とき)” の例文
「どこで落したかわかりませんが、一ときばかり前に気が付いて、あっちこっち探したが見えません。手拭がどうかしましたか、親分」
けれどそれが、いつも半日かわずか二タとき遅れだった。かくてついつい幾日かを釣られて歩き、徐寧はいやが上にも、いらついていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
骨折ほねおりが劇しかったので、なにか立派な芸術品でも仕上げたような満足を感じ、俺は懐手をしながら、一ときぼんやりと眺めておッた。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
浪人に別れて帰った喜兵衛は、それから一ときほど過ぎてから再びこの河原に姿をあらわした。彼は覆面して身軽によそおっていた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「皆さまがお立ちになって一ときばかりすると、もう治ったから駕籠かごでゆけば追いつくだろうと仰しゃいまして、急にお立ちなされました」
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
丹七はあさ子の失恋に同情するよりも、「うしとき参り」の真似をするわが子の心の怖ろしさに戦慄を禁ずることが出来なかった。
血の盃 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それからおよそ一ときほどののち、どうやら女らしい来客の足音を聞きつけると、むくりと起き上がりながら伝六に命じました。
まず長くて四分の一とき、これがギリギリでございます。その制限を超過した時には、何か異状があったものと見て、捜索するのでございます。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして昼夜の差別もなく灯明が絶えなかつた。老主婦のたいは、百五十の石段を算えて、裏山の摩利支天堂に「うしとき参り」の祈願をこめてゐた。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
それは、一ときだって、あなたのごおんわすれはいたしません。けれどわたしたちだって、ただおどったり、わらったり、ねたりしているのではありません。
葉と幹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その白蝋が解けて流れて、蝋受けの上にうずたかく溜っているのを見れば、よほど酒宴のときが移っているのであろう。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それとときを同じゅうして二羽の春の鶫が、津は津の矢に、和泉は和泉の矢がしらによって、射落されたのであった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なんと、うしとき咒詛のろい女魔にょまは、一本高下駄たかげた穿くと言うに、ともの足りぬ。床几しょうぎに立たせろ、引上げい。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも罪人は一ときも早よう引っ捕えいと言う注文じゃから先ず、これ位、困難むずかしい探偵事件しごとはなかろうわい。
いま初めて私は私の心のなかに夜明けのとりが東天紅とときを告げているのがまざまざと感じられてきました。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
隊一 ハハハハ、時に、一ときばかり前に貴公を訪ねて来た上郷村人足寄場の者だと言った変な男には会ったか? 居ないと言ったら結城の方へ追掛けて行ったが?
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
うしときまいりじゃないでしょうか。丑の刻詣りの人に道で行逢うと、祟りがあるっていいますから——」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕食後、いつものようにこの居間にこもって、見残した諸届け願書の類に眼を通し出してから、まださほどときが移ったとも思われないのに、晩秋ばんしゅうの夜は早くける。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おまへの緑の髮の毛の波は、貝のが斧のときしらせると、眞紅しんくまる。すぎしかたを憶ひだして。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
義眞歸國之上同年十月朝鮮之譯官使對話仕候とき、右被仰出之次第傳達爰に致り論談相濟ル
他計甚麽(竹島)雑誌 (旧字旧仮名) / 松浦武四郎(著)
裏の百姓家も植木師をかねていたので、おばあさんの小屋こいえの台所の方も、雁来紅はげいとう天竺葵あおい鳳仙花ほうせんか矢車草やぐるまそうなどが低い垣根越しに見えて、鶏の高くときをつくるのがきこえた。
故ヲ以テ改メテ期ヲすみやかニセンコトヲ図ル。慈おおいニ喜ビ陽ニ快キノ状ヲナス。然レドモ僅ニ稀粥きしゅくヲ通ズルのみ。途ニ上ルノ日ふたたビ慈顔ヲ奉ズルコト能ハザルヲ知リ、話シテときヲ移ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは時間じかんにすればおそらくようやく一ときぐらいみじかい統一とういつであったとおもいますが、こころ引緊ひきしまっているせいか、わたくしとすれば前後ぜんごにないくらいのすぐれてふか統一状態とういつじょうたいはいったのでございました。
天地の間に生れたるこの身をいぶかりて、自殺を企てし事も幾回なりしか、是等の事、今や我が日頃無口の唇頭しんとうを洩れて、この老知己に対する懺悔となり、ときのうつるも知らで語りき。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「まあ、何といふ怖ろしい人なんだらうね、お前さんは、現在女房かないの叔母の骨を食べてしまふなんて、まるで鬼ぢやないか、もう/\こんなうちには一ときもじつとしてはられない。」
少年老い易し、麗人はときを千金の春夜に惜む。われらがわかき日の小詩はまさに涙を流して歌ふべし。瑠璃いろ空のかはたれにわすれなぐさの花咲かばまた、過ぎし夜のはかなき恋も忍ぶべし。
「わすれなぐさ」はしがき (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
隣の広間の床にえてある置時計が次のときを打つまでには、きっと悟って見せる。悟った上で、今夜また入室にゅうしつする。そうして和尚の首と悟りと引替ひきかえにしてやる。悟らなければ、和尚の命が取れない。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是時このときわれ思ふ、大衆たいしゆう女人によにんを、恐ろしきときの近づくままに
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
(指を一本出す)昼夜十二ときブッコ抜きだよ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
その日博覧会に入りしばかりのとき
「その昨夜鎌倉町の家を一とき(二時間)もあけた相ぢや無いか。その間何處へ行つた。それを言はなきや、手前が主殺しの下手人だ」
あれから一ときばかりたって、お綱は、すきやちぢみ小柳こやなぎの引っかけ帯、髪もぞんざい結びに巻きなおし、まるで別人のようになって
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……然しそれから一ときも経ったであろうか、ちょうど牧二郎に昼の薄粥うすがゆを与えているところへ、息を切らして多助が戻って来た。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして二ときった頃、嬉しそうな顔をして帰って来たが、部屋に備えてある筆墨を使って、紙の上へ何か書き出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あそこはうしとき参りをするところだとかなんだとか気味のわるいことをいっておりますが、どうしたことか
こうなっちゃ、一ときも猶予はしていられないから、有り金をさらって逃げるとしよう。まだ仲間たちは気がついていないようだから、逃げるなら今のうちさ。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
隊一 ハハハハ、ときに、一ときばかり前に貴公を訪ねて来た上郷村人足寄場の者だといった変な男にはあったか? いないといったら結城の方へ追掛けて行ったが?
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
(つと起って妹の襟髪をとる。)人もあろうに、源氏方……しかも那須の一門に、れ馴染んだる憎い奴……。一ときもここには置かれぬ。さあ出てゆきゃ、出て行こうぞ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さればお付の乳母のお島どんも、一ときも早ようお嬢さまを、何処かにお嫁に遣って下さい。
また一頻ひとしきり黙ったときがつづいたが、町にはいるには惜しいくらいの愉しさを、きゅうに言葉でそれを表わさなければならぬものが感じられた。おなじ思いは筒井の心にもあった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
木々を吹きわたる夕風の音ばかり——逢魔おうまときのしずけさは深夜よりも骨身にしみる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うしときまいり」というのは、古い記録によると、嵯峨天皇の御時代からはじまる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
馬鹿な顔で、陽ざしを見あげているとき、すぐそばの瑞雲寺ずいうんじときの鐘、ゴーン。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
羊毛のほかに、そのとき來ぬれば、命をだに
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ときほど經つて、どうやら落着きましたが、氣の毒なことに主人の幸右衞門と、義弟の與三郎は、たうとう息が絶えてしまつたのです。
朝である、七宝寺しっぽうじの山で、ごんごんと鐘が鳴りぬいた、何日いつものときの鐘ではない、約束の三日目だ。吉報か、凶報かと村の人々は
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからときが経ち、女は眠っていた。片腕で彼を抱き、片腕と片方の足は夜具の外へ投げだし、そうして、掛け夜具も胸まではいでいた。
一旦下りとなり砂走すばしりの中へでも踏み入ろうものなら一ときの間に流砂と共に裾野まで一のしにのしたものである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「お兄様がお帰り遊ばしましたほんの四半とき程前に、お使いの方が探しがてら参られたのでござります」
どうぞこの事ばっかりは秘密にして、一ときも早よう御嬢様シャンシャンを蔵元屋の外へ出いて下さい。