二十はたち)” の例文
明治二十一年というときの日本は、二十はたちばかりの若い女の書いた小説でも、それが上梓され、世間が注目するだけには開化していた。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
スッと、内からかご塗戸ぬりどをあけて、半身乗り出すように姿を見せた人物を仰ぐと、青月代あおさかやきりんとした殿とのぶり、二十はたち前後と思われます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年は二十はたちを多くは出てゐなかつたゞらう。が、さうした若い美しさにも拘はらず、人を圧するやうな威厳が、何処かに備はつてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
私は二十はたちになつた今日までの生涯しやうがいにこれぞといつて人さまにお話し申す大事件もなく、父母の膝下しつかに穏やかな年月を送つて参りましたが
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
さして目に立つほどの容貌きりょうではないが、二十はたちを越したばかりのなまめかしさに、大学を出たばかりの薬局の助手がたちまち誘惑しようとしたのを
老人 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
園芸を好み、文芸をも好みしが、二十はたちにもならざるうちに腸結核ちやうけつかくかかりて死せり。何処どこか老成の風ありしも夭折えうせつする前兆なりしが如し。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
姉娘のとよなら、もう二十はたちで、遅く取るよめとしては、年齢の懸隔もはなはだしいというほどではない。豊の器量は十人並みである。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
はい、この疼痛のござりますうちだけは、骨も筋も柔かに、血も二十はたち代に若返って、楽しく、嬉しく、日を送るでござりましょう。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜は暑くるしきとこの中に、西部利亜シベリアの汽車の食堂にありし二十はたちばかりのボオイの露人、六代目菊五郎にいきうつしなりと思へりしに
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
十九にして恋人を棄てにし宮は、昨日きのふを夢み、今日をかこちつつ、すぐせば過さるる月日をかさねて、ここに二十はたちあまりいつつの春を迎へぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それは私がまだ二十はたち前の時であった。若気の無分別から気まぐれに家を飛びだして、旅から旅へとあてもなく放浪したことがある。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
殊にその頃のわれらは未だ二十はたち台の若さであったので、大した分別もなく下らぬことを言い合ってよろこんでいたものであった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まだ二十はたち前の若者で、全然下回りの役者だったが、それが、ぽんたんの言葉で言えば「兄貴」の鶴家つるやあんぽんと組んで、漫才師になった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
なぜなら実際に見たところでも今年でせいぜい二十はたちぐらいの若さにしか思えないし、容貌のわりに云う事やする事が早熟なのは
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
春子さんの下に二十はたちの安子さんと十九の芳子さんが控えていたから、世話好きの知合は既に仲人役を申出たことが度々あった。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まだ二十はたちぐらいのみずみずとしたあだっぽい女の姿をみとめると、不意に鋭い口調で、ささやくように伝六へ命じました。
二十はたちか二十一で一躍して数年以上の操觚そうこの閲歴を持つ先輩を乗越して名声を博し、文章識見共に当代の雄を以て推される耆宿きしゅくと同格に扱われた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
其方そつちを振向くと、丁度ちやうど、今二十はたち位になる女が、派手な着物を着た女が、その渡船小屋わたしごや雁木がんぎの少し手前のところから水へと飛込んだ処であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
どちらも十八九、どうかしたら二十はたちぐらいでしょう。讃州志度かられて来た海女あまというにしては、恐ろしい美人です。
一行は十二人、毎年それを仕事にしているリーダアが一人つくのであった。十五六から二十はたち、二十四五の男女もあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
旦那は出おくれるようなお方ではなく、足腰は二十はたちの火消人足と同じぐらい確かなんで、火にまかれて死ぬようなドジをふむお方ではございません。
二十はたちを越すや越さずに見える、目の大きな、沈んだ表情の彼女の襟の藍鼠あいねずみは、なんとなく見る人の心を痛くさせた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あの娘に貴方を見せたいや、貴方ね、二十二まで独身ひとりで居るのだから、十九つゞ二十はたち色盛いろざかり男欲しやで居るけれども、貴方をすうっとして美男いゝおとこと知らず
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おれは、やつと、二十はたちになつたばかりさ。雄図勃々といふ時代だ。石炭倉の中で、英語をコツコツやつてた頃だ。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
子供心にね、私はその時まだ二十はたちにもなってませんでしたので、兄はこの十二階の化物に魅入みいられたんじゃないかなんて、変なことを考えたものですよ。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なおると医師いしゃもいうじゃアないか。ねエ浪さん、そうじゃないか。そらアおっかさんはその病気で——か知らんが、浪さんはまだ二十はたちにもならんじゃないか。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
娘は茶をついでにすすめる。年は二十はたちばかりと見えた。紅蓮ぐれんの花びらをとかして彩色したように顔が美しい。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「初枝もすぐ二十はたちになる。——」おえふはさう考へて、急に何かにおどろかされるやうな氣もちになることがある。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
大人おとなになった姫君は、自身の運命を悲しんで一年の三度の長精進などもしていた。二十はたちぐらいになるとすべての美が完成されて、まばゆいほどの人になった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ただあの人が従僕根性なことだけは知っていますわ。わたしがあの人のところへ嫁いだのは二十はたちの年でした。
二十はたちになったころから、参吉の訪ねて来るのが少なくなった。店の手があかないんだ、と云ったことがある。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
君は老子の徒輩と見える、虚無恬淡てんたんの男と見える。二十はたちそこそこの若い身空でそう恬淡では困るじゃないか。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いちばん上のおよめさんは二十三で、しろそでにのはかまをはいていました。二ばんめのおよめさんは二十はたちで、むらさきそでに桃色ももいろのはかまをはいていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
実際、青年は、二十はたちになるまでは、自分の詩や文章を見せることを、どちらかといえば恥ずかしがるものだ。
葭簀よしずかげからぼんやり早稲わせの穂の垂れた田圃たんぼづらをながめていると、二十はたちばかりの女中がそばへやってきて
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
十六の年から二十はたちまでつとめたが、病気をして宿にさがってからずるずるになって、母親の手助をしていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
年齢は二十はたちをもう二つ三つ過ぎてゐるであらう。以前に湿性であつたのが乾性に変型したのに違ひなく、眉毛が薄くなつてゐるが浸潤や潰瘍は少しもなかつた。
癩を病む青年達 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
ほかならぬあの大友ノおおきみの妃に迎へられて、ことし二十はたちになるこの同いどしの若夫婦のあひだには、すでに七つになる葛野かどのノ王も儲けられてゐるといつた風の
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
二十はたち前後の年頃で、屋内生活の爲めに、顏色も惡く、ひ弱さうだつた。しかし、レイクランヅに於ける一週間は、彼女を殆んど見違へる程明るく、元氣にした。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
「僕には、二十はたちくらいに見える時もあれば、また大変けて、二十五六にも見える時があるんだが……。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
二十はたち以下の無分別から出た無茶だから、その筋道が入り乱れて要領を得んのだと評してはなおいけない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家のなかには、品のいい武家の後室らしい女と、その娘のかあいい女の児、それに、二十はたちばかりの美しい腰元が一人、食事その他の世話役に、ついているだけだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
博奕打になるか、体を張った悪質の闇屋になるか、二十はたちに満たぬ者は飛び出した親の元に帰るかした。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
Dの二十はたちになる娘は、母といつしよに近頃行方をくらませたさうだつた。その居所を、おそらく彼が承知してゐるのだらうと、Dは考へてゐたが、彼も知らなかつた。
裸虫抄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
幸ひ二三本酒壜の並んでゐるのを見たので、それを取つてひやのままちび/\飮んでゐると、二十はたち歳位ゐの色の小黒い、愛くるしい顏をした娘が下の溪から上つて來た。
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
「いよいよ何日いつと決まった?」と女の顔をじっと見ながらたずねた。女は十九か二十はたちの年ごろ、色青ざめてさも力なげなるさまは病人ではないかと僕の疑ったくらい。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
二十はたち前後の小柄な、肉附きのいい、下ぶくれの円顔で、眼のやゝ細い、柔和さうな顔つきの人だつたが、私がすぐ帰らうとすると、一寸お待ち、といつて奥へ引込み
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
然し今はただ一色ひといろよごれはてた、肩揚のある綿入を着て、グル/\卷にした髮には、よく七歳なゝつ八歳やつつの女の子の用ゐる赤い塗櫛をチョイと揷して、二十はたちの上を一つ二つ
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
○こゝに何村なにむらといふ所に家内の上下十人あまりの農人のうにんあり、主人あるじは五十歳ばかりつまは四十にたらず、世息せがれ二十はたちあまり娘は十八と十五也。いづれも孝子かうしきこえありけり。
「まさか。それはね、やっぱり女中さんだよ。秘書を兼ねたる女中、というところだ。女学校は卒業してるね。だからもう、十九、いや二十はたちを越えてるかも知れん。」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)