轟然ごうぜん)” の例文
轟然ごうぜんとして一発の鉄砲の音が聞えると共に、森の中から、人が蟻の子のようにこぼれ出したのを、二人とも殆んど同時に認めました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と見えた刹那——、轟然ごうぜんとして銃音つつおとが耳をつんざいた。一緒に羽ばたきのような足音が殺到したかと思われるや、突然叫んで言った。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
轟然ごうぜんたる音響おんきょうとともに、仏像のなかにしかけてあった火薬が爆発した。——浜松城の二の丸の白壁は、雷火らいかかれてくずれ落ちた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の背後うしろから静かに静かに閉まって行った重たいとびらが、忽ち、轟然ごうぜんたる大音響を立てて、深夜の大邸宅にどよめき渡りつつ消え失せた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
時折雪渓の一部が轟然ごうぜんたる反響を残して崩れ落ちる。岩をくネールの音や、不安定な石を落す冴えた音だけで、緊張した静けさが続く。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
ある夜轟然ごうぜんと大木が倒れる音が邸をゆるがす、と今度は凡そ二、三千人にもなろうか、人々がどっと笑う声が夜空にひびき渡る。
船員が顔を見合わせたその瞬間、船底から轟然ごうぜんたる音響がきこえた。そして和島丸は、大地震にあったようにぐらぐらと揺れた。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
各人が考え、想像していたことの最初の言葉が、彼のまわりに、桟橋から船に落ちる石炭のように轟然ごうぜんと、同時に飛びかかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
中頃に至ッて……フト黙して考えて……また読出して……また黙して……また考えて……ついに天を仰いで轟然ごうぜんと一大笑を発した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いま火をけようとしたとたん、口笛のような鋭い弾道の音をひいて飛んで来た砲弾が、二人のつい鼻っさきの土堤の横っ腹で轟然ごうぜんと炸裂した。
それが今では消えて、こんどは耳の中で轟然ごうぜんと鳴りだしたのである。凄まじい音だつた。まるで火葬場ぜんたいが、唸りだしでもしたやうである。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一つの角を曲ると忽ち轟然ごうぜんとひびいて来る庖厨部ほうちゅうぶの皿の音、——そうした病院の風景を家に帰って振返ってみると、彼には半分夢のなかの印象か
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
幾度と無く繰返したる大智識の教話によりて、悲哀は分類結晶して、すこぶる静寧の姿を得たるも、なほ、をりふしは憤怒の激発に迅雷の轟然ごうぜんたるを聞く。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
轟然ごうぜんたる爆音と、濛々もうもうたる白煙が、サッと部屋の空気に流れたとき、佐久間氏は無残にも脳天を打ち貫かれて、死体となって、彼の前に横たわりました。
玉振時計の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
軍医が規則正しく勤務することを要求したのが、しゃくにさわったというのであった。彼は、逃げて行く軍医を、うしろからねらって、轟然ごうぜんと拳銃を放った。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
しかも一弾また一弾! 弾着により敵は正確に射距離を修正しているとみえ、ついに轟然ごうぜんたる大爆発と同時に、艦尾並びに前艦橋同時に命中弾を受けた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
げんに、数年前すうねんぜんのこと、ちょうど春先はるさきであったが、轟然ごうぜんとして、なだれがしたときに、みき半分はんぶんはさかれて、ゆきといっしょに谷底たにそこちてしまったのでした。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
重い列車が轟然ごうぜんたる音をたてて到着しかけていた。クリストフは涙をぬぐい、立ち上がってみずから言った。
混然湧然轟然ごうぜんたる色調の撒布に、蚊ばしらみたいなひとつの大きな陽炎かげろうが揺れ立って、地には人馬と天幕
その時、谷の中央なかほど轟然ごうぜんたる響きがとどろいた。二道の火気が空に向かって矢のようにすばやく飛んで行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この言葉が私の唇かられるやいなや——まるでほんとうに真鍮の楯がそのとき銀の床の上に轟然ごうぜんと落ちたかのように——はっきりした、うつろな、金属性の、鏘然そうぜんたる
轟然ごうぜんたる発火と共に、煙が室内いっぱいに立ちこもった。だが煙の散ってしまった後では、何事の異状もなかったように、最初からの同じ位地に、同じ黒猫が坐っていた。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
汽車は轟然ごうぜんたる音を発して天竜川の鉄橋を渡った。やがて速度を緩めて浜松駅に這入った。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
何か答えようとして、私が男の方に身体を動かしかけたとたん、空気をち切るような金属音が急に破裂するように増大し、轟然ごうぜんたる音の流れとなって私達の頭上をおおった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
大砲は轟然ごうぜんたる響きとともに一発の霰弾を吐き出した。しかしこんどは少しもはね返らなかった。弾は蒲団の上に流れた。予期の効果は得られた。防寨の人々は無事であった。
灰色の煙空をおおい海をおおうて十重二十重とえはたえに渦まける間より、思いがけなき敵味方のほばしらと軍艦旗はかなたこなたにほの見え、ほとんど秒ごとに轟然ごうぜんたる響きは海を震わして
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
矢や銃弾もあたらばこそ、轟然ごうぜん一射、銃声の、雲を破りて響くと同時に、尉官はあっと叫ぶと見えし、お通がまげを両手につかみて、両々動かざるもの十分時、ひとしく地上にかさなり伏せしが
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十時ちかくなると、四方からもの凄い黒雲が押し寄せ、雷が轟然ごうぜんと鳴り始め、雨が滝のように降ってきた。水は一滴ずつ落ちるのではなく、つながった流れになって大地をむちうった。
ながむれば一せき海賊船かいぞくせん轟然ごうぜんたるひゞき諸共もろともに、船底せんてい微塵みぢんくだけ、潮煙てうゑんんで千尋ちひろ波底はていしづつた、つゞいておこ大紛擾だいふんじやう一艘いつそう船尾せんび逆立さかだ船頭せんとうしづんで、惡魔印あくまじるし海賊旗かいぞくきは、二度にど三度さんど
ところが暫くすると轟然ごうぜんひどい音が聞えてその家が震え気味になったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
機関手は舌敲したうちをしてレギレーターを入れた。列車は轟然ごうぜんと突き進んだ。と、また場内信号が赤かった。吉川機関手は周章あわててレギレーターを戻しブレーキを入れた。そしてもう一度汽笛の紐を引いた。
汽笛 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
轟然ごうぜんとした地響と一緒に、午後の上り汽車は三吉の前を通過ぎた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
恐しい火焔かえんが闇をつんざいた。轟然ごうぜん! 轟然! 轟然‼
梟谷物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
轟然ごうぜんたる響は、室内の人々の耳をつんざいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
轟然ごうぜん——海底要塞は大爆発したのだ!
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
轟然ごうぜん——天地も崩れるような物音。
と弦之丞が、その提灯をくうへ捨てたのが早かったか、轟然ごうぜんとゆすッた鉄砲の音が早かったか? ——ほとんど、けじめのない一瞬。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間もなく来かかった列車は、轟然ごうぜんたる音響と共に、その石を粉砕して停車した。見物していた三人の青年は驚いて逃げ出した。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
轟然ごうぜんたる銃声が聞えたと思うよりも早く、ピューッと銃丸たまが二人の耳許みみもとかすめて、廊下の奥の硝子窓をガチャーンと破壊した。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
乗合全体は総立ちになる途端に、大揺れに揺れた船が何かに触れて、轟然ごうぜんたる音がすると、そのはずみで残らず、どうとぶっ倒されてしまいました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
轟然ごうぜんと飛ぶが如くに駆来かけきたッた二台の腕車くるまがピッタリと停止とまる。車を下りる男女三人の者はお馴染なじみの昇とお勢母子おやこの者で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
轟然ごうぜん、一発! 弾丸たまがあたって、折れたはしらがえらい音たててドスンと甲板の上へ落ちてくる。ベカッスさんは決心をします。たちまち響く戦闘開始の号音喇叭クレーロン
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
おそば去らずの寵臣ちょうしんで、火術にかけては扶桑ふそう第一、丸目一貫目の筒をかかえ、品川の海、五町の沖合い、廃船を轟然ごうぜんと打ち沈めたという。人品骨柄も打ちのぼり、年齢四十一歳である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大文字の九十三(一七九三年)、特別の行を占むるナポレオン、掲示の上部には一八一一年の彗星、実に意想外な炬火たいまつちりばめた美しい青い掲示だ。轟然ごうぜんたる響き、異常なる壮観である。
と、その怪物からは続けざまにドンドンドンと轟然ごうぜんたる砲声が放たれた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
轟然ごうぜんたる山崩れと共にその事務所はメチャメチャになり、一人の技手は逃げ損って蛙のごとくに押潰され、その片腕とか片脚とかは、かの巨巌の下に今なお取出す事が出来ず残っているという事だ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
瞬間! 銃声は轟然ごうぜんと窓ガラスを震わして鳴り響いた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
轟然ごうぜん! 轟然!
伝四郎兄妹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
幕舎の附近で、一弾の砲火が、轟然ごうぜん炸裂さくれつした。バッと黒い土砂を持った爆風があたりをつつみ、二弾三弾とまたもつづいて落ちてくる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
防空壕の人々の中からは、一せいに悲鳴ひめいと祈りとが起った。と、あまり遠くないところで、轟然ごうぜんたる爆発音が聞え、大地はびしびしと鳴った。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)