充分じゅうぶん)” の例文
おこがましい申分もうしぶんかはぞんじませぬが、そのてん御理解ごりかい充分じゅうぶんでないと、地上ちじょう人類じんるい発生はっせいした径路いきさつがよくおわかりにならぬとぞんじます。
ただそこに孔子という人間が存在するというだけで充分じゅうぶんなのだ。少くとも子路には、そう思えた。彼はすっかり心酔しんすいしてしまった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
特務曹長「しかるに私共はいまだ不幸にしてその機会を得ず充分じゅうぶん適格に閣下の勲章を拝見するの光栄を所有しなかったのであります。」
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うっかり首を横にふられるとたいへんだから、充分じゅうぶん利益りえきを説きつくしてから正三君の意向をたずねようと思っていたのである。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ねがわくはだ、きみ、どうぞ一つ充分じゅうぶんかれしんじて、療治りょうじせん一にしていただきたい。かれわたしにきっときみ引受ひきうけるとっていたよ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
受話器を頭からはずして机の上に横たえておきましても三四尺も離れた寝床に入っている僕の耳にそのシグナルは充分じゅうぶんはっきりと聞きとれました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
ショパンのピアノ・ソナタは三曲あるが、これも協奏曲同様、この窮屈な形式にしばられてショパンの天才を充分じゅうぶんに発揮出来なかったと言われている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
充分じゅうぶん成長すると、高さはおよそ九〇センチメートル内外に達し、その直立せるくきは通常まばらに分枝ぶんしする。葉はくき互生ごせいし、再三出式に分裂している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
越後えちご笹飴ささあめが食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、食わせるだけの価値は充分じゅうぶんある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……私はまだその本物を知らないのだけれど、それが与えるのとちっともちがわないような特異ユニイクな快さを、そのデッサンだけでもう充分じゅうぶんあじわったように思いながら。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「活動は決して下劣じゃない」と手塚はいった、かれは光一のいったことが充分じゅうぶんにわからないのである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
自分の偶像であるこの女を欠きくだかない夫ならそれで充分じゅうぶんとしなければならない。その程度の夫なら、むしろ持っていてくれる方が、自分は安心するかも知れない。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
政府の組織 次に法王ほうおう政府の組織に移ります。法王政府は非常に錯雑さくざつして居りますので充分じゅうぶんに述べることは困難である。ことに私はそういうことを専門に調べたのでない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし、こういっただけで、し、その事実ありとしても、その当人達は、充分じゅうぶん自戒じかいしてくれると思う。たのむから諸君、二度と俺にこんなことを、言わさないでくれ。終りッ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
丈夫じょうぶづくりの薄禿うすっぱげの男ではあるが、その余念よねんのない顔付はおだやかな波をひたいたたえて、今は充分じゅうぶん世故せこけた身のもはや何事にも軽々かろがろしくは動かされぬというようなありさまを見せている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その現象の不可欠でかつ充分じゅうぶんな特徴をとらえ、それに価値判断のない無色の定義を与えたものであるが、本質というのは、その現象に含まれている意味についての価値判断をいうのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
一日二三合の米の飯と、少しばかりの副食物と、二三合の日本酒とさえあれば、それで私の生活は充分じゅうぶんであると、その訪問客に語っているヘルンは、実際に学者風の簡易生活をしていたのである。
門口の狭い割に馬鹿に奥行のある細長い店だから昼間なぞ日が充分じゅうぶんさず、昼電を節約しまつした薄暗いところで火鉢の灰をつつきながら、戸外の人通りをながめていると、そこの明るさがうそのようだった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
また一つには忠告する者が吾人ごじん境遇きょうぐう充分じゅうぶん知らぬゆえである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主客三人とも、充分じゅうぶん、酔いがまわっている様子で
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも塩水せんをかけたので恰度ちょうどあったから本田の一町一たん分には充分じゅうぶんだろう。とにかくぼくは今日半日で大丈夫だいじょうぶ五十円の仕事しごとはしたわけだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのてん充分じゅうぶんふくみをねがってきます。機会きかいがありましたら、だれかの臨終りんじゅう実況じっきょうしらべに出掛でかてもよろしうございます。
このズボンについている泥だとか、ハンカチーフについている血や油などについて、彼はきっと、あなたをびっくりさせるに充分じゅうぶん鑑定かんていをなすことでしょう
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今のくらいで充分じゅうぶんです。ただ先だってお話しした事ですね、あれを忘れずにいて下さればいいのです」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その上、それらのアカシアの木立は、まだみんな小さいので、はげしい日光から私たちを充分じゅうぶんかばうことが出来ないので、その川沿いの道はそれまでの道よりも一層暑いように思えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
十六日、十七日とだんだん月末つきすえになる程、減って行くという。また月が変ると月初めからぼつぼつとえて、十五日になると充分じゅうぶん満ちてしまうという訳でちょうど日に関係をして居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
中柄ちゅうがらで肉のしまっているこの女水泳教師のうすい水着下の腹輪の肉はまだ充分じゅうぶん発達しないさびしさを見せてはいるが、こしの骨盤ははち型にやや大きい。そこに母性的の威容いようたくましい闘志とうしとをひそましている。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これはお殿様の命令を充分じゅうぶんにはたすことでございましょう」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その本能や衝動が生きたいということで一杯いっぱいです。それを殺すのはいけないとこれだけでお答には充分じゅうぶんであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
で、多少たしょうわたくしのききそこね、おもちがいがないともかぎりませぬから、そのてん何卒なにとぞ充分じゅうぶんにおふくくださいますよう……。
またそうした手数を尽さないでも、私の本意が充分じゅうぶんご会得になったなら、私の満足はこれに越した事はありません。あまり時間が長くなりますからこれでご免を蒙ります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
照彦様は叱られなかったが、尾沢生は充分じゅうぶん目的を達した。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もっとも生活費はあまるほど充分じゅうぶん残して行きました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ビジテリアン諸氏はこれらのことは充分じゅうぶんご承知であろうがなおこれを以て多くの病弱者や老衰者ろうすいしゃならび嬰児えいじにまで及ぼそうとするのはどう云うものであろうか。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ばあさんに聞いてみると、すこぶる水気の多い、うまい蜜柑だそうだ。今にうれたら、たんとし上がれと云ったから、毎日少しずつ食ってやろう。もう三週間もしたら、充分じゅうぶん食えるだろう。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから次は油揚あぶらあげです。油揚は昔は大へん供給が充分じゅうぶんだったのですけれども、今はどうもそんなじゃありません。それで、実はこれはすたれた食物であります。
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
近き将来、各国から委員が集って充分じゅうぶん商議の上厳重に処罰されるのはわかり切ったことである。又この事実は、ビジテリアンたちの主張が、畢竟ひっきょう自家撞着じかどうちゃくに終ることを示す。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのときあちこちの氷山に、大循環到着者とうちゃくしゃはこの附近ふきんおいて数日間休養すべし、帰路は各人の任意なるも障碍しょうがいは来路に倍するをもっ充分じゅうぶん覚悟かくごを要す。海洋は摩擦まさつ少きもかえって速度は大ならず。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もっともこれは豚の方では、それが生れつきなのだし、充分じゅうぶんによくなれていたから、けしていやだとも思わなかった。かえってある夕方などは、ことに豚は自分の幸福を、感じて、天上に向いて感謝していた。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)