化粧けしょう)” の例文
あたしゃ今こそおまえに、精根せいこんをつくしたお化粧けしょうを、してあげとうござんす。——紅白粉べにおしろいは、いえとき袱紗ふくさつつんでってました。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いつ見てもきたないといわれ、それが大々的にお化粧けしょうをした時でさえそうなのだから、彼は一番よごれたところだけけばいいのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
衣服をえて久し振りに、屋敷の湯につかって化粧けしょうを改めた月江の姿は、今旅から帰った人とも見えず、久米之丞にはまぶしすぎる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日よくじつがた子供こどもは、ついにこの世界せかいからりました。ゆきは、その道筋みちすじきよめるため、しろ化粧けしょうして、野原のはらや、もりまでを清浄せいじょうにしました。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また眼前で化粧けしょうにとりかかった彼女の平気な不貞さにも、少しの喜びをも感じなかった。腕やのどや顔に塗られる脂粉に、深い嫌悪けんおを覚えた。
宝石を身につけたり、香水を使ったり、日になんども化粧けしょうのために、長い時間をかけたりして、装飾し興奮し緊張しながら、食卓にあらわれた。
乱れた髪のかかりと云い、汗ばんだ顔の化粧けしょうと云い、一つとしてあの女の心と体との醜さを示していないものはない。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竜之助は、また首垂うなだれて酒を飲み出す。怖ろしさから傍へ寄ったお松の化粧けしょうの香りがぷんとしてその酒の中に散る。
すると、化粧けしょうをした一つの顔がひたいを窓ガラスにしつけていました。それがその晩の主人公だったのです。
それから三人の女を選んで、首を洗う役と、化粧けしょうをする役と、札を附ける役とを、それ/″\受け持たせた。
みじんも化粧けしょうもせず、白粉おしろいのかわりに、健康がぷんぷんにおう清潔さで、あなたはぼくをきつけた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
御飯を食べると、こたつの上へ座わりこんでお化粧けしょうをしています。名前がわからないので、白いから、かりにチロとよびますと、ニャーオ……と鳴いて、返事をします。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さ「あゝ今二階で化粧みじめえしてりますの、どうせ閑暇ひまだが又何時いつ口が掛るかも知れないから、湯にって化粧けしょうをさせて置くのサ……二階に居りますが何か用が有るのかえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女の紅白粉べにおしろいなどもやはり酒と同様に、本来は祭とか式典とか、おおよそ酒の用いられなければならぬような日に、女を常の女でなくするために施したのが化粧けしょうであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ま、とにかくちょっとお化粧けしょうをしてお酒の席へだけは出ておくれよ。ね! 笑って、後生だからにこにこして……! さっきからお艶はまだかってきつい御催促なんだよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
郁治の妹の雪子はやせぎすなすらりとした田舎いなかにはめずらしいいい娘だが、湯上がりの薄く化粧けしょうした白い顔を夕暮れの暗くなりかけた空気にくっきりと浮き出すように見せて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
下女は大きな声をして朋輩ほうばいの名を呼びながら灯火あかりを求めた。自分は電気灯がぱっと明るくなった瞬間にあによめが、いつの間にか薄く化粧けしょうを施したというなまめかしい事実を見て取った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただしなるべく化粧けしょうを凝らして、人目につかぬようそっとこの坂道を通り越すであろう。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
わか姉さんはまくのかげに新吉をかくして、そこでお化粧けしょうをしてやりました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
バスの中には、両側に、ずっとたなのようなものがとりつけてあって、その上に、化粧けしょうをするための鏡がならべてあるのです。男は、その鏡の一つの前に腰かけて、じぶんの顔を鏡にうつしていました。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
となり近所にお化粧けしょうのアラを拾うやつもなくてさばさばしたろう」
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「少し目立ち過ぎるくらいだよ。あとでおかくさんと銭湯へ行って、すっかり襟足えりあしをお化粧けしょうしてごらん、ほかの女達はみんな影が薄くなっちまうよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひまなときは、いつでもここへきてお化粧けしょうをして、いいんですよ。」と、わざとらしく、おたけに、いいました。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
のみならず叔母が気をつけていると、そのも看護婦の所置ぶりには、不親切な所がいろいろある。現に今朝けさなぞも病人にはかまわず、一時間もお化粧けしょうにかかっていた。………
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そうだ。それともおまえさんのくるのをって、念入ねんいりの化粧けしょうッてところか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
長く覚えていたであろうしその上世間の評判や人々のお世辞が始終耳に這入るので自分の器量のすぐれていることはよく承知していたのであるされば化粧けしょう浮身うきみやつすことは大抵たいていでなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その夜のあなたは、また、薄紫うすむらさき浴衣ゆかたに、黄色い三尺帯をめ、髪を左右に編んでお下げにしていました。化粧けしょうをしていない、小麦色のはだが、ぼくにしっとりとした、落着きをあたえてくれます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
着て、わかねえさんにお化粧けしょう
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
この通り小袖こそでかえ、かみをなおし、うすい化粧けしょうまでしているでしょう。これが覚悟かくご証拠しょうこです。わたしをなわにかけて、甲府こうふへでも、浜松城はままつじょうへでもおくってください
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あかいけしのはなは、さまで、ここにいることを苦労くろうかんじないように、いつも、お化粧けしょうをやつしてそわそわしていましたが、いま、らんに同情どうじょうされるとなんとなく
ガラス窓の河骨 (新字新仮名) / 小川未明(著)
にあるような綺麗きれいな、お嬢様じょうさまなにやかやと御馳走ごちそう頂戴ちょうだいした挙句あげく、お化粧直けしょうなおしのまくすみで、あたしはおまえに、おまえはあたしに、たがいにお化粧けしょうをしあって、この子達こたち、もうねんったなら
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おまけに、そのとき、あなたはぼくがってから、初めて厚目に、白粉おしろいをつけ、紅をっていた。その田舎娘いなかむすめみたいなお化粧けしょうが、なみだくずれたあなたほど、みじめに可哀想かわいそうにみえたものはありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「そんなにわたしてはいけません。どうしてって、ずかしいのですもの。わたしのお化粧けしょうが、すっかりできあがった時分じぶんに、もう一ここへきて、わたしてくださいまし。」
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
「ま……せっかくのお美しい化粧けしょうが、だいなしに汚れましたこと」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つとめにるときは、お化粧けしょうをして、そのふうがりっぱなので、人目ひとめには、いきいきとして、うつくしくうつるので、さぞゆかいなおくってるだろうとおもうけれど、いえかえって
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
化粧けしょうをととのえて待て。身もたのしみに待つ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
化粧けしょうしたようなあるきつきや、ただ、流行りゅうこうをまねさえすれば、うつくしくえるとでもおもっている、けばけばしくて、あかぬけのしないようすが、若者わかものにはかえってあわれみをそそったのでした。
だまされた娘とちょうの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)