娑婆しやば)” の例文
またうしてられる……じつ一刻いつこくはやく、娑婆しやば連出つれだすために、おまへかほたらばとき! だんりるなぞは間弛まだるツこい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
娑婆しやば界の苦労は御降りの今日けふも、遠慮なく私を悩ますのである。昔或御降りの座敷に、あねや姉の友達と、羽根をついて遊んだ事がある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「サア、今度こそは雪隱詰せつちんづめだぞ。鼬小僧のつらの皮をひん剥いて、二度とこの娑婆しやばへ出ないやうにしてやらなきや、俺の腹の虫が癒えねえ」
人間の威張臭る此娑婆しやばでは泣く子と地頭で仕方が無いが、天国に生れたなら一つ対手あひて取つて訴訟を提起おこしてやる覚悟だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「非常な心配だナ」と、川地は冷笑しつゝ、「其れなら我輩も一ツ善根の為めに、貴様をたすけて篠田を一生娑婆しやばの風に当てないやうにしてらう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
我は此獄室をもて金殿玉楼と思ひしつゝ、たのし娑婆しやば世界と歓呼しつゝ、五十年の生涯、誠に安逸に過ぐるなるべし。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
だからおれが止せといふのに、手前がつまらねえ娑婆しやばを出して、云はずとも好いことをべら/\しやべつたもんだから、到頭こんなことになつてしまつたのだ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
大日向さまは、地獄よりこの人々すくひ給はんとて、娑婆しやばの業を人間に与へ給ふ。他力をたのみて、真実報土のこゝろなくば、この人々地獄への往生をとぐるものなり……
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
自分は此頃新聞社の勤務おつとめからして、創作に取掛つたが、此の創作は、或は観察みやうに依りては家庭問題に関連して居るかも知れぬ、最初は女学生を主人公にと娑婆しやばを出して
未亡人と人道問題 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
くやみて泣沈なきしづみしが嗚呼あゝ我ながら未練みれんなり此上拷問がうもんつよければとても存命思ひも寄ず此苦みをうけんよりは惣内夫婦を殺したりと身に引受て白状なし娑婆しやば苦患くげんのがれんものと心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ふちだけ取換とりかへて、娑婆しやばの事がうつる、ぼくこれだけ悪い事をしたなどとつていらツしやいます。
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
こんな苦しい思して何の娑婆しやばに生きとりたいことがある。阿弥陀あみだ様が、お、来たか/\と御手を広げて迎へて下さるのやぞ、何も心配は要らぬ。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏……
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
御身おんみ過去くわこ遠々とほ/″\より女の身であつたが、このをとこ(入道)が娑婆しやばでの最後で、御前おまへには善智識ぜんちしきだから、思ひだす度ごとに法華經の題目だいもくをとなへまゐらせよ。と、二首の歌も書かれてある。
酔へよ、また娑婆しやばにな覚めそ。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
これが旅先でなかつたら——もう一つ、大事な目的もくてきのある旅でなかつたら、平次も娑婆しやばつ氣を出して、二人の浪人者を取ひしいだかも知れません。
いはく==陰陽界いんやうかい==とあつたので、一竦ひとすくみにちゞんで、娑婆しやば逃出にげだすばかりに夢中むちう此處こゝまでけたのであつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
天を上にし地を下にする無辺無量無方の娑婆しやばは、即ち詩の世界なり、その中に遍満するものを日月星辰の見るべきものゝみにあらずとするは、自然の憶度おくどなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あの論文の中にあるのは十三世紀でもなければ伊太利イタリイでもない。唯僕等のゐる娑婆しやば界である。平和を、唯平和を、——これはダンテの願ひだつたばかりではない。
養母さん、ちツとはしやくも収りまさあネ、あゝ、何卒一日も早く此様娑婆しやば御免蒙ごめんかうむりたいものだと思つてネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
大日向さまは、地獄よりこの人々すくひ給はんとて、娑婆しやばごふを人間に与へ給ふなり。他力をたのみて、真実報土のこゝろなくば、この人々地獄への往生をとぐるものなり。法蓮華経ほふれんげきやう……。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
数百歩、娑婆しやばに音なし。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「諦めろよ八、お秀は二度と娑婆しやばツ氣を出す氣遣ひはない。親父のたくらみは恐し過ぎたし、あの娘はよく出來過ぎたよ」
彼は少時しばらく下つてゐたのち、両手の痛みに堪へ兼たのか、とうとう大声に泣き始めた。して見れば御降おさがりの記憶の中にも、幼いながら嫉妬しつとなぞと云ふ娑婆しやば界の苦労はあつたのである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
希望は吾人にさゝやきて曰ふ、世は如何いかに不調子なりとも、世は如何に不公平、不平等なりとも、世は如何に戦争の娑婆しやばなりとも、別に一貫せるコンシステント(調実)なる者あり。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ひゞきで、いまところへ、熱湯ねつたう湧出わきだいた。ぢやがさ、天道てんだうひところさずかい。生命いのちだけはたすかつても、はうまうの分別ふんべつなんだところ温泉をんせんさかつてたで、うやら娑婆しやばかたちつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「お前は娑婆しやばつ氣があるからだよ。俺は御用聞といふ稼業が、時々嫌で/\たまらなくなるんだ」
然れども生活の一代に実世界と密接し、抱合せられざる者はなけむ、必ずや其想世界即ち無邪気の世界と実世界即ち浮世又は娑婆しやばと称する者と相争ひ、相睨あひにらむ時期に達するを免れず。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
こゝは阪地かみがた自慢じまんする(……はしつわたりけり)のおもむきがあるのであるが、講釋かうしやく芝居しばゐで、いづれも御存ごぞんじの閻魔堂橋えんまだうばしから、娑婆しやば引返ひきかへすのが三途さんづまよつたことになつて——面白おもしろい……いや
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ハツハツハツハツハツ、年は取つても、娑婆しやばつ氣は拔けねえぜ。飛んだいゝ氣合だよ、彦兄イ」
わかいものをそゝのかしてらぬほねらせるな、娑婆しやば老爺おやぢめが、』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「錢形の親分に面白がらせようなんて、そんな娑婆しやばつ氣はありませんよ、當人同士は妾のお鮒に聲でも掛けて貰はう、せめて一と眼振り向いて見られようと、そりや夢中なんで」
いゝえ、まあ、ながしたはうは、おどく娑婆しやば一人ひとり流産りうざんをしませうけれど、そんなことよりおまへさん、はしわたらないまへだと、まだうにか、仕樣しやう分別ふんべつもありましたらうけれど、氣短きみじか飛越とびこしてしまつてさ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「まだ娑婆しやばに大事の仲間が居るんだらう。何んな事をしても三千兩を搜せ」
「——娑婆しやば引返ひきかへことにいたしませうかね。」
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、大分だいぶ娑婆しやばる。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)