動悸どうき)” の例文
ファルス精神のしからしめる所であろうと善意に解釈下されば、拙者は感激のあまり動悸どうきが止まって卒倒するかも知れないのですが——
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
早鐘をくような動悸どうきだった、おちつこうとしても、跡をけられてはいないかというおそれで、ついのめるような足早になっていた。
金五十両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、「逃げたらなお悪い」と、心の奥に何かが力ある命令を発して彼を留まらせた。動悸どうき早鐘はやがねの様に打って頭の上まで響いて行った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
彼女は動悸どうきを抑へながら、暫くは唯幌の下に、むなしい逡巡を重ねてゐた。が、俊吉と彼女との距離は、見る見る内に近くなつて来た。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それでも箱の中が気にかかって、そわそわして手も震い、動悸どうきの躍るのを忘れるばかり、写真でおさえて、一生懸命になってふたを開けた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弁信さん、出鱈目でたらめを言ってはいけません、誰だって……誰だって、こんなに急いで来れば動悸どうきがするじゃありませんか、そんなことを
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は門を入って格子戸こうしどの方へ進んだが動悸どうきはいよいよ早まり身体からだはブルブルとふるえた。雨戸は閉って四方は死のごとく静かである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
夕日ゆふひは低く惱ましく、わかれの光悲しげに、河岸かし左右さいうのセエヌがはかは一杯いつぱいきしめて、むせんでそゝさゞなみに熱い動悸どうきを見せてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
少しばかり原稿がうれだして来ると、「三万円もたまりましたか?」と訊くひとが出て来たけれども、全くこれは動悸どうきのする話でした。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
烈しい動悸どうきが、武蔵の胸をあらしみたいにけまわった。彼は、意気地のない、殊に、女には弱い——一個の青春の男でしかなかった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むずかしい字にふりがなを打ったのは八重のしたことであろう、インクの色がちがっていた。いねは早鐘のように動悸どうきが打った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
身は三等船室のベットの上に、パンツ一つの赤はだかで横になっていることを発見して、彼は安心したが、胸ははげしく動悸どうきをうっていた。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
洋間へ通されて待っている間、胸が動悸どうきを打った。そう気の弱い人間ではないけれど、十年前の中学生に戻っていたのだった。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どこやら私の母と似通っているような気もされてくるや否や、急に私の胸ははげしく動悸どうきしだして、どうにもこうにもしようがなくなった。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
自分の家の畳の上に坐って、雇婆やといばばあんでくれた水を、茶碗に二杯立続けに飲んでも、歌麿は容易に動悸どうきがおさまらなかった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
微かな動悸どうきでも聴えてきそうであって、まあ云わば、生体組織オーガニズムを操縦している、不思議の力があるのを浸々と感ずるのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
セミが思いがけなく低い木の幹などに止まって鳴いているのを発見すると、まったく動悸どうきのするほど昂奮こうふんする。今でもする。
蝉の美と造型 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
近江屋の二階は六畳と三畳の二間ふたまで、おせきはその三畳に寝ることになつてゐたが、今夜は幾たびも強い動悸どうきにおどろかされてをさました。
不意に人声ひとごえがしたので主翁はびっくりして、動悸どうきをさしながらすかして見た。学生のマントを着た少年が眼の前に立っていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
上がる彼女の足音が僕には聞えていないのか? 彼女の心臓の重苦しい恐ろしい動悸どうきがわかってはいないのか? 気違いめ!
日は傾いてまさに地平線に沈まんとする頃、司教はその世をへだてた場所に着いた。小屋の近くにきたことを知って、一種の胸の動悸どうきを覚えた。
冷遇ふりながら産を破らせ家をも失わしめたかと思うと、吉里は空恐ろしくなッて、全身みうちの血が冷え渡ッたようで、しかも動悸どうきのみ高くしている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
歎息の呼吸いき涙の水、動悸どうきの血の音悲鳴の声、それらをすべて人間より取れ、残忍のほか快楽けらくなし、酷烈ならずば汝らく死ね、暴れよ進めよ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
息は殺していたが、胸の大きな動悸どうきが、一寸もある厚い板の扉をとおしてあの人の耳へはいりはしないかとひやひやした。
すぐ帰ろうとして、きびすをめぐらしかけたが、足がすくんでほとんど動けなかった。土手をい上がって、座敷へもどったら、動悸どうきが打ち出した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
………あ、リリーかな、やれうれしや! そう思った途端に動悸どうきち出して、鳩尾みぞおちの辺がヒヤリとして、次の瞬間にぐ又がっかりさせられる。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ふと明日箱根へ立つ人の便りかと思って、手に取る時何がなしに動悸どうきがしたがそうでは無かった。差出人は大村であった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
葉子はもう肩で息気いきをしていた。頭が激しい動悸どうきのたびごとに震えるので、髪の毛は小刻みに生き物のようにおののいた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
見ると、自分はしろにわ芝生しばふの上にころんでるのでした。からだ中あせぐっしょりになってむねが高く動悸どうきしていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それからまるで風のよう、あらしのように汗と動悸どうきで燃えながら、さっきの草場にとって返した。僕も全くつかれていた。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うら若いむすめの面影は、眼の前にちらついて、動悸どうきはもう落着いていたけれど、胸が何か快くめつけられる思いだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
危険ではあるが、避け難き計画を決心した人のように、その心臓は規則正しく動悸どうきを打って、彼は落ちつき払っていた。
左様そうすると門付も立去ったらしく三味線の音色が遠く聞えるようになりましたんで、お若の尼はドキン/\とうつ動悸どうきがやっと鎮まるにつけても
動悸どうきが胸にはげしかった。掌で、あごを支えた。顔についた土埃のため、ざらざらとした。頭がしんしんと痛かった。じっと一つのことを考えて居た。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
動悸どうきが高ぶった時にでも見なければ、充分なことは分りませんが、どうも心臓の弁の併合が不完全なようです。」
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
若い農夫は樹の陰から、五匁玉ごもんめだまめた銃口つつさきを馬車の上に向けた。彼の心臓は絶え間なく激しい動悸どうきを続けていた。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「なんという世にもそっくりな似方であろう!」そして彼は自分の胸の動悸どうきを自ら聞けるほどに喜んだのであった。
倭文子は、その手首の、瀬戸物みたいに、固くて冷い肌ざわりに、ゾッと動悸どうきが止ってしまう様な、恐れを感じた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自然界の何か異様な物すごいものが今にも現われて来はしないかと、クリストフはたえずびくびくしていた。彼は駆け出した。胸がひどく動悸どうきしていた。
それを聞いて、女は動悸どうきがし出した。さっき驚いて目を醒ましたのは、多分今のような溜息を聞いたからであろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
けれども、同時に恐しさの動悸どうきがそれをかきみだす。一時間たつてもまだ獨りきりだつた時、恐怖は勝を占めてしまつた。私は呼鈴ベルを鳴らさうと思つた。
行燈の火がとろとろ燃えて、悴はすやすや眠っています。もうすっかり汗になりまして、動悸どうきがはげしくうって——
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ぢつとしてゐても動悸どうきがひどく感じられてしづめようとすると、ほ襲はれたやうに激しくなつて行くのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「この通りの不體裁ぶていさいなところをお目にかけて相濟みませんが、何分少しのことでも、動悸どうきがひどくなりますので」
母の肩はむらさきれて荷を負うことができない、チビ公は睡眠すいみんの不足と過度の労働のために頭が大盤石だいばんじゃくのごとく重くなり動悸どうきが高まり息苦しくなってきた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
心音の動悸どうきまぬのに、またしても一羽、右手の駱駝らくだ岩の第一の起隆の上に、厳然げんぜんとしてとまっている。相対した上の鷹、おそらくはつがいであろう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そっと一こと言って、枝折戸しおりどの外をうかがう。外には草を踏む音もせぬ。おとよはわが胸の動悸どうきをまで聞きとめた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
斬り開かれた腹部から中庭の石に臓腑ぞうふがつかみ出されていたにかかわらず、どくっどくっと、死直後の惰力だりょく動悸どうきを打って、あたたかい血を奔出ほんしゅつさせていた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
父はたちまち胸に動悸どうきをさせながら、これは、きりしたん伴天連ばてれん為業しわざであるから念力で片付けようと思つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼は自分自身が割合に落ち着いていることを感じた。胸はしかし割れるかと思われるほどに動悸どうきを打っていた。顔色はおそらく白っぽくかわいていたことであろう。
(新字新仮名) / 島木健作(著)