とゞ)” の例文
この人は自宅うちに居る折は、座敷に胡座あぐらをかいたまゝ、すぐ手をのばしたらとゞきさうな巻煙草一つ、自分からは手にとらうとしなかつた。
夏痩は、たつくちといふ温泉の、叔母の家で、従姉いとこの処へわきから包ものがとゞいた。其上包になつて読売新聞が一枚。
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
恐しく鳴り渡るにつれて、『どうだ、君一杯ひとつ。』の叫声、手もとゞかぬテーブルの、彼方かなた此方こなた酒杯さかづきの取り遣り。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぢゃによって、こひかみ御輦みくるま翼輕はねがるはとき、かぜのやうにはやいキューピッドにもふたつのはねがある。あれ、もう太陽たいやうは、今日けふ旅路たびぢたうげまでもとゞいてゐる。
その長く引いた裾根が蘆の湖の水にとゞかうとする稍〻平な處に、岩崎男爵家のコッテージ風の別莊がある。
箱根の山々 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
べやう、其爲そのためにわたしが、もつとおほきくなればかぎとゞくし、またちひさくなればしたはれる、何方どツちにしろわたし其花園そのはなぞのられる、うなつてもかまはない!
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
幼児をさなご御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。」このかた、かた、いふ木札きふだおとが、きよかねごとく、ねがはくは、あなたの御許おんもとまでもとゞくやうに。頑是無ぐわんぜなものたちの御主おんあるじよ、われをもたすたまへ。
そんなことでは容易にらちが明かないばかりか、一旦落着したおさばきの再吟味を願ふなどと云つては、御奉行樣のお手許てもとまでとゞかないうちに、下役人の手で握りつぶされてしまふのは知れてゐる。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
其夜それからといふものは真実ほんと、真実でござりまする上人様、晴れて居る空を見ても燈光あかりとゞかぬへやの隅の暗いところを見ても、白木造りの五重の塔がぬつと突立つて私を見下して居りまするは
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
梯子はしごといつたところで、とてもとゞきやうがないし、皆はあれあれといふばかりで、じつと火の行方ゆくへを見つめてゐました……
ヂュリ あい、さうぢゃ、わたしのこのとゞかぬとほところに。わたしのひとつで從兄いとこどのゝかたきちたい。
それをりに洋卓テーブルところもどつてつたときには、もううしてもそれにとゞきませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
筆持つまゝ驚き振り返る間もなく、廊下の足音と共に、濕つて張紙の弛んだ障子を無理に引明け、机の上のランプの光の僅かにとゞく座敷の片隅に、思ひもかけない、ぢよの姿が現れた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
飛騨ひだから信州しんしうえる深山しんざん間道かんだうで、丁度ちやうど立休たちやすらはうといふ一本いつぽん樹立こだちい、みぎひだりやまばかりぢや、ばすととゞきさうなみねがあると、みねみねいたゞきかぶさつて、とりえず
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「面倒を見てくれと言つたつて、物の二三丁おくれて来るのだつたら、呼べばとゞきもしようが、五里も六里も離れてゐる者をうしようもないもんぢやないか。」
あたま其手そのてせることはとて出來できさうもないので、あいちやんはあたまげてとゞかせやうとして、今度こんど自分じぶんくびへびのやうに容易よういとほくのはうまがまはるのを大變たいへんよろこびました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それ、その日時計ひどけい淫亂すけべい午過ひるすぎしるしとゞいてゐるわさ。
ある夏の土用に、宝生太夫はうしやうだいふが親子打揃つて、この下屋敷へ暑さ見舞にあがつた事があつた。土用の最中もなかだといふのに、座敷には蒲団が天井にとゞきさうに高く積んであつた。
爪立せだちしたら、天国にでも手がとゞきさうな背高のつぽで、おまけに酷い痩せつぴいだが、それでも地面ぢべたの事が気になるかして、色々郷里の事に骨折るので、カンサスでは評判のいゝ男である。
博士の説によると、不良少年、白痴、巾着切……などいふてあひは、大抵酒飲みの子に生れるもので、世間に酒が無かつたら、天国はつい手のとゞきさうなところまで引張り寄せる事が出来るらしい。
飲酒家 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
博士の説によると、不良少年、白痴、巾着切……などいふてあひは、大抵酒飲みの子に生れるもので、世間に酒が無かつたら、天国はつい手のとゞきさうなところまで引張り寄せる事が出来るらしい。