テーブル)” の例文
親子は、狭い部屋の壁際にぶらさがった、暗い電燈の下のテーブルに集まって、今夜食をしようとしてゐた。まだ本当に父も母も若かった。
晩餐 (新字新仮名) / 素木しづ(著)
道子の顔を魅入られたように見詰めて居た讃之助は、二足三足よろめくと、テーブルの角に片手を支えて、急に戦闘的な調子になりました。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
此處で契約しに來た五人の若者は、私の眼の前で——このテーブルで——私のペンで、かうして署名したのです。みな立派な者ばかりです。
同じころおい、江戸の築地の異人館のホテルの食堂に、テーブルを前にして、椅子の上にふんぞり返っているところの神尾主膳を見ました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今しがたまでお客がいたものと見え、酒のかおりと共に、煙草たばこけむりこもったままで、紫檀したんテーブルみぞには煎豆いりまめが一ツ二ツはさまっていた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私たちは、早速に船室ケビンの浴槽で、身体を温めて、さばさばした浴衣の着流しで、テーブルむかい合った。それから間もないことであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
テーブルに頬杖をついて涙ぐみながら、飽かず糸杉の小径を眺めているうら若い婦人。それから、父や母のそばでしょんぼりしている子供たち。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
よく船員達が爪でテーブルなどを叩いて合図する無線電信ワイヤレス、万国ABCの略符合コウドなのだ、そして確かに停泊用釜ドンキ・ボイラアの中から聞えて来るではないか!
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
紙屑の散ばつてゐるのは、屑箱の中に入れ、紅茶茶碗のよごれてゐるのは其方のテーブルの方へと持つて行つて置いた。かれは不思議な気がした。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あの人は通りに面したテーブルによって煙草たばこをふかしていました。のみさしのレモン・スカッシュのコップが麦藁むぎわらをさしたまま前においてあります。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
七斤ねえさんというのは、彼女の倅のよめである。その時七斤ねえさんは飯籃めしかごをさげてテーブルそばに行き、卓上に飯籃を投げ卸してプリプリ腹を立てた。
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
で、お皿を下げに来た給仕人きゅうじにんの笑い顔を感じて、わたしはテーブルの人たちを見ると、みんな、あきれきった眼を丸くしてわたしにそそいでいるのだった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ボーイが一隅のテーブルの上に、ドアの鍵と渋茶しぶちゃとを置いて、黙って出て行った時、私達は突然非常な驚きの目を見交わした。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
少年は紙切をテーブルの上において説明を始めた。ボートルレはこの間からこの紙切について一生懸命考えていたのであった。
汽車が、国府津を出た頃、健作は食堂へはつて行つた。寝るまでの中途半端の時間なので、客は十四五人もあちらのテーブルや此方のテーブルに散在してゐた。
蠣フライ (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何で読んだか忘れたが、ドストエフスキーは、或る時広い野原をテーブルが長靴をはいて歩いて行く夢をみたそうである。
八月三日の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
やがて四人は、テーブルの側へ集つて紅茶など飲んだ。そこに先刻さつきの電報が、吾妻の目にもついた。長閑のどかな天気であつた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と云ううちにアダリーは壁際の小テーブルの上に置いてある新聞を取って見せた。私は引ったくるようにして日附を見た。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
凩がすさまじく吼え狂うと、洋燈ランプの光が明るくなって、テーブルの上の林檎りんごはいよいよあかく暖炉の火はだんだんあたたかくなった。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
そこへの少女がはいって来た。少女の手には酒肴しゅこうを乗せた盆があった。少女はそれをテーブルの上に置いてから、小さなさかずきをそれぞれ二人の前へ持って来た。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
私達は長田ながた秀雄氏と三人小さなテーブルかこつて色々の話をした。氏はその折吾がのために近々きん/\演劇と当局の取締とについて長い論文を書かうと約束をした。
何が起るかとハラハラしていた学生達は、ほっとした様に二人を引き分けたが、その一人はテーブルを叩いて叫んだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
テーブルの方は、早速、聯盟の事務所と打合せまして、ハイ、もう外にうかがい落したことはございませんか。では……
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
暗号室のテーブルは、私の外二人の兵隊がいるだけで、あとの席には、「呂」の厚い暗号書や、乱数盤らんすうばんが組立てたままほうり出されているだけで、誰もいなかった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そばのテーブルに、四、五人の商館番頭らしい背広服のひとかたまりが、フォークのせわしない間に、さかんに、谷戸橋の河から金時計が出るといううわさをしていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌朝、沿岸のもっと北の方で、司令官以下の士官達が船室にいた時、郵便物の包が艦上に持ち来たされ、彼等はみな大よろこびでテーブルをかこみ、包を引き破った。
老人は喫茶店のテーブルにでもった調子で、ひどく鷹揚おうような口のきき方をした。氏の胸には朝からの、いやふた月この方の苦しさを感じる健康が、次第に回復してきた。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
引越の荷車からは、丹念に加工した麻栗樹チイクテーブルや、東洋風に縫取ぬいとりの施してある衝立ついたてなどが下されました。それを見ると、セエラは妙に懐郷的ノスタルジャーな気持になりました。
まつ赤な羅紗らしやをかけたテーブルを控へてどつかり腰かけ、その右側に一番の白猫と三番の三毛猫、左側に二番の虎猫と四番のかま猫が、めいめい小さなテーブルを前にして
ときには根津權現の境内やBARのテーブルの上で詩作をしたりした。私は私で極度の貧しさと戦ひながらも盃は唇を離れなかつた。そしていつも此友にやつかいをかけた。
阿蘭陀オランダ風の洋室であった。書棚に積まれた万巻の書、巨大なテーブルのその上には、精巧な地球儀が置いてあった。椅子の一つに腰かけているのが、例の鶴髪の老人であった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と私は夢中でテーブルたたいた。自分ながら自分の顔色の変わったのが眼に見えるような気持であった。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
丸いテーブルには、薔薇ばらの花を模様にくずした五六輪を、淡い色で織り出したテーブルかけを、雑作ぞうさもなく引きかぶせて、末は同じ色合の絨毯じゅうたんと、づくがごとく、切れたるがごとく
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一同はテーブルを囲み、賑やかに麻雀マージヤンをはじめる。わけても主人夫婦のはしやぎ様は一と通りでなく、妻は夫の腕をつねり、夫は「痛い、こん畜生」などと他愛もない和合ぶりを見せる。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
こう云って、父は、露出むきだしにしてある手を挙げてテーブルわきの一つの椅子を指差した。そのようすは年に似合わずいかにも元気に見なされた。老医師はあらかじめ自分でそれと知っていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
テーブルの上には積木細工の様に煙草を盛上げたり、食料品の缶詰が金字塔ピラミッド型に積重なったりして居た。彼は其辺を一ト渡り見渡して、女の方へ眼を移した。が、某所そこには女の影も見られなかった。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
お嫁さんの友達が大勢来ているだろうと、その方に興味を持って見渡したら、若い女性が二テーブルに溢れていた。皆着飾っているから相応綺麗だった。尤も場所柄余りキョロ/\する次第に行かない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
テーブルに肘をついている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが三尺幅もある大テーブルを二つ並べたのと違って、貸ビルの二、三室に巣くう第三流新聞の悲しさで、テーブルは引出しの無い狭いもの
久世氏は、それを取りあげて、だまって読んでいましたが、間もなく投げ出すようにそれをテーブルの上に置くと、いかめしい咳払いをしながら
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
応接室といっても、テーブル椅子いすがあるわけではなく、がらんとした普通の六畳で、粗末そまつな瀬戸火鉢がまんなかに置かれてあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一層この場で酔いつぶれてさえしまえば周囲の者が結句どうにか始末をつけてくれるだろうと、君江は松崎老人のテーブルに来て
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
敬虔けいけん基督キリスト教徒が異教徒と同席する時のような、憎悪ぞうお侮蔑ぶべつとのために、なるべく父の方を見ないように、荘田の丁度向い側にテーブルを隔てゝ相対した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
黒板には只一つ樺太からふと定期ブラゴエ丸の二等料理人の口が出ているだけで、その前の大テーブルの上に車座に胡座あぐらいて、いつもの連中が朝から壷を伏せていた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
省三は眼が覚めたように四辺あたりを見まわした。青みがかった燈のともったへやじぶん黒檀こくたんテーブルを前にして坐り、その左側に女がにおいのあるような笑顔をしていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
入口を入ると、奥のテーブルによりかかり、誰かが腰をおろしていた。私の方を見た。吉良兵曹長であった。今までそのままの姿勢で、じっとしていたらしかった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
こんな話を入口の近くのテーブルでやっているのを小耳に挿んだ藤村さんが、指を折って数えてみると、ちょうどあっしが行方不明になってから八日目だったそうです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
トム公は、歩廊へ出て、隣のカーテンをめくってみた。テーブルの上に、阿片を吸う真鍮しんちゅうの道具が、幾つも、ぴかぴかと光っておいてあるのみで、今夜は、誰もいなかった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紫檀したんの大きなテーブルの上に置いてあった懐中時計が裏返しになっていた。同じ卓上の手帳が開かれていた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてその翌朝は、そこのとなりの、新らしく建増たてました物置きへ椅子やテーブルを運んでいったのであった。つい隣りの台所では下女げじょきつけはじめていたということである。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)