玻璃はり)” の例文
あなた方のお話を綜合そうごうしてみても、……まずこの大石が、玻璃はり窓を破って室内に飛び込み、ランプや旋回機を破壊して当直を叩き殺す。
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
わたしは帝國ホテルの廻廊の椅子に腰をおろして、玻璃はり越しに中庭を眺めてゐた。いろいろな刺戟から免れて心の閑かな時であつた。
(旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
あちこちに置かれた玻璃はりの道具、錫の食器、青磁の瓶——燈火ともしびかない一刻を仮睡うたたねの夢でも結んでいるように皆ひそやかに静まっている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今日において蒸気・電気・鉄・石炭・玻璃はり等の大自在力をもって一大革命をなし、世界の表面を一新したるにもかかわらず
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
霧収まりて天低う垂れ、銀錫ぎんしやく円盤大の白月、額に当つて空水流るゝこと一万里、截鉄せつてつの如き玄沙げんさ倐忽しゆくこつとして黒玻璃はりと化す。
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
鐘は両手でやっと引ける程の重量だったが、果してルキーンの云う通り、最初小鐘が明朗たる玻璃はり性の音響を発し、続いて荘厳な大鐘が交った。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
冬近い野は農家の軒のまわりにも、田のあぜにも大根が一ぱい干されている。空は玻璃はりのように澄み切って陽は照っている。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
羅紗らしゃ唐桟とうざん金巾かなきん玻璃はり、薬種、酒類なぞがそこからはいって来れば、生糸、漆器、製茶、水油、銅および銅器のたぐいなぞがそこから出て行って
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、「玻璃はり製の大燭台だいしょくだい、東方諸国の織物、金や青銅の記念はい、未亡人用の透かしレース、彩色彫刻、花模様の陶器」
「さようでございます。これはすきとおったするどいあきこなでございます。数知れぬ玻璃はり微塵みじんのようでございます」
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
根元まで燃えつきた蝋燭ろうそくは、燭台しょくだい玻璃はりに蝋のしたたりを添えていた。器具はすっかりその位置が乱されていた。
窓掛カアテンがアーチから引き開けられると、其處から、長い卓子テエブル一杯に並べられた、立派なデザァトの銀や玻璃はりの食器の上に吊燭臺ラスターが光を注いでゐる食堂が見えた。
眼をつぶって普通の玻璃はり面を撫でてみると、それは丁度木目の通った桐のサツマ下駄のようなものである。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
暁方あけがた近くうとうとして、ごとりごとり床板を踏む、フォイツの足音に、ふと眼覚めた時は、枕に近い小さい窓には、朝靄あさもやが浴場の玻璃はり扉のように渦まいておる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
それから玻璃はりに画いた農民美術のいろいろのものがあり、この中には、欲しくて溜まらぬものもあった。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
置き棚や卓子テーブルの上に飾られた陶器や、青銅の置き物や、玻璃はり製の細工物などの趣向のこった並べ方が、その豊かな暮しを現して、すべてがゆったりと溶け合っていた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
町全体が一つの薄い玻璃はりで構成されてる、危険なこわれやすい建物みたいであった、ちょっとしたバランスを失っても、家全体が崩壊して、硝子が粉々に砕けてしまう。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
皎々こうこうとさえ渡りたること玻璃はりきょうのごとき心の面に、糸屋の主人が独身であったという一条と、女の客が多すぎたという一条との二つに不審をおぼえたものでしたから
今までは処々によじれて垂れて居て、泥などで汚れて居た毛が綺麗になって、玻璃はりのように光って来た。この頃は別荘を離れて、街道へ出て見ても、誰も冷かすものはない。
その香水びんほどの可愛かわいらしいやつが、色玻璃はりだの玉石だの白磁だの、まれには堆朱ついしゅだのの肌をきらめかせながら、ざつと二三百ほども並んでゐるのだ。これにはあきれたね。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
大学生は、はっと思う間もなく、もう手に持っていた玻璃はりの盃を男を目がけて投げつけた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
中間支柱なく上部は一尺二寸間ごとにたるきを置き一面に玻璃はりを以っておおわれ、下部は粧飾用敷煉瓦しきれんがを敷詰め、通気管は上部突出部および中間側窓と、下方腰煉瓦こしれんがの場所に設けらる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、それはとにかく——(上人の手紙は取意の事)東京の小県へこの来書の趣は、婦人が受辱じゅにく胎蔵たいぞう玻璃はりを粉砕して、汚血おけつを猟色の墳墓に、たたき返したと思われぬでもない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……薄墨の長き糸もて、緑なる窓の玻璃はりに、条を引く、はてしなく、雨、長き雨、雨。
雨の日 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
汝もし温屋おんおく玻璃はりの内にナザレの耶蘇いえすの弟子ありときくとも汝の心をいたましむるなかれ。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
花の楼台ろうだいには、楽手がくしゅや歌姫がならび、玻璃はり銀盤ぎんばんの卓には、珍味が盛り飾られて、朝野の貴紳があらゆる盛装を競ッていた。中でも、一きわ目につく貴公子は、どういう身分のお人なのか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美の神マックグリナは彼女のために照り輝く玻璃はりの室を造ってやった、その中で彼女は夢のなかに生きていた、その光の部屋で、あかつきには花の色で、たそがれには花の香で養われていた。
葡萄酒コップは茶がかった緑色で台にグリグリ飾のついた玻璃はりであった。
赤い貨車 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
源内先生は、克明に一つずつ扉を引開ひきひらいては部屋を覗いて歩く。寝室のような部屋があるかと思うと、化粧の間とでもいったような、玻璃はりの大鏡が無残にこわれた床に墜ち散っている部屋もある。
初は隣家の隔ての竹垣にさえぎられて庭をなかばより這初はいはじめ、中頃は縁側へのぼッて座舗ざしきへ這込み、稗蒔ひえまきの水に流れては金瀲灔きんれんえん簷馬ふうりん玻璃はりとおりてはぎょく玲瓏れいろう、座賞の人に影を添えて孤燈一すいの光を奪い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
船にのぼりしころは日ようやく暮れて東の空には月いで、わが影淡く甲板に落ちたり。卓あり、粗末なる椅子いす二個を備え、主と客とをまてり、玻璃はり製の水瓶びんとコップとは雪白なる被布カバーの上に置かる。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
われ心に打ちうなづき、薄湿じめりせる石階のほの暗きを爪探つまさぐりて、やゝ五六段ほどくだり行きしと思ふ処に扉とおぼしき板戸あり。その中央に方五寸ほどの玻璃はり板を黒き布にて蔽ひたるがめ込み在り。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
地面はなにか玻璃はりを張ったような透明で、自分は軽い眩暈めまいを感じる。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
まどかなる月に凉しみひとりゐて笑みゐる顔の玻璃はりに写れる
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
『空にまつ赤な雲の色、玻璃はりにまつ赤な酒の色』から
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
四角なる玻璃はりの灯籠かける絵は民国の世も貴妃と牡丹と
ただえしぶく茴香酒アブサントするど玻璃はりのすすりなき。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われはづ。新しき薄手うすで玻璃はりの鉢を。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小さな黒い額縁や、玻璃はりの王冠
ねざめに あをき 窓玻璃はり
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
悲しい玻璃はり木立こだち浮模樣うきもやう
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
玻璃はり内の眼を感じつゝ親雀
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
月を浴び、玻璃はりおほはれ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ようよう玻璃はりの器の中に
あをみて曇る玻璃はりの戸を
薄紗の帳 (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
さかづき玻璃はりの嘆きと
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃はりでたたんだ自分のおへやから、ひょいっと芝生しばふびおりました。
玻璃はり扉にグルンダーと記してある、おやっと思って、貴君は、日本から山登りに来た、加賀って男を知ってますかって、念の為に聞いて見ると、おお、ミスター・カガ
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
しかるに、幸運であつた天気が、忽ちにして雲霧となり、下界をば全く隠蔽いんぺいしてしまつた。飆々へうへうとして流れくる雲霧は小粒こつぶ雨滴うてきとなつて車窓の玻璃はりらすやうになつた。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
壁にあるのは円形の窓で、天井にあるのはこれも円形の、玻璃はりで造られたあかまどで、そこに灯火ともしびが置いてあると見え、そこから鈍い琥珀色の光が、部屋を下様に照らしていた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)