とく)” の例文
とくと見ているうちにいよいよ不快の色で満たされて、この時はさすがにこの人も、その憤懣ふんまんを隠すことができないらしくありました。
……とはいえ客人は小さいと仰せられ、それがしは大きいという。いずれがやら、いずれが非やら、とくと、見ていただきとう存ずる
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
〈月蝕の宵〉は九月に入ってかかりまして出品間際にやっと出来上りましたばかりでとくと見ている間もないくらいでありました。
寛政時代の娘納涼風俗 (新字新仮名) / 上村松園(著)
だが立ち話ではどうにもならぬから、上がって頂いてとくと相談してあげたいのだけれど、京に用事があって今から出かけるところである。
みやこ鳥 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
拙者このたび、殿の御参覲さんきんに江戸表へ御供を仰付かりました。ついては一年の在番中お笛をお預けいたしますゆえ、お手許てもとにてとくと性質を
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「こりや何うしたもんだ………何うも頭がへんてこりんだぞ。何をびくついてゐるんだ。まア、落着け!………そしてとくと考へて見るんだ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
あらはさんと思はれ一度の吟味もなくすぐに麹町名主矢部與兵衞へ内通ないつう有つて村井長庵が在宿ざいしゆくとくと見屆させ置召捕方の與力同心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
とくと御相談くださるように、昨夜わざわざ戻してあげましたに、いま以て何の御相談もないというは、こちらの志を無にしたような致され方
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一見してこれは容易ならぬものだと、非常に驚愕きょうがくに打たれたのであります。と申しますのは、……どうか皆さんも、とくとこの函を御覧願います。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
とくと私の志を述べて、暫く命をながらえて、己になり代ってうちのおっかアに孝行をして呉れるようにくれ/″\も後々あと/\の事を頼む
とくとこの大黒を拝もうと心掛けて滞在して米屋旅館に、岩田梅とて芳紀二十三歳の丸ぼちゃクルクル猫目ねこめの仲居頭あり。
殉死は国家の御制禁せいきんなる事、とくと承知候えども壮年の頃相役を討ちし某が死遅れ候までなれば、御とがめも無之かと存じ候。
さて破笠子はおのれが歌舞伎座作者部屋に入り芝居道実地の修業したき心底とくと聞取りし後ともに出でて福地家に至り勝手口より上りてやや暫くわれを
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「まあさ、しまいまで御聞きなさい。——それで、ともかくも本人に逢ってとく了簡りょうけんを聞いた上にしようと云うところまでにぎつけて来たのです」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風「常談は措いて、いづれ四五日うちとくと話を付けるから、今日のところは、久しぶりで会つた僕等の顔を立てて、何も言はずに帰つてくれ給へな」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
当然のことにして、又その家の貧富貴賤、その人の才不才徳不徳、その身の強弱、その容貌の醜美に至るまで、とくと吟味するはすべて結婚の約束前に在り。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
... 知らぬからだ合点が行かぬと云う丈の事」判事は目科の横鎗にて再び幾分のあやぶむ念を浮べし如く「今夜早速さっそく牢屋へ行きとくと藻西太郎に問糺といたゞして見よう」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
お兄様はおいやだろうと思いますのに、次兄はそれでも気軽にお兄様の御用をあちこちなさるので、「とく、篤」といって、御機嫌は悪くもありませんかった。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
なにゆえにおのれはこのことにつき、かく熱するかをとくと攻究したいのである。っては思案にあたわずと、古人こじんも教えている。るとは熱するのいいである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
……御依頼により埋葬つかまつ……と小生とかの蕗屋の三人のみに有之これあり……右につきとくと御談合申上度もうしあげたく……郷表ごうおもて(一二字分不明)六三中村なかむら……御一読の上は必ず火中……
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この頃の家内かない動静ようすを詳く叔父の耳へ入れて父親の口からとくとお勢に云い聞かせる、という一策で有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「先日申し入れました尾州中納言家御用金一万両、用人大橋要人改めて頂きにまかり出ましてご座る。これは留守居役山澄淡路守殿の書面、とくと御被見下さるよう」
そこで僕は承諾するともしないとも言わないでマアともかくも二、三日待ってくれろ、とくと勘考した上で返事をしようといっておいた。中川君、どうしたものだろうね
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それをとくと御勘考のうえ、ここはひとまず思いとまられて、お返しください。おかえしください!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ゆえに法王殿下にはとくとこの事を御考慮遊ばされて、私の真実なる願いをれられん事をこいねがう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「玉目三郎どのは、な——」と彼は云った、「おてまえの夫でござろう、われらを裏切るような人物ではありません、そのことは、殿よりもとくとおはなしがあったはずじゃが」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
仕方がないから記者は暫く沈黙して、その間にとくと先生の身なりを拝見することにした。
蘿洞先生 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
きょうは手術を受けますから、死骸しがいになって手術室から出て来る所をよっく御覧なさってあなたの愛子に知らせて喜ばしてやってくださいましよ。死にに行く前にとくとお礼を申します。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「だれもお前に無理強いはしねえ。とくかんげえろよ。己たちぁ一人だってお前をせき立てはしねえつもりだ、兄弟。お前と一緒にいると愉快で時のたつのがわからねえくれえだからなあ。」
……そこでと、藪殿いかがでござる、せっかく貴殿も心にかけ大鵬たいほうの行方を追って来たことじゃ、これから二人でビショット氏を訪ね、大鵬すなわち飛行機なるものをとくとご覧になられては。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしのう、ゴンゴラ大将。それについて、余は、とくと貴公と打合わせを
それでは私が後でとくりと申し聞こしまして、御返事を致しませう程にと、躰よくその場を済ましくれたれば、君子はほツと一息して、我が部屋へ退きたりしが、背後につきてはや母親は入来りつ
当世二人娘 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そんなのはとく産土神様うぶすなのかみさまうかがいまして、差支さしつかえのないものにはできるだけはなしまとまるようにほねってやりますが、ひょっとすると、妻子さいしのあるおとこと一しょになりたいとか、また人妻ひとづまはしてくれとか
全く知らなかったし、また私は生れてからまだ、南アフリカなんて云うところには、行ったこともありませんよ。おせっかい屋のホームズさん、とくとお考えなさって、冗談も休み休み仰有って下さい
「実はそのことで、昨日はとくと大巻にも相談したんですが、ちょうど工合よく川っぷちに空家がありましたので、そこを借りたらということになりました。古い百姓家ですが、相当広いうちです。」
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私はとくと母の説明を考へ合せ、かう申升まうしました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
お銀様がとくとそれを見直すと、それは、ボロボロの風呂敷包にくるんであるとはいえ、中で、生きて動く気色がむくむくと見えました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「もしまた、真の悪党だったら、どんなにでもなさるがいい。だが一応は、私にとくとその人間を見させて下さらんか。私がただしてみる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
調しらべ申さんと有ゆゑ主税之助答へてとく念入ねんいれ調しらべらるべしと主税之助主從十人とかぞへてぞ通しける主税之助は越前守の主從を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一応先生に承わって当人へとくと意見を申し聞かせまする了簡で罷り出ました、えい友之助の悪いかどわたくし当人になり代りましてお詫を致しますが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
左衛門大夫業政は武田勢の必至の軍配を察し適宜に兵をおさめて籠城ろうじょう対陣の策をとるものとみえる。……晴信は物見からとくとこのようすを見やって
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どうぞ、とくと御覧を願います。表面に鋳出ちゅうしゅつされております花冠を戴いた像は、ユリウス・ケーザルではありませぬ。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「もし不都合があったら、私からとくと云って聞かせるから、遠慮しないで、何でも話しておくれ。御互のなかで気不味きまずい事があっちゃあ面白くないから」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
惹起じゃっきする任務は普通の学究にては出来にくかるべしと思へばこそ貴兄へ懇請仕候ひしかと存候小生は本月末か来月早々上京のつもりに候故その時とくと御話申上ぐべく候
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「比良野様の御意見は御尤ごもっともと存じます。度々の不始末で、もうこの上何と申し聞けようもございません。いずれとくと考えました上で、改めてこちらから申し上げましょう」
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とくと調べては見たいけれど、神経の静かならぬ此の様な時に調べたとて我と我が心に欺かれる計りだから少し早過ぎるけれど外へ出て、充分に運動して其の上の事よと思い
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その真っ昼間の往来で、いつまでも飴売りのあとを付け廻しているわけにも行かないので、半七はその人相をとくと見定めただけで、ひと先ずそこを立ち去るのほかは無かった。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とくと御配慮を願います。私奴わたくしめが御預かり申上げましたのは、確かにこの小菊となまくら」
男一ぴきほこるものはものごとの利害、曲直についてとく思慮しりょする要素を備えねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
叔母さんのおっしゃる事は一々御尤ごもっとものようでも有るシ、かつわたくし一個ひとりの強情から、母親おふくろ勿論もちろん叔母さんにまで種々いろいろ御心配を懸けましてはなはだ恐入りますから、今一応とくと考えて見まして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)