霜夜しもよ)” の例文
冴えた霜夜しもよであつた。二十銭を受取つて帰つた。遅い夕食として夜泣きうどんを食はうとすると、確かにどんぶりの中へ入れた金がなかつた。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
霜夜しもよふけたるまくらもとにくとかぜつまひまよりりて障子しようじかみのかさこそとおとするもあはれにさびしき旦那樣だんなさま御留守おんるす
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なき柳川春葉やながはしゆんえふは、よくつみのないうそつて、うれしがつて、けろりとしてた。——「按摩あんまあ……はありツ」とたちまみつきさうに、霜夜しもよ横寺よこでらとほりでわめく。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ホテルの門前を警衛する騎兵の銀の冑が霜夜しもよ大通おほどほりに輝き、馬の気息いきが白くつて居た。(一月二十五日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
暮の二十七日と言つても、眞夜中近い町々は、さすがにひつそり寢靜まつて、平次と八五郎の足音だけが、霜夜しもよの靜肅を破つて、あわたゞしく響き渡ります。
日はもうとっぷり暮れて、斗満とまむの川音が高くなった。幕外そとは耳もきれそうな霜夜しもよだが、帳内ちょうないは火があるので汗ばむ程の温気おんき。天幕の諸君はなおも馳走に薩摩さつま琵琶びわを持出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小竹ささのさやぐ霜夜しもよ七重ななへころもにませるろがはだはも 〔巻二十・四四三一〕 防人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして過ぎ去った青春の夢は今幾何いくばくの温まりを霜夜しもよの石の床にかすであろうか。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
固く閉ぢたるまぶたあふれて、涙の玉、膝に乱れつ、霜夜しもよの鐘、響きぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あきふけぬ。けや。霜夜しもよのきり/″\す やゝかげさむし。蓬原よもぎふつき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
私は一案を工風くふうし、も虱を殺すに熱湯を用うるは洗濯婆せんたくばばあの旧筆法で面白くない、乃公おれが一発で殺して見せようと云て、厳冬の霜夜しもよ襦袢じゅばん物干ものほしさらして虱の親も玉子も一時に枯らしたことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
眼にさぐる雑魚ざこは箸つけて暗きかもやあはれ霜夜しもよ燈火ともしび
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あかしのさと霜夜しもよかな
荷風翁の発句 (旧字旧仮名) / 伊庭心猿(著)
薄綿うすわたはのばし兼ねたる霜夜しもよかな
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふ。こゑさへ、いろ暖爐だんろ瓦斯がす颯々さつ/\霜夜しもよえて、一層いつそう殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
がらかや此間このあひだこといぶかしう、さら霜夜しもよ御憐おあはれみ、羽織はをりことさへとりへて、仰々ぎやう/\しくもなりぬるかな、あとなきかぜさわしのぶがはらむしこゑつゆほどのことあらはれて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
無論屋根が無いので、見物の頭の上には、霜夜しもよほしがキラ/\光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
霜夜しもよ着るをさな小衾をぶすまぎあてて仕立て送らなうちのさがりを
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
霜夜しもよの記憶の一つ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をんな暫時しばし恍惚うつとりとしてそのすゝけたる天井てんじやう見上みあげしが、孤燈ことうかげうすひかりとほげて、おぼろなるむねにてりかへすやうなるもうらさびしく、四隣あたりものおとえたるに霜夜しもよいぬ長吠とほぼえすごく
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暖炉だんろ瓦斯がす颯々さっさつ霜夜しもよえて、一層殷紅いんこうに、鮮麗せんれいなるものであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、耳もきばもない、毛坊主けぼうず円頂まるあたまを、水へさかさま真俯向まうつむけに成つて、あさ法衣ころものもろはだ脱いだ両手両脇へ、ざぶ/\と水を掛ける。——かか霜夜しもよに、掻乱かきみだす水は、氷の上を稲妻いなずまが走るかと疑はれる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)