生々いきいき)” の例文
そして自分が水をったので庭の草木の勢いが善くなって生々いきいきとして来る様子を見ると、また明日あした水撒みずまきをしてやろうとおもうのさ。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お綾の皮膚の色は、羽二重はぶたえ紅珊瑚べにさんごを包んだようで、生々いきいきした血色と、真珠色の光沢の上に、銀色の白粉おしろいを叩いたかと思われました。
ホームズと私とは、朝の新鮮な空気を吸いこみ、小鳥の音楽、四月の春の生々いきいきとした黄韻こういんを享楽しながら、砂の多い広い道を進んだ。
珍らしくその頬に生々いきいきとした血が流れた。おしげはがっくりと卓子によりかかっていたが、小首をかしげてから、杯をとりあげた。
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それから、肩に近いところには、絞首台とそれにぶら下っている男とのスケッチがあり、なかなか生々いきいきと出来ていると私は思った。
快川和尚かいせんおしょうが、幼心おさなごころへうちこんでおいた教えの力が、そのとき、かれの胸に生々いきいきとよみがえった。にっこりと笑って、涙をふいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの竹藪たけやぶは大変みごとだね。何だか死人しびとあぶら肥料こやしになって、ああ生々いきいき延びるような気がするじゃないか。ここにできるたけのこはきっとうまいよ」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひる近くまで、ぐったりと寝台の中に沈んでいて、夕方になると、急に生々いきいきして男のお友達を大勢誘って遊びに出かける。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
というのは、どっちへ目を向けても、生々いきいきとした、緑色のものが芽を吹いていて、今にも夏を迎えようとしていたから。
しかし七年間の小諸生活は私に取って一生忘れることの出来ないものだ。今でも私は千曲川ちくまがわの川上から川下までを生々いきいきと眼の前に見ることが出来る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
然るに歌麿はまづ橢円形だえんけいの顔を作りいだしてその形式的なる面貌めんぼううちにも往々生々いきいきしたる精神を挿入そうにゅうし得たるは従来の浮世絵画中かつて見ざる所なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうしたすがすがしい眺めとかおりとをこの子はどんなにむさぼり吸ったことか。父とまた初めて旅するこの子の瞳はどんなに黒く生々いきいきと燃えていたことか。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
帆村の眼は、久しぶりに生々いきいきと輝いた。彼はこの自記地震計をもって、かのとんとんとんととんという不整な地響のする地点を探しあてるつもりだった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まだ生々いきいきとしている小さな金壺眼かなつぼまなこは、まるで二十日鼠はつかねずみが暗い穴からとんがった鼻面はなを突き出して、耳をそばだてたり、髭をピクピク動かしながら、どこかに猫か
智恵子は、信吾が帰つてからの静子の、常になく生々いきいきはしやいでゐることを感じた。そして、それが何かしら物足らぬ様な情緒こころもちを起させた。自分にも兄がある。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ありふれた好みとは異っているひとが、芸にうちこんだ生々いきいきしさで、立った老女の方へ眼をくばっている——
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私は、長靴の伊太利から、明るい春の煙りが、カラカラ浴場跡の雑草のように、生々いきいきと沸き上るのを見た。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
するとその拍子ひょうしに、さっき大学の中で見かけた女の眼が、何故なぜか一瞬間生々いきいきと彼の記憶に浮んで来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一人は艶々つやつやと栗色の髪を束ね、一人は長く編んだ髪を背中に下げて、二人とも活発で、身ぎれいで、肥って、生々いきいきとして、丈夫そうで、見る目も心地よいほどだった。
彼女の顏色は例によつて生々いきいきと、或ひはテラ/\と茶褐色に飽く迄光り輝き、短い袖からは鬼をもひしぎさうな赤銅色の太い腕が逞しく出てをり、圓柱の如き脚の下で
……その時に限って、お顔のいろも、御様子も、生々いきいきとして、さも喜ばしそうでござります。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たもとが中に、袖口をすんなり、白羽二重の裏が生々いきいきと、女のはだを包んだようで、た人がらも思われる、裏が通って、揚羽あげはの蝶の紋がちらちらと羽を動かすように見えました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「我ぬ取り着きていひし子なはも」の句は、現実に見るような生々いきいきしたところがあっていい。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
黒潮に洗われるこの浦の波の色は濃く紺青こんじょうを染め出して、夕日にかがやく白帆と共に、強い生々いきいきとした眺めである。これは美しいが、夜の欸乃あいだいは侘しい。訳もなしに身に沁む。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
血の気が上ったようなこの花の生々いきいきしさに、私、ねたみを感じたのでしたわ、ところが叔父さま、まあ不思議な事には、今にも開きそうなこの蕾が、五日たっても十日たっても
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この種々いろいろな物を彫刻家が刻んだ時は、この種々いろいろな物が作者の生々いきいきした心持こころもちうちから生れて来て、譬えば海からあがったうおが網に包まれるように、芸術の形式に包まれた物であろう。
幽霊は純白の長衣を身に着けていた。そして、その腰の周りには光沢のある帯を締めていたが、その光沢は実に美しいものであった。幽霊は手に生々いきいきした緑色の柊の一枝を持っていた。
シムソンがこう云った時に、机の上の電話器がコツコツジージーというかすかな変な音を立てました。道雄少年は急に生々いきいきとした顔になって、受話器に手をかけて、取上げようとしました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
芳町よしちょう蔵前くらまえわかわかれにむようになったばかりに、いつかってかたもなく二ねんは三ねんねんは五ねんと、はやくも月日つきひながながれて、辻番付つじばんづけ組合くみあわせに、振袖姿ふりそですがた生々いきいきしさはるにしても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
生々いきいきとして居た甘藷の蔓は、唯一夜に正しく湯煎うでられた様にしおれて、明くる日は最早真黒になり、さわればぼろ/\のこなになる。シャンとして居た里芋さといもくきも、ぐっちゃりと腐った様になる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あたりのいかにも充ち足りたような、ものうい位の、なごやかさが、反ってそういう悲しみの多い人のお気の毒な身の上を、その一々の悲しみをまで、残酷なほど鮮かに、生々いきいきと私に描かせていた……
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
気候きこうさえあたり前だったら今年は僕はきっといままでの旱魃の損害そんがい恢復かいふくしてみせる。そして来年らいねんからはもううちの経済けいざいも楽にするし長根ぜんたいまできっと生々いきいきした愉快ゆかいなものにしてみせる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なるほど、自然の色を持った若葦の浅緑の生々いきいきした葉裏などにその夏虫のとまっている所は、いかにもおもしろい。おつでもあり、妙でもあって、とても、市中の玩具屋おもちゃやを探して歩いてもある品でない。
黒目勝ちなすずしい瞳、薔薇のように生々いきいきした頬、そしてつややかな髪が、ふさふさときゃしゃなえり元までたれていました。で、この少年と犬と牛乳車をモデルにする画家が、たくさん出て来ました。
何か生々いきいきとしたものがそのものごしに甦ってきたのであった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
生々いきいきした、豊かな美しさを見て楽むが好い。345
かく見てその生々いきいきした発表たるを知るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
生活が急に生々いきいきとなって来たのである。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大尉の頬は、生々いきいきと赤くかがやいた。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
そう云われた僕にも実は余り頻繁ひんぱんな経験ではなかった。新らしい気分に誘われた二人の会話は平生ふだんよりは生々いきいきしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
別にいい女ではないが、円顔まるがおの非常に色の白いことと、眼のぱっちりして、目に立つほど睫毛まつげの濃く長いことが、全体の顔立を生々いきいきと引立たせている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
細君は血の気を失い、蝋のような顔をして、眼にためてる涙だけが生々いきいきと輝いていた。島村は電話口へいった。
死の前後 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
彼はどことなく前より生々いきいきしてきて、性格までがあたかも心に一定の目的を懐ける人のように強固になった。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
「本艦は、本日を以て、米国加州沿岸べいこくかしゅうえんがんに接近することができたのである」艦長の頬は生々いきいき紅潮こうちょうしていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前の、あまり生々いきいきしたグループのなかで、何時いつまでもいつまでも話しこんでいたあたしは、あんまりちがった仲間のなかにいて、たしかに戸まどいもしているのだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私はそれを聞くと同時に、いまだに自分にもわからない、不思議に生々いきいきした心もちになった。生々した? もし月の光が明いと云うのなら、それも生々した心もちであろう。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「閣下、一日休みを下さいませ。」ブーシャール嬢は背が高く生々いきいきとした姿でこの上もなくかわいい薔薇色ばらいろの顔つきをしていた。大司教のケラン氏はほほえんで言った。
種々さまざまな文化の新様相も、決してそれは信長の創意したものでもなし、彼の構想でもなかった——にもかかわらず、生々いきいきとして、ことごとく新しい、悉く脱皮している、旧臭旧態は
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女の顔色は例によって生々いきいきと、あるいはテラテラと茶褐色にあくまで光り輝き、短い袖からは鬼をもひしぎそうな赤銅色の太い腕がたくましく出ており、円柱の如き脚の下で
ここから見ると、あの雑然とした絵が、とつぜん、生々いきいきとした実感をもちはじめた。