仲間ちゅうげん)” の例文
間もなく——もう雀の声が聞かれる頃、ガタン、蔵屋敷のかんぬきが鳴る、寝不足そうな仲間ちゅうげんほうきを持ってく、用人らしい男が出てゆく。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
出合頭であいがしらに突当ろうとしたのは、やはり二人づれの酔どれ、どこぞの部屋のわた仲間ちゅうげんと見える。よくない相手にとっつかまった兵馬は
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その頃、彼は初めて白洲しらすに引きすえられていた盗賊の木鼠長吉きねずみちょうきちを見たのである。彼は、仲間ちゅうげんで木鼠ともむささびとも仇名あだなをとっていた。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
外に拙者と、お腰元が一人、おまつといってこれは十八、仲働きが二十六のおみやという忠義者、下女が二人、それにてつという仲間ちゅうげんがいる。
伊織が続いて出ると、脇差を抜いた下島の仲間ちゅうげんが立ちふさがった。「退け」と叫んだ伊織の横に払った刀に仲間は腕を切られて後へ引いた。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
右側は武家屋敷で、仲間ちゅうげんたちが門前を掃いているのが見えた。丹三郎は駕籠を追いぬいて、絶叫しながら前へ立ちふさがった。
「京弥! 京弥! うろたえた声が表に致すぞ。何ぞ火急の用ある者と見える。仲間ちゅうげん共に言いつけて、早う開けさせて見い」
人垣を抜けると、番所の入口に、仲間ちゅうげんが一人、番人が一人、腰かけていた。薄暗い中の方に、四五人の士姿が見えた。庄吉が
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「同役(といつも云う、さむらいはてか、仲間ちゅうげんの上りらしい。)は番でござりまして、唯今ただいま水瓶みずがめへ水を汲込くみこんでおりまするが。」
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲間ちゅうげん、小間使、奥女中、下働き、厩番うまやばんなど、多ぜいの召使にかこまれていましたが、奥方は二、三年まえに亡くなって
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
絶えざる低い大太鼓おおだいこの音に例の如く板をバタバタたたく音が聞えて、左手の辻番小屋のかげから仲間ちゅうげんござを抱えた女とが大きな声で争いながら出て来る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それがために庭掃除をする仲間ちゅうげんが三人いて、夏になると毎日、庭の草を抜き捨てるのに忙しかったそうです。
江戸の化物 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仲間ちゅうげん仰向あおむけになって見ると驚きました。かたわらに一本揷ぽんさしの品格のい男がたゝずんで居るから少しおくれて居ました。
そして、向こう側の、供らしい仲間ちゅうげんをかえりみて、笑った。お高は、気がついて、あわてて手を引っこめた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
男子禁制の区域にも、雑色ぞうしき小者こもの仲間ちゅうげんの類は使われているから、先ずそう云う方面から身体検査や身元調べが始められて、追い/\上の方の女中たちにまで及んだ。
おれは、武家が嫌いだから、渡り仲間ちゅうげんこそしなかったものの、小屋者の真似まねさえ、やらかしたよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これから往く所があると偏袒かたはだぬぎとなり、着物の前をはだけ、酒樽をもつて暴れ出し、玄関にて仲間ちゅうげんどもを相手に打合ふ間、頭のぎりぎりより足の爪先まで生酔なまよいならぬ所なく
噺家はなしか、たいこもち、金に糸目をつけぬ、一流の人たちがおもな役柄に扮し、お徒歩かち駕籠かごのもの、仲間ちゅうげん長持ながもちかつぎの人足にんそくにいたるまで、そつのないものが適当に割当てられ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ここには若党仲間ちゅうげんなどいくらもいた。その中の一人があに計らんや賊の親玉であって、常に私の家の様子をよく知っていたので、この夜半の騒ぎに乗じて這入ったのであった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
兵衛はまず供の仲間ちゅうげんが、雨の夜路を照らしている提灯ちょうちんの紋にあざむかれ、それから合羽かっぱかさをかざした平太郎の姿に欺かれて、粗忽そこつにもこの老人を甚太夫と誤って殺したのであった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
準太は八人の仲間ちゅうげんをつれ東南の出邸でやしきを守るがいい。卓三も八人の仲間をつれ東北の出邸を守るがいい。千吉も松次郎も八人ずつつれて、西北と西南の出邸とを、やはり厳重に守るがいい。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時節がら、厳重な警戒で、護衛の武士、足軽あしがる仲間ちゅうげんから小道具なぞの供の衆まで入れると二千人からの同勢がその領地を通って、かねて触れ書の回してある十三日には馬籠の宿はずれに着いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青い着物を着た仲間ちゅうげんや馬丁というものが邸内の長屋に家族づれで住み込んでいるという大がかりな生活ぶりであったそうだが、その父という人の気質には旧幕臣としての鬱憤が激しくもえていて
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ただ彼らは、彼らの生活がはなはだしく脅かされる時だけ、仲間ちゅうげんのような彼らの忠実さから、彼らは、自身に立ちかえるのであった。そして、彼らは、それに成功することもあったが、多く失敗した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
侍が出て往ってみるとそれは隣家の仲間ちゅうげんであった。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と抱き止めにかかる厩仲間ちゅうげん
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あらゆる謝罪のことばをならべたが——巌流は耳がないように、見向きもせず、仲間ちゅうげんしぼらせた手拭で、顔など拭いて平然としていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突き当って筋違すじかい見附、右へ行くと、柳原から両国だ。柳原は辻斬りの名所、柳の下にむしろを抱えて仲間ちゅうげんや折助相手の、辻君つじぎみが遊泳した。
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
この時に、前の五六騎づれの侍たちについていた仲間ちゅうげんたちが、ほとんど残らず取って返して、ズラリと平吉を取巻きました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人は侍にただされるのをひどく当惑がる様子であったが、おとどしの暮に大手の酒井様のお邸で悪い事をして逃げた仲間ちゅうげんの亀蔵の事だと云った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
こけむした築山つきやま石灯籠いしどうろう、泉水などの広い庭、表や奥の書院から仲間ちゅうげん部屋、女中部屋にいたるまで、ありし日のおもかげをそのままにしのばせているのです。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と不気味だからそこ/\に挨拶してき過ぎますと、武士さむらいはピシャ/\供の仲間ちゅうげんと一緒に跡を追って来る。
この柳生の上屋敷の前は、各大名の使者にくっついてきた供の者、仲間ちゅうげん折助おりすけたちで押すな押すなの混雑。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
加能川には釣り場が多い、雇い仲間ちゅうげんの段平は「三十八カ所ある」と云った。半三郎はひととおり見て廻ったが、自分の求めている条件に合うのは、その淵だけであった。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
牛込見附で、仲間ちゅうげんの乱暴者を一にん、内職を届けた帰りがけに、もんどりを打たせたという手利てききなお嬢さんじや、くるわでも一時ひとしきり四辺あたりを払ったというのが、思い込んで剃刀で突いたやつ
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我が家に近い桃林寺とうりんじの裏手では酒買いに行く小坊主の大胆に驚き、大岡殿おおおかどのの塀外の暗さには夜鷹よたかいど仲間ちゅうげんむれに思わずも眼を外向そむけつつ、種彦はようやくそのいえかどにたどりついた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は此の間見た草双紙の中の、旗本の若侍が仲間ちゅうげんと力を協わせて美人を掠奪する挿絵の事を想い泛かべながら、仙吉と一緒に友禅の裾模様の上から二本の脚をしっかりと抱きかゝえた。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
刺青のある職人は出入りをさせないなどと云ううちもありますから、い職人になろうと思うものは迂濶に刺青などは出来ないわけです。武家の仲間ちゅうげんなどにも刺青をしているものがありました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「いいや、由羅の仲間ちゅうげん共の話によると、由羅を刺そうとしたそうだの?」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
秋はますます深くなった。喜三郎は蘭袋の家へ薬を取りに行く途中、群を成した水鳥が、しばしば空を渡るのを見た。するとある日彼は蘭袋の家の玄関で、やはり薬を貰いに来ている一人の仲間ちゅうげんと落ち合った。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
叫んだ奴は槍先に突き抜かれたか、闇をって小川の中へ落ち込む。その隙に後の片棒と仲間ちゅうげんの五平は、足を宙にして逃げ出した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家斉の末の娘が鳥取に嫁いで、仲間ちゅうげん駈落かけおちしたという有名な秘話は、皆様も何かの機会にお聴きになったことがあると思います。
これとほぼ時を同じうして、仙台の町奉行丹野元之丞たんのもとのじょうが、何か感ずるところあって、仲間ちゅうげん一人を連れて不意に、古城の牢屋を見廻りに来ました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
暫くして若党仲間ちゅうげんが来て、夫妻をたすけ出した。抽斎は衣服の腰から下が裂け破れたが、手は両刀を放たなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その屍をふみこえて、ついで下男部屋の戸をガラリとひきあけると、そこには、部屋のかたすみに仲間ちゅうげんの茂助が、歯の根もあわずガタガタとふるえています。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
半九郎が大声に仲間ちゅうげんを呼んで、雨戸を開けさせたので、そこから庭へおびき出そうとするのだが、右近は、五人に一人、広場へ出ては不利と見て、さそいに乗ろうとはしない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はたから見兼て飛んでり、突然いきなり武士さむらいの襟上取って引倒し、又仲間ちゅうげんをやッと云って放り出した。
丹三郎は片側が武家屋敷で、門前に仲間ちゅうげんのいるのを見た。門前を掃いていた二人の仲間は、なに事かというように、こちらを眺めていた。弥吉も五六間はなれた処に立っていた。
旗本といっても小身しょうしんであるから、伊助という仲間ちゅうげんひとりを連れて出た。
温泉雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茶の長火鉢ながひばち妙振出みょうふりだしをせんじていた妻何心もなく取次に出て見ると、堀田原ほったわら町名主まちなぬしを案内にして仲間ちゅうげん提灯ちょうちん持たせた中年のさむらい小普請組こぶしんぐみ組頭くみがしらよりの使者と名乗って一封の書状を渡して立去る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)