駱駝らくだ)” の例文
駱駝らくだ岩。眼鏡岩、ライオン岩、亀岩などの名はあらずもがなである。色を観、形を観、しかして奇に驚き、神をののき、気眩すべしである。
日本ライン (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
エリサベツの子ヨハネは荒野に住み、身に駱駝らくだあらき毛衣を着、いなごと野蜜を食としたというから、彼はエッセネ派に近い人と思われる。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
駱駝らくだのやうな感じの喜三郎老人は、思ひの外敏捷びんせふに立ち上がると、平次と八五郎が留める間もなく、身をひるがへしてざんぶと川の中へ——。
その場合は、札木合ジャムカ一家をはじめ、札荅蘭ジャダラン族の一人にも刃を加えませぬ。この儀は、大王成吉思汗ジンギスカン、真白き駱駝らくだにかけて誓います。
今一つは駱駝らくだに乗りたる武者二人ふたり、馬に乗れる二人ふたり、一つおきに並びて鎗、刀などを振れる形のものにさふらふ。馬は黒く、駱駝らくだは栗色にさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
早い話が地平線下に居る獅子を発見して駱駝らくだふるえ出したり、山の向うに鷹が来ているのを七面鳥が感付いて騒ぎ立てたりする。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あまりしばしば私はあたまを疲らせるごとに、よく天幕のそと側へ出、そして駱駝らくだのつながれている小屋がけのそばへ行った。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大木の根元の幹は六抱えもある巨木で、肌は粗い亀裂破ひびわれがしていながら、ところ/″\駱駝らくだの膝のようなこぶをつけています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
岸べに天幕があって駱駝らくだが二三匹いたり、アフリカ式の村落に野羊がはねていたりした。みぎわにはあしのようなものがはえている所もあった。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
金に光る回々フイフイ教寺院の月章。砂ぶかい大通り。駱駝らくだのむれ。三角の毛皮帽をかぶったキルギス族遊牧の民。カザクスタン共和国の、クリイム。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
たとえば艱難かんなんなんじを玉にすとか、富める人の天国に行くは駱駝らくだの針の穴を通るよりかたしとかいうことなどあるがために
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
中川氏はそれを聞いて駱駝らくだのやうに首を突き出した。およそ世間にある事なら、何に限らず聴いて置いて損はないといふのがこの人の心得なのだ。
この間主人が動物園から帰って来てしきりに感心して話した事がある。聞いて見ると駱駝らくだと小犬の喧嘩を見たのだそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人が振り返って見ると、赤煉瓦色の、まるで駱駝らくだのような奇妙なこぶを背中にくっつけたびっこの牛だから、タヌは驚いて
もちろん、貴様が「しみったれの駱駝らくだ野郎」と言う声は、おれの耳にはいる。口惜くやしがってくたばれ。勝った嬉しさで、こっちもくたばりそうだ。
(マコはクリスト伝第七章二五以下にこの事実を記してゐる。)バプテズマのヨハネは彼の前には駱駝らくだ毛衣けごろもいなごや野蜜に野人の面目をあらはしてゐる。
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「———こいさん去年の冬ロン・シンでこしらえた駱駝らくだのオーバーコートな、あれは啓坊が拵えてくれはったんと違うか」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
縁先えんさきの左横手に寄って柘榴ざくろふしている。この柘榴は槙にも劣らぬ老木である。駱駝らくだの背のこぶのような枝葉の集団が幾つかもくもくと盛りあがっている。
ただ反蒭者にれはむものと蹄の分れたる者のうち汝らのくらうべからざる者は是なり即ち駱駝らくだうさぎおよび山鼠やまねずみ、是らは反蒭にれはめども蹄わかれざれば汝らにはけがれたる者なり。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その冬お見舞として駱駝らくだの毛糸で襟巻えりまきを編んで差上げたら、大変お喜びで、この冬は風も引くまいとの礼状でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
日本画をもって写実の道を歩こうとする事は根本から間違っている。日本画を以て写実を行うよりは駱駝らくだの針の穴を通る方がやさしいといいたい位である。
上野動物園に飼うてあるアメリカ駱駝らくだという獣などは、頸がきわめて細長いゆえ、このふくろの中に貯えられてある財産がときどき一塊ずつ食道を逆行して
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
博士は暫時しばらく立っていた。駱駝らくだを薦める埃及エジプト人の、うるさい呼声を聞き流して、暫時そこに立っていた。そして全く日が暮れた時、彼は旅館へ引き返えした。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは、ジェソップ氏に対しても決して大人サヒーブとは云わないこと、印度人が、自らを卑くして駱駝らくだのように膝を折る、あれがチャンドの雰囲気にはないのだ。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「その所有物もちものは羊七千、駱駝らくだ三千、牛五百くびき牝驢馬めろば五百、しもべおびただしくあり」というほどの富の程度であった。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
こんな恐ろしい武器に対する羅馬軍の攻撃方法、楯隊の防禦戦、皇帝が駱駝らくだに跨がって逃げる様子等、真に当時の残忍なる戦争が活々と描き出されている。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
やがて子供は瞳を閉ぢて笛を吹いて行く人、背中を駱駝らくだのやうに曲げて歩く人、二脚の杖にすがつて、一脚の足を運ぶお葉の姿に驚きを感じたことであらう。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
しかしてこの途上に入らんとするはなお駱駝らくだが針孔に入らんとするよりも難し。あに憐れむべきにあらずや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
丹頂たんちょうつる、たえず鼻を巻く大きな象、遠い国から来たカンガルウ、駱駝らくだだの驢馬ろばだの鹿だの羊だのがべつだん珍らしくもなく歩いて行くかれの眼にうつった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それが五十円のもの、八十円のものとなって、ついに本当の駱駝らくだのシャツが一番よいということになる。全く体験すると一番よく分る。茶碗もその通りであります。
それが今日こんにちのように高い空から、または海の底から、自由に送りとどけられるようになるまでに、人が人にたのまれ、もしくは牛馬ぎゅうば駱駝らくだ船車せんしゃなどを使いこなして
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この道を辿るべく、三十頭の駱駝らくだにあらゆる探険用具と大氷袋とをつみ、すっかり準備をととのえたスタインの一行は、厳冬を目ざして、ミラーンの古市を出発した。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
さうすると、かの音吐朗々たる不釣合な聲も、或日或時或機會、いなごを喰ひ野蜜を甞め、駱駝らくだの毛衣を着て野に呼ぶ豫言者の口から學び得たのかと推諒する事も出來る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
またしばしば仲密夫人に勧告して、蜂を飼え、とりを飼え、牛を飼え、駱駝らくだを飼えとさえいうのだ。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
左側の丘が駱駝らくだの背のように出っ張って来ているのが見えた。エルマはその丘のはなの方を見た。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
低いながらも遮っている、今通過した大籠山は、駱駝らくだ形をして、三角測量標が、霧の波に冠されながらも、その底から頂へと突き抜いて、難破船のほばしらのように出ている
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
でヨーロッパ人は大抵顔色、眼付、髪の色までが違って居るのみならず、大仕掛に沢山な同勢、駱駝らくだなども沢山に引っ張って来るものですからすぐ追い還されてしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と、皮膚の工場は急激に屈伸すると、突然、アーチのトンネルに変化した。油を塗った丸坊主の支那人が、舌を出しながら、そのトンネルの中を駱駝らくだのように這い始めた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
赤帽が縦側の左の腰掛の真ん中へ革包を置いて、荒い格子縞の駱駝らくだ膝掛ひざかけそばいた。洋服の男は外へ出た。大村が横側のうしろに腰掛けたので、純一も並んで腰を掛けた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お神はお愛想あいそを言ったが、倉持は何となく浮かぬ顔で、もぞもぞしていたが、よく見ると彼は駱駝らくだのマントの下に、黒紋附の羽織を着て、白い大きな帯紐おびひもを垂らしていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「おいおい。人の頭の上で泥下駄を垂下ぶらさげてる奴があるかい。あっちの壁ぎわがいてら。そら、駱駝らくだの背中みたいなあの向う、あそこへ行きねえ。」と険突けんつくを食わされた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
帰りみちに、僕は遠い駱駝らくだの匂でもしさうな埃のなかを歩きながら、曾老人のやうに隣人を持たない生活はいくら美しくてもやがてほろびるだらうと、静かな心に反復して見た。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
蛇もまた人祖堕落の時まで駱駝らくだごとき四脚を具え、人をけてはエデン境内最も美しい物じゃったが、禁果をぬすみ食った神罰たちまち至って、楽土諸樹木の四の枝がれ下り
二人は駱駝らくだのうしろに馬、馬のあとには犬、それから羊、驢馬ろば、牛、獅子、象、熊、羚羊かもしかその他いろんなものをみんな長い行列に仕あげて、それを箱船までとどかしてしまふと
明星のゆふべはやがて月の夜となりぬ。ホテルの下に泉あり。清冽の水滾々と湧き、小川をなして流る。甕の婦人来り、牧夫来り、ぎうやう駱駝らくだ、首さしのべて月下に飲む。
駱駝らくだの背中のように凹凸のひどい寝台で、その上に布団を敷いて患者たちは眠るのだった。尾田が与えられた寝台の端に腰をかけると、佐柄木も黙って尾田の横に腰を下ろした。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
ソして富める者の天国に入るは駱駝らくだの針の穴を出づるよりも難しと説き給ふならば、彼を十字架に懸けるるのは果して誰でせう、王も貴族も富豪もみんさかづきを挙げて笑つて居ませう
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
詩人が権力感情に高翔するのは、駱駝らくだ獅子ししになろうとし、超人が没落によって始まるところの、人間悲劇の希臘ギリシャ的序曲である。あらゆる文明の源泉はこの叙事詩エピックから始まってくる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そこには綿が生え、駱駝らくだしか歩けないような地域までひろがっている。ペルシャやアフガニスタンはすぐ隣りだ。蒙古と国境がくっついている。その中に、二十五の人種が棲んでいる。
軍中の荷駄には駱駝らくだを用い、またその上に長槍をひっさげてゆく駱駝隊もあった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)