まじ)” の例文
旧字:
あれはどうやら三丁目らしい。さては油屋かな永楽屋かな。いいお客があると見える。油屋とするとお北めも、まじっているに相違ねえ
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雪は浅くて、ところどころに砂礫まじりの乾いた土が露出し、開墾のために立木を伐採したあとの切株が、雪原に点々と黒く残っていた。
荒野の冬 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして、喘ぎながら曳っぱっている馬の立てる湯気がそれとまじり、その霧がみんな馬の吐き出したものかと思われるほどであった。
中には各種をまじへ用ゐたるも少からず。なほこの外に多少の例外なきにあらねど、その数極めて少きを以て特にここに挙ぐるの要なし。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ときおり向うの庇の間から、頭の君と道綱とが小声で取交わしている話し声にまじって、しゃくに扇の打ちあたる音が微かに聞えてくる。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この老婦人は基督キリスト教の信者であつた。とは言へ、此頃は教会へ通ふことも絶えてなく、日常も神の名を会話にまじへることさへなかつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
角閃石かくせんせきに多くの黒雲母こくうんぼまじえた、また構成の比較的脆弱ぜいじゃくなもので、こと凝灰ぎょうかい岩をもまじえているので、風化浸蝕作用は案外早く行われ
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
カルルのつじなる『カッフェエ・ロリアン』に入りて見れば、おもひおもひの仮装色を争ひ、中にまじりし常の衣もはえある心地ここちす。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
色黄褐で香気はねぎ乾酪チーズまじえたごとし。だから屁にもちょっと似て居る。秋末、柳や白楊や樫の林下の地中また時として耕地にも産す。
其れが世田ヶ谷騎兵聯隊から持って来た新しい馬糞で、官馬の事だから馬が食ってまだよく消化しょうかしない燕麦えんばくが多量にまじって居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
来たるべき神の国ではその傷も全くいやされ、我と汝らと再会してまた離れることなく、まじりなき歓喜をもって新しきものを飲むであろう。
しかしながら、その拒絶の理由のうちに、少しでも相手が特殊部落民であるということがまじっているならば、それは社会的に大きな問題であります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
投げつけられたような気がしたのだ。第一あの柔らかい色彩は、ああいう子供でなければ見られない色彩だ。すこしもまじったものがない本当の色だ。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして私は若い店員たちの中に、一人まじっている年寄りのおじさんを見た。おじさんの主な役目は紙分けであった。
おじさんの話 (新字新仮名) / 小山清(著)
あわれむべし細川繁! 彼は全く失望して了って。その失望の中にはいつの苦悩がまじっておる。彼は「我もし学士ならば」という一念を去ることが出来ない。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
もんの前にはの七兵衛老爺じじいが、銀杏いちょうの黄なる落葉をいていた。横手の材木置場には、焚火の煙が白く渦巻いて、のこぎりの音にまじる職人の笑い声も聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何かのまじりのない英雄的な喜びにあずかることは、つねにわれわれに益をあたえ、どことも知れず気分が悪いときに、われわれの関節の凝りを取りさり
往来繁ゆききしげき町を湯屋の角よりれば、道幅その二分の一ばかりなる横町の物売る店もまじりながら閑静に、家並やなみ整へる中程に店蔵みせぐら質店しちやと軒ラムプの並びて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
此時龍馬は創を負て居るからと籠にのり、私は男粧して兵隊の中にまじつて行きました……、笑止をかしかつたですよ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
鳳仙花ほうせんかの、草にまじって二並ふたならびばかり紅白の咲きこぼるる土塀際をはすに切って、小さな築山のすそめぐると池がある。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といって戒めたが、まだ十日もたたないうちにまじっていた。こんなことが幾回もくりかえされたので、馬はうるさくてたまらなかった。黄英は笑って言った。
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこにはゑぞ菊とダリアとシネラリアとがまじり合つてゐた。田舎で花もないだらうと言ふので、それでわざ/\母親が今朝庭から刈取つて集めて来たのである。
草みち (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
泣きたい人をば泣かせてやり、そしてどんなに大きな憂愁が、この世の凡ての営みにうちまじっているかと云うことを、身にしみじみと感じさせてやりましょう。
顔にはよろこばしさにまじって打ち解けない表情があった。唇を動かしてはいたが声には出さなかった。彼の態度は堅苦しいものになって、はっきりと叫んで言うには
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ホームの半程なかばほどから、鷲尾も先を争う人々にまじって、赤く力みながらけ出したが、ひょッと横合から出て来た男に肩をツカまれてひっくり返りそうになった。——
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
幼少のころには、も少し形の均斉もとれていて、あるいは優れた血がまじっているのかもしれぬと思わせるところあったのであるが、それは真赤ないつわりであった。
これ祖先伝来のままにて何ら外国の影響を受けざる、まじりなき、純の純なるおしえを説かんとの意である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
彼一流の空想をまじへて、ぼんやり考へるともなく考へ、思ふともなくそんなことを思うて居た。
「風まじり雨降る夜の、……如何にしつつか、が世は渡る」といえば、一人が、「天地は広しといへど、あがためくやなりぬる、……斯くばかりすべ無きものか、世間よのなかの道」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ただ偽君子の群集するその中に十人並みの人がまじるゆえ、格別に目立つまでのことなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
真のまじり気のない主観的生活者、即ち所謂「詩を作らない詩人」でなければならない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
金網の垣を張った土手の真下と、水を隔てた堀端の道とには電車が絶えず往復しているが、その響の途絶える折々、暗い水面から貸ボートの静なかいの音にまじって若い女の声が聞える。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なるほどなかば以上の辺には随分拙ない作品もまじっている、しかしながら佳作もまた決して少くはない、世の中にいかなる事業でも、第一期の成績を二期もしくは三期の程度から顧みてみれば
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
道衍のこうを燕王に薦むるに当りてや、燕王ず使者をしてこうとも酒肆しゅしに飲ましめ、王みずから衛士の儀表堂々たるもの九人にまじわり、おのれまた衛士の服を服し、弓矢きゅうしりて肆中しちゅうに飲む。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
船中には物好きがいて携えて行ったものであろう。それで砕かれた物件にまじって彼岸花の球根があったと見える。島の土はその球根をひそかに埋めていた。自然は棄ててばかりはかない。
それが乱れ、まじり、重なって苔の上を照らすから、林の中に居るものは琥珀こはくびょうめぐらして間接に太陽の光りを浴びる心地である。ウィリアムは醒めて苦しく、夢に落付くという容子ようすに見える。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勝手元では鼠が味噌濾みそこしや鍋をがたがたさせる音にまじって、水道の水がぽたぽたと落ちる音がした。この寒さではその下が氷っているに違いないと彼女は思いながら、子供の身の上の寒さを案じた。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
今の世界は老屋ろうおく頽厦たいかの如し。これ人々の見る所なり。吾れおもえらく、大風一たび興って、それをして転覆せしめ、然る後朽楹きゅうえいを代え敗椽はいてんを棄て、新材をまじえてこれを再造せば、すなわち美観と為らんと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
俺は尋常たゞ地犬ぢいぬサ。まじりツけない純粋の日本犬につぽんいぬだ。耳の垂れた尻尾を下げたの碧い毛唐の犬がやつて来てから、地犬々々と俺の同類を白痴ばかにするが、憚りながら神州の倭魂やまとだましひを伝へた純粋のお犬様だ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
能く視れば、どうか文三もそのうちまじっているように思われる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
少女どち中に寝よちふうれしくてまじり寝にけりととよと云ひて
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そうして彼女等にまじって一人の老人がいるに過ぎない。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
ああ、せめては中にまじ合惚かつぽれ進行曲まるしゆから
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
まじへ 雨降る夜の 雨雑へ 雪降る夜は
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
ねず、まじらず、従はぬ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ほそりゆき、まじりけち
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そうして大変智恵者らしい。残忍性と反逆心との、まじり合ったような人間でもある。脇息に倚っている様子、酒テン童子を想わせる。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水素に少し空気がまじったり、逆に空気中に水素が少量混入した時に、爆発がどのような形をとって伝播でんぱするかを見ようというのであった。
何か向いの庭の中で聞きなれない人々の声にまじって爺やのしゃがれた声が聞えてくるので、どうしたのだろうと思っていました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
はや大聾だいろうとなったので四、五十年前に聞いた事のみよく話す。由って俚言土俗に関して他所風のまじらぬ古伝を受くるに最も恰好かっこうの人物だ。