蝋燭ろうそく)” の例文
百物語とは多勢の人が集まって、蝋燭ろうそくを百本立てて置いて、一人が一つずつ化物ばけものの話をして、一本ずつ蝋燭を消して行くのだそうだ。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
マロニエの花とはどれかと訊いて、街路樹の黒く茂った葉の中に、蝋燭ろうそくを束ねて立てたような白いほの/″\とした花を指さゝれた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それで、一般に町人の若い者たちは、心掛けの好いものは、手鍵てかぎ、差し子、草鞋わらじ長提灯ながぢょうちん蝋燭ろうそくを添えて枕頭まくらもとに置いて寝たものです。
蝋燭ろうそくの灯を置いて、卓上には一面の地図がひろげてあった。谷将軍を中心に、幕僚の顔がそれに集まって、小声に何か熟議していた。
日本名婦伝:谷干城夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蝋燭ろうそくは(夜食のまえに替えた)まだ充分にある。彼は乾し草の束をいいぐあいに直し、矢立から筆を抜いて、料紙をそこへひろげた。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その右手に持たせる恰好にし蝋燭ろうそくを吹き消して——こいつはやり過ぎだったが、家持の町人はどんな場合でも火の用心は忘れない——
筆者に尻を向けて、ドッコイショと中央の通路向きに腰をおろした翁は、たもとから一本の新しい日本蝋燭ろうそくを出して、マッチで火をけた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
燈火の方が実は見た目には美しく、また前の宵から飾っておいて祭を営むにも花々しかったので、紙や絵具や蝋燭ろうそくが手に入りやすく
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「まあとにかく、」とジョンドレットは言った、「いるかどうか見に行ったってさしつかえねえ。おい娘、蝋燭ろうそくを持って見てきな。」
そこで白煙をあげて消えたが、パラフィン蝋燭ろうそくを吹き消した後のような匂いがした。この火の玉であちらこちらに火事が起こった。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)
今朝けさの出来事できっと非常に驚いただろうな?」と、監督はたずね、そう言いながら両手で、蝋燭ろうそくとマッチ、本と針床といった
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
机の上には大理石のくず、塩酸のびん、コップなどが置いてあった。蝋燭ろうそくの火も燃えていた。学士は手にしたコップをすこしかしげて見せた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(みづから天幕テントの中より、ともしたる蝋燭ろうそく取出とりいだし、野中のなかに黒く立ちて、高く手にかざす。一の烏、三の烏は、二の烏のすそしゃがむ。)
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ジャンナン夫人は、もう支度の時間ではないかと始終懐中時計を見ていたが、朝の四時ごろになると、蝋燭ろうそくをともして起き上った。
さていづれの靈もかの圈の中、さきにそのありし處に歸れるとき、動かざることあたかも燭臺に立つ蝋燭ろうそくの如くなりき 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
春照しゅんしょう高番たかばんという陣屋に、夜もすがら外にはかがりを焚かせ、内は白昼のように蝋燭ろうそくを立てさせて、形勢穏かならぬ評議の席がありました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
このようなことを言っているところへ、初やが狐饅頭きつねまんじゅうを買って帰ってくる。小提灯ぢょうちんを消すと、蝋燭ろうそくから白い煙がふわふわとあがる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
夜っぴてよ、蝋燭ろうそくでよ、銭勘定したり、横浜までゆくのに、旅費がなくって、宿場しゅくば牛太郎ぎゅうたろうまでしやがったことわすれてやがる。
検視に来た役人たちはそこらの草の中に小さい蝋燭ろうそくの燃えさしと、ほかに印籠いんろうのようなものが落ちているのを見つけ出しました。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なるほど亜片だけになかなか捨て得ないとみえて、すぐ前の聖なる処女の御堂には蝋燭ろうそくの灯が燃え、おまいりの善男善女ひきも切らない。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
新所帯の仏壇とてもないので、仏の位牌は座敷の床の間へ飾って、白布をかけた小机の上に、蝋燭ろうそく立てや香炉や花立てが供えられてある。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
一人の老人が私の前に蝋燭ろうそくを持って立っている——しかし恐らく幻覚であろう——その老人を囲繞して宝石が無数に輝いている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
最後に丸い穴のいた反射鏡を出して、宗助に蝋燭ろうそくけてくれと云った。宗助は蝋燭を持たないので、清に洋灯ランプけさした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その夢と云うのは、母が突然帰って来て、土産だと云って懐の中から蝋燭ろうそくや線香を出した夢なのです。それが十本や二十本ではありません。
母の変死 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そう言って、風間老看守は、手燭てしょく蝋燭ろうそくに火をつけようとするのだが、手がふるえて火が消えるので、何度も何度もマッチをすりつづけた。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
蝋燭ろうそくがたった一本テーブルのうえに燃えて、おぼろげに彼女の顔を照らしているだけだったが、その気持の引き立たないことは見てとれた。
「ボースン! こんなに暗くちゃ何もわからんじゃないか、蝋燭ろうそくをつけて来い。五、六本!」と、チーフメートは一発放した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
さらにその夜は各学校聯合れんごう提燈ちょうちん行列があり、私たちは提燈一箇と蝋燭ろうそく三本を支給され、万歳、万歳と連呼しながら仙台市中を練り歩いた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すなわち、死体もしくは被害の個所を、周囲に蝋燭ろうそくを立てて照明すると、それで犯罪が、永久発覚しないという迷信が端緒だったのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
蝋燭ろうそくにホヤをはめた燭台しょくだい手燭てしょくもあったが、これは明るさが不充分なばかりでなく、何となく一時の間に合せの燈火だというような気がする。
石油ランプ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「しかし蝋燭ろうそくがなくてはどうもならんなア」とクレーヴンが不意に言った、「どうやら暴模様あれもようになって来たようだし、これでは暗くて読めん」
それを直すのに一月近くも寝込んでしまいましたり、そうかと思えば小僧が仏壇のお花を棄てるのに誤って蝋燭ろうそく立てを小指の先に突き刺して
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
男は窓のところに行って、そこのかげになっている処に立っている。蝋燭ろうそくの光は男の足の所にちら付いているだけである。しばらくして男が言い出した。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
そして奥の間で「っと失礼します。」といって蒲団ふとんを米の横へ持って出て来てから、楕円形の提灯ちょうちんに火をけた。蝋燭ろうそくは四すんほどもあった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
長くなり始めた夜もそのころにはようやくしらみ始めて、蝋燭ろうそくの黄色いほのおが光の亡骸なきがらのように、ゆるぎもせずにともっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
百目蝋燭ろうそくを、ともしつらねた灯光ひかげが、金屏風に、度強どぎつく照り映えるのも、この土地なれば、浅間しからずふさわしく見える。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何枚も画を懸けた部屋の中に紅毛人の男女なんにょが二人テエブルを中に話している。蝋燭ろうそくの光の落ちたテエブルの上には酒杯さかずきやギタアや薔薇ばらの花など。
誘惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
れいなにといひかぬるを、よう似合にあふのうとわらひながら、雪灯ぼんぼりにして立出たちいでたまへば、蝋燭ろうそくいつか三ぶんの一ほどにりて、軒端のきばたかがらしのかぜ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鳥屋で半月もいたことがあるとすれば、鳥屋は注意してあの嘴を蝋燭ろうそくででも焼いてやるよ、あんまり延びすぎているものね
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
それが星とも天の花とも見えるのだろう。……それとも天魔が青い底から蝋燭ろうそくともして下界をうかがっているのかも知れない。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼はそっと起き上って蝋燭ろうそくをつけた。真直ぐに立上っていく焔を凝視みつめているうちに、彼の眼の前に、大きな部屋が現れた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
そして蚊帳かや一張ひとはりしかなかったので、夜おそくまで、蝋燭ろうそくの火で壁やふすまの蚊を焼き焼きしていた。そんなことをして、夜を明かすこともあった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふいにあざやかな光線が彼の部屋をぱっと照らした——ナスターシャが蝋燭ろうそくとスープの皿を持ってはいって来たのである。
すると、かれは、だまって、前にある一本の燭台しょくだいをひきよせ、右手の指を、いきなり、蝋燭ろうそくの炎の中につきさしました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
夕方に商人が出る時分に「おはよ/\」の蝋燭ろうそく屋の歌公というのが、薩摩さつま蝋燭を大道商人に売り歩いて、一廉ひとかどもうけがあった位だということでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
小屋のなかへはいると、四人の一行はすぐ背嚢ルックザックをおろし、うす暗い蝋燭ろうそくの光をたよりに、探鉱や分析試験のこまごました器械を組み立てはじめた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
与一は二寸ばかりの黄色い蝋燭ろうそくくぎ箱の中から探し出すと、灯をつけて台所のある部屋へやの方へ疳性かんしょうらしく歩いて行った。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうなれば帆村も一彦もくろこげになって死ぬというのですから、二人の命は、もはや風の前の蝋燭ろうそくとおなじことです。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
実家に帰っているという柳吉の妻が、肺で死んだといううわさを聴くと、蝶子はこっそり法善寺の「縁結えんむすび」にまいって蝋燭ろうそくなど思い切った寄進をした。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
図265は蝋燭ろうそく屋の看板で、黒地に蝋燭が白く浮き出ている。図266は大きな六角形の箱に似たもので、その底から黒い頭髪が垂れ下っている。