鐘楼しょうろう)” の例文
旧字:鐘樓
同じ迷信と言うなら言え。夫婦仲睦なかむつまじく、一生埋木うもれぎとなるまでも、鐘楼しょうろうを守るにおいては、自分も心をきずつけず、何等世間に害がない。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
越前永平寺えちぜんえいへいじ奕堂えきどうという名高い和尚おしょうがいたが、ある朝、しずかに眼をとじて、鐘楼しょうろうからきこえて来るかねに耳をすましていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
小鳥ことりは、つくるために、鐘楼しょうろうまって、かねをつるしてあるつなかみをつついては、きちぎって、どこへかくわえてんでゆきました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なお大仏殿のうしろには、大講堂を初め、三面僧房、経蔵きょうぞう鐘楼しょうろう食堂じきどうの類が立ち並んでいる。講堂、食堂などは、十一間六面の大建築である。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
また、山上の大講堂から、鐘楼しょうろう、法蔵、諸院の坊舎、宝塔、高塔、峰々谷々の末院坊舎にいたるまで、残された伽藍がらんというものは一つもなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空想が生き生きと目ざめて、いつもいつも同じまぼろしのまわりを素早すばやけめぐる有様ありさまは、朝焼けの空につばめの群れが、鐘楼しょうろうをめぐって飛ぶ姿に似ていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
どこに鐘楼しょうろうがあるのやら、みちがあるのやら、見当がつかなかった。——僕は棒切れを一本拾って、それを振りまわしながら、寺院の庭を歩きまわった。
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
痩せこけて背のひょろ長いミチャイ小父が轅馬の背中へ這いあがったが、その恰好はまるで村の鐘楼しょうろうか、否それよりも、井戸の撥釣瓶はねつるべそっくりだった。
「大気は澄みきって、一ばん高い鐘楼しょうろうにとまっているからすくちばしが見えるほどだった。」(『晩花おそばな』第二章。同年)
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
手下のかずも五十人はくだるまいというンですが、どうして伏鐘というかというと、まだ若いころ芝の青松寺せいしょうじ鐘楼しょうろう竜頭りゅうずがこわれて鐘が落ちたことがある。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寺の鐘楼しょうろうが高く家々の上にそびえている。町の響も聞えて来るような気がする。——私は少年の時分、私の家の隠居家に来ていた婆さんのことを思い出だした。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
丹塗にぬりの家や白堊はくあの家や、鐘楼しょうろうめいた大きな塔が、あるいは林にまたは丘にすくすくとして立っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木枯の吹き荒れた夜の朝は、ならや栗の葉が本堂の前のそこここに吹きためられている。銀杏いちょうの葉はすっかり落ちつくして、鐘楼しょうろうの影がなんとなくさびしく見える。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それらの鐘楼しょうろう撞木しゅもくをふる音が、かわたれの一刻を長く尾をひいて天と地のあいだに消えてゆく。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかして丘の上には赤い鐘楼しょうろうのある白い寺だの、ライラックのさきそろった寺領の庭だの、ジャスミンの花にうもれた郵便局ゆうびんきょくだの、大槲樹おおかしわのきの後ろにある園丁にわつくりの家だのがあって
山の麓のさびれた高い鐘楼しょうろうと教会堂の下に麓から谷間へかけて、五六十戸ばかりの家が所々群がり、また時には、二三戸だけとびはなれて散在していた。これがユフカ村だった。
パルチザン・ウォルコフ (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
右手に鐘楼しょうろうがあって、小高い基礎いしずえの周囲には風が吹寄せた木の葉が黄色くまたはあか湿いろを見せており、中ぐらいなおおきさの鐘が、ようやせまる暮色の中に、裾は緑青ろくしょうの吹いた明るさと
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
華表とりいの形や社殿しゃでんの様式も寺の堂宇どうう鐘楼しょうろうを見る時のような絵画的感興をもよおさない。いずこの神社を見ても鳥居を前にした社殿の階前にはきまって石の狛犬こまいぬが二つ向合いに置かれている。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何百年来、朝夕を知らせ、非常を告げたお寺のかねさえ鐘楼しょうろうからおろされて戦争にいった。大吉たちがやたら悲壮ひそうがり、いのちをしまなくなったこともやむをえなかったのかもしれぬ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
しかし、鐘楼しょうろうの尖端で、ぴたりと止まる、ここで破られてはならぬというふうに。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
わたしはいっしょうけんめい目を見張みはって、けむりやかすみの中にぼやけている屋根や鐘楼しょうろうとうなどのごたごたした正体を見きわめようとつとめていたとき、ちょうど親方がやって来た。
崩れた跡の形まで覚えている城壁は、夜空にどっしり横にはっているし、屋根のそり返った古い鐘楼しょうろうも黒々とそびえていて、角の薬屋のげた金看板も元のままなのに、彼の家へ行く横町がないのだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
とへんじがきこえて、正観しょうかんが、ごそごそ鐘楼しょうろうからおりてきました。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
杜の右手の墓地を潜って鐘楼しょうろうの方へ近づいてゆく。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
一、 鐘楼しょうろうへはりてはひらぬつばめかな 也有
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その夜、丑満うしみつの鐘を撞いて、鐘楼しょうろうの高い段から下りると、じじいは、この縁前えんさき打倒ぶったおれた——急病だ。死ぬ苦悩くるしみをしながら、死切れないと云って、もだえる。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鐘楼しょうろうを見上げて一人がいう。担ぎあげて四方柱の一つへ縛りつけた。そして柱の上に板を打って立ち去った。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このかねなかには、ひすいがかしんであるというはなしだが、あおいろが、なんとなく底光そこびかりがしてえるな。」と、旅人たびびとは、こわれかけた鐘楼しょうろうにたどりいたときに
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大きな川が一つ、わたしたちのそのとき行き着いたおかのぐるりをゆるやかに流れていた。この川のはるか向こうに不規則ふきそくにゆがんだ地平線までは、大都市の屋根や鐘楼しょうろうつづいてらばっていた。
一時間ののちには、二人の友だちは本堂から山門に通ずる長い舗石道しきいしみちを歩いていた。鐘楼しょうろうのそばにとびらを閉め切った不動堂があって、その高いえんでは、額髪ひたいがみを手拭いでまいた子守りが二三人遊んでいる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「なんでおまえは、今ごろ鐘楼しょうろうなんぞへ、あがっていたのだ。」
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「うん、よく似合うよ。鐘楼しょうろう横の范家はんけ令郎ぼっちゃんのようだぞ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
鐘楼しょうろうの下から仰ぐと、誰かそこに立っている。腕ぐみをして、ぼんやりと、鐘楼の柱にもたれているのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ならずして、ふとおんなかみつくられたつなができました。にぎやかな儀式ぎしきおこなわれたあとで、そのつなかねげましたところ、やすやすと鐘楼しょうろうにつるされたのでした。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とお百合を抱くようにして三人鐘楼しょうろう駈上かけあがる。学円は奥に、上り口に晃、お百合、と互にたてにならんと争う。やがて押退おしのけて、晃、すっくと立ち、鎌をかざす。博徒、衆ともに下より取巻く。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鐘楼しょうろうへあがってれば、さびしくなくなるのか。」
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「どこへ? ——」不敵な眼をしながら、朱王房は鐘楼しょうろうの柱へ足を踏んばって動かなかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そ、そうです! いそいで鐘楼しょうろうへかけのぼって見ましたら、森も野もはたけも、軍兵ぐんぴょう旗指物はたさしものでうまっていました。あア、もうあのとおり、軍馬のひづめまで聞えてまいります……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵のすがたを見たらばと、かねて合図してあったか、鐘楼しょうろうからはごんごんと鐘が鳴った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やや中ごろまでのぼってくると、道は二股ふたまたに分れて右をあおぐと、石壁いしかべどう鉄骨てっこつ鐘楼しょうろうがみえ、左をあおぐと、松のあいだにあか楼門ろうもんがそびえていた。燕作はひだりの朱門あかもんへさしてけのぼった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘楼しょうろうや堂宇は崩れ放題、本堂のうちも雀羅じゃくらの巣らしい。のぞいてみれば、観音像はツル草にからまれ、屋根には大穴があいている。そこらの足痕あしあとは、狐のか狸のか、鳥糞獣糞ちょうふんじゅうふん、すべて異界のものだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道理で、五重の塔がある、淡島あわしま堂がある。弁天べんてん山の鐘楼しょうろうがある。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘楼しょうろうのあたりにはなお夕陽が残っていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鐘楼しょうろうへは、誰も行っていないのか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)