蜥蜴とかげ)” の例文
真円まんまるく拡がった薔薇の枝の冠の上に土色をした蜥蜴とかげが一ぴき横たわっていた。じっとしていわゆる甲良こうらを干しているという様子であった。
蜂が団子をこしらえる話 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして昼なか、僅に日光の縞がこぼれかかる時になると何処どこからか一ぴき蜥蜴とかげがやって来て、その花蔭にじっと身を温めるのが見えた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
馬や牛や羊はいうに及ばず、鶏や家鴨あひるなどの鳥類や、それから気味のわるいへびわに蜥蜴とかげなどの爬蟲類はちゅうるいを入れた網付の檻もあった。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兇悪な大蜥蜴とかげ。海の底の吸血魔。残忍なタマカイ魚。そして、自分は、その猛魚に足を喰切られた哀れな優しい牝蛸だ。…………
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
蜥蜴とかげの腸だの、蛇の肝だの、わにの舌ベロだのといって、求めても容易に得られざる悪食を持寄って、そのあくどい程度に於て優劣がある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
蜥蜴とかげ鉛筆えんぴつきしらすおと壓潰おしつぶされて窒息ちつそくしたぶた不幸ふかう海龜うみがめえざる歔欷すゝりなきとがゴタ/\に其處そこいらの空中くうちゆううかんでえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
狼の頭、豹の頭、さめの頭、蟒蛇うわばみの頭、蜥蜴とかげの頭、鷲の頭、ふくろの頭、わにの頭、——恐ろしい物の集会である。彼は上座の方を見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二本でも時々観世物みせものなどに来ることがあります。これは「両頭の蛇」と云つて、蛇の不具かたはです。かはづ蜥蜴とかげなどにも、よくこんなのがゐます。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
小さいオレンジ色の蜥蜴とかげかカメレオンのような動物が小径を這って、偶然にベアトリーチェの足もとへ近寄って来たのである。
腕はゆわかれ頭は欠けて雑草の波に打たれてるある像の上に、一匹の蜥蜴とかげが安らかな胸であえぎながら、じっと日光に浴して我を忘れていた。
そうして、反絵が園を斜めに横切って、卑弥呼の石窖いしぐらを眺めて立った時、奴隷の蜥蜴とかげは一層曲りながら、石窖へ通る岩の上を歩いていった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
これにゃ、みんな貴僧あなた茶釜ちゃがまの中へ紛れ込んでたたるとか俗に言う、あの蜥蜴とかげ尻尾しっぽの切れたのが、行方知れずになったより余程よっぽど厭な紛失もの。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裾の一所に、背を光らせた蜥蜴とかげがいて、這い上がろうとし、短い足で紙帳を掻いているのも、魔物めいていて不気味であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大学の構内に転がつてゐる物は、蜥蜴とかげ交尾つるんだのでも鄭重に眼鏡を通して見るが、大学以外の物はみんな眼鏡越しに見る事にめてゐる。
片翳かたかげりの、午後のまちではあったが、人っこ一人通らない閑静さで、蜥蜴とかげが、チョロチョロと歩道を横ぎってゆくほどだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女学生は蛇や蜥蜴とかげの中にいつまでもじっとたたずんでいる。あすこは存外ぞんがい暮れ易いだろう。そのうちに光は薄れて来る。閉館の時刻じこくもせまって来る。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『酉陽雑俎』十六に、〈蛇に水草木土四種あり〉、水や草叢くさむらに棲む蛇は本邦にもあり。支那の両頭蛇(蜥蜴とかげの堕落したもの)などは土中に住む。
その温みを慕って来たものか、あわせた縁板の隙間すきまからちろちろと這いあがって来るものがある。見れば小さな蜥蜴とかげである。背の色が美しい。
本当の話は人喰鬼が新しい血を嗅ぎ出す話や、妖精おばけがとうなすを馬車にしたり蜥蜴とかげ従者おともに化けさせたりする話よりは、もつと本当に面白い筈だ。
蜥蜴とかげ壁虎やもりひき、犬、猫、狐、狸、いたち、鼠、貂のたぐいで、合図をすれば必ずどこからか現われて来るから、それをすべて生けるがままにほうって
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ここはこうであったと思い出し思い出し、魚、蜥蜴とかげ、猿、人間という順序に寸分間違いなく自分自身を造り上げて来る。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これは先生が少し前に蜥蜴とかげが美くしいと云ったので、青く澄んだ以太利の空を思い出させやしませんかと聞いたら、そうだと答えられたからである。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしへびだとか、蜥蜴とかげだとかゞ、いしあひだからしておどろかされることがありますから、注意ちゆういしなければなりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
古い土蔵の白壁に静かにとまっている蜥蜴とかげの様に、とても気味悪く、くっきりと浮んでいたことを記憶いたします。
腫れ物に障るやうに足袋裸足で歩いてゐる乗客もある、河原には埃を浴びて白くなつた萱草かんぞうの花の蔭から、蜥蜴とかげの爬ひ出す影が、暑くるしく石に映る
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
後足で立って歩く蜥蜴とかげ、空中を飛ぶ蜥蜴など、あたかも鳥類の特徴と蜥蜴類の特徴とを七分三分とか四分六分とかに合せたごとき性質のものがいくらもあり
境界なき差別 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
そのとき、適當な食物と、永遠の住家を見出すことが出來るやうに、私は喜んで蜂か蜥蜴とかげになつたであらう。
そういって、ヤンは蜥蜴とかげのような目をよせてくる。足がふらついて、病苦にせさらばえた顔は生きながらの骸骨だ。マヌエラはぞっと気味わるくなってきた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
また七呎の長さの蜥蜴とかげもゐました。水中には魚類が泳ぎまはつてをり、鰐が出没し、河馬の大群がゐました。まつたく丸裸で暮してゐる土人の部落もありました。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
魔像の前には蜥蜴とかげの死骸、猫の脳味噌、半殺しの蛇といった不気味な供物が、足の高い三方さんぼうに載せて供えられ、その供物の真ん中に据えた白木の大俎板おおまないたの上には
岩の蔭、樹の蔭と、蜥蜴とかげのように素迅すばしこく身を移しつつ、下り松の真上に当る高地まで来たのであった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶室づくりの離れの前栽には、松や蕚などがひっそり植えこまれていて、暑い昼間、蜥蜴とかげが走った。小さい桃子のおでこにざらざらした麦藁帽子の縁がさわっている。
夜の若葉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
老人は、切断された蜥蜴とかげの尻尾のように穴の中ではねまわった。彼は大きい、汚れた手で土を無茶くちゃに引き掻いた。そして、穴の外へ盲目的に這い上ろうとした。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そんなに絢爛けんらんたる面貌にくらべて、四肢の貧しさは、これまた驚くべきほどであった。身長五尺に満たないくらい、痩せた小さい両の掌は蜥蜴とかげのそれを思い出させた。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
それは南の岡の隣に琵琶の形に曲りでた岬にそうて蜥蜴とかげの尾のように細く入りこんだ入江である。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
桐に似た葉、モンパの葉はアクが強いので三四回よく茹で、蜥蜴とかげは腸をだし、天日に乾かして焼くと、うまくもないがパリパリ音がし、煎餅でも食べているような気がする。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その石垣の中から蜥蜴とかげの銀光の肌がはしり出したかと思ふと、ついとまた石垣の穴にかくれた。午頃ひるころちまたは沙漠のやうに光が澱んで居た。音のない光を限り無く深くたゝへて居た。
奥間巡査 (新字旧仮名) / 池宮城積宝(著)
木の葉に止まっている雨蛙は青くて、壁に止まっているのは土色をしている。草むらを出没する蜥蜴とかげは背に緑の筋を持っている。沙漠の砂に住んでいるのは砂の色をしている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
梅雨頃のおぼつかなげな、白い胡蝶、潮風に乗って彷徨さまよう揚羽蝶、てんとう虫、兜虫、やがて油照りがつづくと、やんまの翅をこする音がきこえ、蜥蜴とかげの砂を崩す姿がちらついた。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
彼は幼い時分に、春先の野路のみちに、暖かい陽光を浴びて、ちょろちょろと遊んでいる蜥蜴とかげに、石を投げつけた事があった。するとその尾が切れて、ぴんぴんとその辺をねまわった。
首を失った蜻蛉 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
大蛇や大蜥蜴とかげわにも南洋の名物だし、それから、いのししだとか虎なんかもいるんだって
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
歯朶しだ、毛蕊花、毒人参どくにんじん鋸草のこぎりそう、じきたりす、丈高い雑草、淡緑のラシャのような広い葉がある斑点のついた大きな植物、蜥蜴とかげ甲虫かぶとむし、足の早い臆病おくびょう昆虫こんちゅうなど、様々なものを呼び集め
水を渡る蜥蜴とかげも食う。殊に、かじかは大好物のようである。山村の子供が、岩魚釣りの置き鈎の餌には、鰍を胴中から半分に切って、鈎先にさしている。活きている蛙にも、岩魚は飛びつく。
石を食う (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
初夏からかけて、よく家の中へ蜥蜴とかげやら異様な毛虫やらがはいってきた。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
お婆さんは、にこにこ笑いながら、おなじように杖一本で、箱のなかにいた六匹の二十日鼠はつかねずみを六匹のたくましい馬に変え、鼠をいきな馭者ぎょしゃに変え、六匹の蜥蜴とかげを六人のりっぱなお供に変えました。
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
蛇、蜥蜴とかげ螽蟖きり/″\す、そんなものが、偶然に出來た塵塚を棲家にして、夏盛んに繁殖する。葱の白根を餌にして、天南はよく螽蟖を釣らうとしたが、時折り蛇に驚かされて、逃げ戻つて來たこともある。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それは天気のいいとき、このうえの岩のうえで蜥蜴とかげみたいにぺったりとおなかを日にあっためられた岩にくっつけて、眼をつぶり、無念無想でねころんだり、居睡いねむりしたりするたのしみのことをいうんだ。
美しい光線がみなぎるように裏の林にさしわたると、緑葉がよみがえったように新しい色彩をあたりに見せる。芭蕉の広葉は風にふるえて、山門の壁のところには蜥蜴とかげが日に光ってちょろちょろしている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
庭石のひとつひとつに蜥蜴とかげゐて這ひあそぶ晝となりにけるかな
うん、だけど、神谷に云はした方がいいな。あいつ、おれにも詳しいことは云はないんだよ。なんでも、あいつの調べたところぢや、蜥蜴とかげの種類が十以上もあつて、どれかがものになるらしいんだ。それから、蘭さ、眼を
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)