紫陽花あじさいの花になって、小溝こみぞやみおもかげのみ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熱田の町の清潔きれいさ。その朝は街道筋も塵一つない。小溝こみぞの水までが美しく底を見せていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だらだらと坂を降りると小溝こみぞがあって、切支丹屋敷の曲り角、お蝶の帰ろうとする通用門まで、そこも流れに添った薄暗い藪で、赤い椿つばきが、あの世の提灯ちょうちんみたいに咲いている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……水鶏くひなはしるか、さら/\と、ソレまた小溝こみぞうごく。……うごきながら静寂しづかさ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
裏の小溝こみぞへ白いとぎ水がひろがった。溝の向うにの花がみえ、その先は桃畑だった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浜辺は煮えてにぎやかに、町は寂しい樹蔭こかげの細道、たらたらざかを下りて来た、前途ゆくては石垣から折曲る、しばらくここにくぼんだ処、ちょうどその寺の苔蒸こけむした青黒い段の下、小溝こみぞがあって、しぼまぬ月草
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふと、辻の小溝こみぞに手を突ッこんだなりダラリとなっている男を見つけ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)