頓着とんぢやく)” の例文
紺絣こんがすりの兄と白絣しろがすりおととと二人並んで、じり/\と上から照り附ける暑い日影ひかげにも頓着とんぢやくせず、余念なく移り変つて行く川を眺めて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
が、きやくたうがつまいが、一向いつかう頓着とんぢやくなく、此方こつち此方こつち、とすました工合ぐあひが、徳川家時代とくがはけじだいからあぢかはらぬたのもしさであらう。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もつと正直にいふと時鳥が居なかつた事である。時島は大名や連歌師やには頓着とんぢやくなく遠い国へ飛んでゐたのだ。唯もう雌が恋しいばつかりに。
勘次等かんじら、そんときかられたくちかねえや」卯平うへい他人ひとには頓着とんぢやくなしにかういつてしたらしてつばんだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
雲飛うんぴといふ人は盆石ぼんせきを非常に愛翫あいぐわんした奇人きじんで、人々から石狂者いしきちがひと言はれて居たが、人が何と言はうと一さい頓着とんぢやくせず、めづらしい石の搜索さうさくにのみ日を送つて居た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ヂオゲンは勿論もちろん書齋しよさいだとか、あたゝか住居すまゐだとかには頓着とんぢやくしませんでした。これあたゝかいからです。たるうち寐轉ねころがつて蜜柑みかんや、橄欖かんらんべてゐればれですごされる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかし、そんな事には一向頓着とんぢやくなく、別な新しい話が、もう、別なところで持ち上つてゐた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
しばらくあはせてゐたが、宗助そうすけはついに空腹くうふくだとかして、一寸ちよつとにでもつて、時間じかんばしたらといふ御米およね小六ころくたいする氣兼きがね頓着とんぢやくなく、食事しよくじはじめた。其時そのとき御米およねをつと
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
成れ拙者は未熟みじゆくなれどもせがれの半四郎は古今の達人なりと御噺おはなし有しが其半四郎先生に今日御目おめかゝらんとはゆめさら存ぜざりしなり又其御身形おんみなりは如何なされし事やとひければ半四郎きゝて今も云通り某しは生質うまれつき容體なりふりには一向頓着とんぢやくせず人は容體みめより只心なり何國へ行にも此通り少しもかまはず只々蕩樂だうらくは酒を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
飼主が見かねて、雌を一羽当てがつたが、鵞鳥はそれに振向きもしないで、狗が迷惑さうな顔をするにも頓着とんぢやくなく、相変らずべたべたしてゐたさうだ。
が、う、そんなこと頓着とんぢやくしない。人間にんげんなどにはけないで、くらなか矢鱈やたらに、其処等そこいらながめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しか彼等かれら其麽そんなことに頓着とんぢやくたぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
古時計はナポレオン三世のやうな気忙きぜはしさうな顔をして、露西亜人などには頓着とんぢやくなく息をはづませてゐる。紳士はいつになく露西亜が恋しくなつて来た。
むかし文覺もんがく荒法師あらほふしは、佐渡さどながされる船路みちで、暴風雨あれつたが、船頭水夫共せんどうかこどもいろへてさわぐにも頓着とんぢやくなく、だいなりにそべつて、らいごと高鼾たかいびきぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
身代較べはいつのでも税務署の役人か、さもなければ馬鹿者かのする事で、賢い人はそんな事には頓着とんぢやくしない。
また生命いのちかまはずにツたしうなら、かぜかうが、ふねかへらうが、那樣事そんなこと頓着とんぢやくはずぢやが、見渡みわたしたところでは、誰方どなた怯氣々々びく/\ものでらるゝ樣子やうすぢやが、さて/\笑止千萬せうしせんばん
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大膳は鞍の上で独語ひとりごとを言つたが、その次ぎの瞬間に馬が勝手に女のあとをつけてゐるのに気がついた。馬は鞍の上の主人には頓着とんぢやくなく、ずんずん女のあとを追つて往つた。
そして狭いパノラの町で、どんなことが起きようが、それは少しも頓着とんぢやくしなかつた。
博士は少しお酒が入ると、場所柄には頓着とんぢやくなく、直ぐつて国歌をうたひ出す。