あだ)” の例文
いかん! いかん! かなわぬ願いだっ。逆賊のたねを世にのこしおけば、やがて予に対して祖父のあだの母のかたきのと、後日のたたりを
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さても出来でかしたり黄金丸、また鷲郎も天晴あっぱれなるぞ。その父のあだうちしといはば、事わたくしの意恨にして、深くむるに足らざれど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
おおやけあだ、私のあだ、どうかしてとっちめてやりたいものだ。だが、どうにも証拠がない。是非とも証拠を握らなければならない。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もうこれで、下手人は解ったも同様でございます。あとは何のために私に、あだをするか、それを解きさえすればいいわけで」
こちらが、あれほど、どくに、おもったのに、そのおんあだかえすとは、あきれた人間にんげんだと、こころなかで、いきどおられたのでした。
奥さまと女乞食 (新字新仮名) / 小川未明(著)
丁度、去年の極月ごくげつ十五日に、亡君のあだを復して、泉岳寺せんがくじへ引上げた時、彼みずから「あらたのし思いははるる身はすつる、うきよの月にかかる雲なし」
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそれも私の胸にある一念から余儀なくああしなければならなくなったのでして……私の夫のあだを晴らしたいばっかりに……ええ、復讐です。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
祖父をはずかしむることはできない、また、父のあだを報じないで捨ておくことも同じくできない。一方には神聖なる墳墓があり、他方には白髪がある。
さきの世に恨のあったものが馬の形に宿りまして、生れ変ってあだをこの世にかえしたものであろう、というような臆測が群集の口から口へ伝わりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然るに今新に書を著わし、盗賊又は乱暴者あらば之を取押えたる上にて、打つなり斬るなり思う存分にして懲らしめよ。いわんや親のかたきは不倶戴天のあだなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それをいかりてくって懸れば、手に合う者はその場で捻返ねじかえし、手に合わぬ者は一笑ッて済ましてのち、必ずあだむくゆる……尾籠びろうながら、犬のくそ横面そっぽう打曲はりまげる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かつて『曽我物語』を読み、曽我兄弟がその父のあだを報じたる痛快淋漓りんりの段に至り、矍然かくぜんとして案をって曰く「我あに一度は父讐ふしゅうを報ずるあたわざらんや」
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その霊が化して雷神となって朝臣にあだをすると信ぜられていた時分、或る日清涼殿せいりょうでんに落雷して満廷の公卿くげたちが顔色を失った折に、時平は凜然りんぜん太刀たちを引き抜いて大空をにら
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だき上げ胡鷺々々うろ/\聲コリヤ白妙どういふ事で此有樣何者の所業ぞや何國にかげを隱すとも此あだを討ずに置べきやと血眼になりていかれども歎くに甲斐なき此場の時宜しぎあはれをとゞめける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「おんしうき。恩とあだですか。」と私は、指先で机の上に、その恩といふ字と、讐といふ字を書いて、Nさんに問ひただした。Nさんは卒直な、さつぱりした氣象のおかたであつた。
大恩は語らず (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
親のあだに巡り合ったとて、恐らくこれほどの顔はして見せないだろう。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
三世十方恒河沙数がうがしやすうの諸仏菩薩に妄執煩悩無きものやある、妄執煩悩無きものやある、何ぞ瞿曇ぐどん舌長したながなる四十余年の託言かごと繰言くりごと、我尊しの冗語じようご漫語まんご、我をばあざむおほすに足らんや、恨みは恨み、あだは讐
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
畜生にあだかへす価は無いさ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それがしかも、尊氏誅伐ちゅうばつ宣旨せんじを南朝から申しうけて、公然と、義父直義ただよしあだともとなえているのである。小癪こしゃくとも何とも言いようはない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旦那様もおし、私も唖、手附てつきで問えば目で知らせ、身振で話し真似で答えて、御互にすっかり解った時は、もう半分あだかえしたような気に成りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の聴水が所業しわざなること、目前まのあたり見て知りしかば、いかにも無念さやるせなく。ことにはかれは黄金丸が、倶不戴天ぐふたいてんあだなれば、意恨はかの事のみにあらず。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
親のあだ、家のかたき、また自分の敵であるあのドーブレクを命にかけても生かしてはおかないと、ごく秘密の裡にあの児と力を協せて事を計っておりました。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「恩をあだで返すにつくいやつめ。匇々そうそう土の牢へ投げ入れい。」と、大いに逆鱗げきりんあつたによつて、あはれや「れぷろぼす」はその夜の内に、見るもいぶせい地の底の牢舎へ
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ウェリントンは、あだを返さんとして立った古典的戦法そのものである。ボナパルトはその光栄の初めにおいて、イタリーにて古典的戦法に邂逅かいこうし、みごとにそれをうち破った。
しかし天下の大盜と言はれたお狩場の四郎は此儘老朽おいくちる氣は毛頭ない。生きてゐるうちに、恩は恩、あだは讐で返し、惡事の帳尻を合せて置かなければ閻魔ゑんまの廳へ行つて申譯が相立たない。
あだなんて、あまり氣持のよいものでは無いのですから、テエマにあまり拘泥せず、子供の頃、誰かに毆られて、くやしかつたとか、そんな事でもお書きになつて下さつたら、いいのです。
大恩は語らず (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
討しも同前知れがたき惡人共我手に入しは公儀こうぎへの御奉公ごほうこう親のあだのみならず本夫の敵まで討たるは忠孝貞とそろひし烈婦れつぷと云べし吉原町はじまりしより以降このかた斯る遊女有べからずと賞美しやうびありしかば瀬川は云もさらなり抱へ主松葉屋までも面目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
某これより諸国をぐり、あまねく強き犬とみ合ふて、まづわが牙を鍛へ。かたわら仇敵の挙動ふるまいに心をつけ、機会おりもあらば名乗りかけて、父のあだかえしてん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
呼びはしない。もし御身に、父のあだたる曹操を討つ気があるなら、義によって、わしも一臂の力を添えたいと思ったからだ。いったい御身の覚悟はどうなのだ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに三浦兵衛尉義勝ひょうえのじょうよしかつとありますよ。この人はじゅ五位だ。元弘げんこう二年新田義貞にったよしさだたすけて、鎌倉かまくらを攻め、北条高時ほうじょうたかときの一族を滅ぼす、先世のあだかえすというべしとしてありますよ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
悲愴ひそうなぞたるマブーフ氏の死、殺されたバオレル、「きてくれ!」と叫んでるクールフェーラック、追いつめられてる少年、それを助けあるいはそのあだを報ぜんとしている友人ら
彼は直ちに捜索課長から二週間の猶予をもらって、旅装もとかず、その足を以てスパルミエント夫人を訪ね、必ず夫君スパルミエント氏のためにあだを報い心を安んぜしめるであろうと誓った。
しかし天下の大盗と言われたお狩場の四郎はこのまま老い朽ちる気は毛頭ない。生きているうちに、恩は恩、あだは讐で返し、悪事の帳尻を合せておかなければ閻魔えんまの庁へ行って申し訳が相立たない。
死んだ陶謙は、わが亡父のあだなることは、玄徳も承知のはずだ。その讐はまだ返されていないではないか。——しかるに玄徳が、半箭はんせんの功もなき匹夫ひっぷの分際を
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
去年の春から、敵打かたきうちの厳禁——そうです、敵打ちの厳禁でさ。政府も大きな仕事をやったもんさね。親兄弟きょうだいあだを勝手にかえすようなことは、講釈師の昔話になってしまいました。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾々は、故浅野内匠頭が浪人共でござるが、唯今ただいま、亡君のあだを討って、吉良殿の屋敷から引き揚げて来たところでござります。恐れ入るが、暫時ざんじ、休息のため、御寺内を拝借したい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「曹操は、決して、過去のあだなどを、くよくよ心にとめている人ではありません。そんなことにこだわっているほどなら、何で今日、礼を厚うして、わたくしなどを差しつかわしましょうや」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しんの世が乱れて項羽のようながさつ者の私議暴論が横行して、天下に定まれる君主もなかった時勢だろ、ゆえに高祖は、あだある者でも、降参すれば、手なずけて用うことに腐心したのである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日こそは——と期して、味方の馬岱、龐徳よりも先んじて曹操を捜していたのはもちろん馬超で、父のあだたる彼の首を見ぬうちは退かじと馬を駈け廻していたが、ひとりの部下が、彼に告げて
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)