蝙蝠かはほり)” の例文
蝙蝠かはほりをなおそれそ。かなたこなたへ飛びめぐれど、入るものにはあらず。神の子と共に熟寐うまいせよ。斯く云ひをはりて、をぢは戸をぢて去りぬ。
頭上の剃痕ていこんは断続してゐて、残す所の毛が文様をなし、三条のすぢ蝙蝠かはほりの形とが明に認められたからである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
えうなきむねいためけん、おろかしさよと一人ひとりみして、竹椽ちくえんのはしにあしやすめぬ、晩風ばんぷうすゞしくたもとかよひて、そらとびかふ蝙蝠かはほりのかげ二つ三つ、それすらやうやえずなりゆく
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平岡のいへの近所へると、くら人影ひとかげ蝙蝠かはほりの如くしづかに其所そこ此所こゝうごいた。粗末な板塀いたべい隙間すきまから、洋燈ランプが往来へうつつた。三千代みちよ其光そのひかりしたで新聞をんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ながれにはをのひゞきにはのみおとしろ蝙蝠かはほりあかすゞめが、ふもとさといろどつて、辻堂つじだううちなどはかすみかゝつて、はな彫物ほりものをしてやうとまで、しんじてたのが、こひしいをんな一所いつしよたゝめ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
鋼叉さすまたに髪をからまれて、蜘蛛よりも手足を縮めてゐる女は、神巫かんなぎたぐひでゞもございませうか。手矛てほこに胸を刺し通されて、蝙蝠かはほりのやうに逆になつた男は、生受領なまずりやうか何かに相違ございますまい。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この一室ひとま、あだなる「くい」の蝙蝠かはほり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
蝙蝠かはほりはうつぼ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
夜の使つかひ蝙蝠かはほり
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その口に墮ちたるは、ブルツス、カツシウス、ユダス・イスカリオツトなり。中にもユダス・イスカリオツトは、魔王が蝙蝠かはほりの如き翼を振ふ隙に、早く半身を喉の裡に沒したり。
婦人をんなはものにねたやう、いま悪戯いたづら、いや、毎々まい/\ひき蝙蝠かはほりとおさるで三ぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其時代助の脳の活動は、夕闇ゆふやみを驚ろかす蝙蝠かはほりの様な幻像をちらり/\とすにぎなかつた。其羽搏はばたきひかりけててゐるうちに、あたまゆかからがつて、ふわ/\する様に思はれてた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うしうまか、ひきがへるか、さるか、蝙蝠かはほりか、なににせいんだかねたかせねばならぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……城趾しろあとはやいて、天守てんしゆ根較こんくらべをらうなら、御身おみあしなか鉋屑かんなくづかへる干物ひもの成果なりはてやうぞ……この老爺ぢいはなか/\がある! 蝙蝠かはほりきざんでばせ、うをつておよがせるかはりには
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手場でばめにして、小家こや草鞋わらぢでもつくればいゝが、因果いんぐわうは断念あきらめられず、れると、そゝ髪立がみたつまで、たましひ引窓ひきまどからて、じやうぬましてふわ/\としろ蝙蝠かはほりのやうに徉徜さまよく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)