牝牛めうし)” の例文
ロボはそののどに食いついたなり、身をしずめ、うんとふんばると、牝牛めうしは、角を地についてまっさかさまに大きくとんぼ返りにたおれる。
外はあかるい、よいお天気てんきでした。まず部屋へやの中で見つけたパンをたべて、それから、ガチョウと牝牛めうしに朝のたべものをやりました。
牝牛めうし小鳥ことりは、どうしてこんなにうつかりしてゐたのでせう。早速さつそく子守歌こもりうたならはなければなりません。ところでだれならつたものでせう。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
彼はいわゆる怒った牝牛めうしという名状すべからざるものを食ったのである(訳者注 怒ったる牝牛を食うとは困窮のどん底に達するの意)
厩橋側うまやばしそばに富士屋という肉屋があって、其所そこの牛肉が上等だというので、時々牝牛めうしの好いのを一斤ずつ買って母へ持って行ってげました。
店の奧から我慢のならぬちうを入れたのは、年上らしい女房のお秋でした。これは頑強で、眞つ黒で、牝牛めうしのやうな感じの女です。
あるお百姓ひゃくしょうさんが、牝牛めうし市場いちばっていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。
とりかえっこした牝牛めうしは、よし手にもどることがあるにしても、あなたたちは、あいかわらず貧乏でくらさなければならない。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
臨終いまわきわに、兼てより懇意こころやすくせし、裏の牧場まきばに飼はれたる、牡丹ぼたんといふ牝牛めうしをば、わが枕ひよせ。苦しき息をほっ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
図で見るように、ションの方は漏斗じょうごがたの受け器があって、これは牝牛めうしの場合に、適当な個所に於て、下から受けている。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
牝牛めうしおおきな体は、山の夜露に濡れていた。朝の草の色を見ると、牛は頻りに草を食った。けれど武蔵は、それも牛の意のままにまかせていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西部戦線では敵味方の間に色々面白い事柄が起きるが、或日の事英軍と独軍との塹壕のなかにある空地に、一匹の牝牛めうしがひよつくり飛び出して来た。
「みんな牝牛めうしだからねえ。おとなしいこと請合いですよ。馬や駕籠に乗るよりも、どんなに楽だか知れやあしねえ。」
恨みの蠑螺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乾草ほしぐさつくりに手をかしたり、垣根をなおしたり、馬に水をのませに連れていったり、牝牛めうしを放牧場から駆りたてたり、冬の煖炉だんろに燃すまきをきったりした。
ことに脾脱疽病ひだっそびょうという家畜の病気のおかげでフランスでも羊や牝牛めうしたおれることが多かったので、その予防接種の方法をパストゥールが完成したことは
ルイ・パストゥール (新字新仮名) / 石原純(著)
線路に臨んだ土手の上で夢みてる、牝牛めうしの群れの重々しい姿、——すべてのものにアントアネットとオリヴィエとは注意をひかれ、すべてが目新しかった。
母親は本能的愛であたかも牝牛めうしがそのこうしめるがごとく、自己の所有物のごとく、ときとしては玩具のごとく愛する。自己の個性を透し型にはめて愛する。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
私が揺り上げ揺りかたぶはしけの中から初めて見た敷香しくかの第一印象は、一頭のその黒い牝牛めうしであった。すぐとっつきの砂浜の一角にぽっつりと彼女は突っ立っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
わたしは或南伊太利亜イタリア人を知つてゐる。昔の希臘ギリシヤ人の血の通つた或南伊太利亜人である。彼の子供の時、彼の姉が彼にお前は牝牛めうしのやうな眼をしてゐると言つた。
翻訳小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その赤牛は強いものどうし集まっていた中から出てきたので、見るからにたくましい様子の牝牛めうしでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
向うの方で、牝牛めうしどもがのんびりと寝そべっているなかから、牡牛がのっそりち上がったのである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
恐怖から解かれて、好奇ばかりになった子供たちは、あとをしたってついて行って見ると、小屋の後ろの桃の木の下につないであった一頭の牝牛めうしのところへ来て、右の異人が
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その騒々しさは又おのずから牽手ひきての心を興奮させる。自分は二頭の牝牛めうしを引いて門を出た。腹部まで水にひたされて引出された乳牛は、どうされると思うのか、右往左往と狂い廻る。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
牝牛めうしにすら見受けられる自然のたわむれによって、彼らのうちかなり多くの者が好んで自分を先覚者、『破壊者』であると妄想して、『新しいことば』を発しようとしたがる。
これらの仲間の中にはなわの一はし牝牛めうしまたはこうしをつけていてゆくものもある。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
そののちも学者はいっこううんよくはなりません。悲しみと、なやみにせめつけられ、真善美についてなにをいったところで、おおくの人には、牝牛めうしにばらの花をくれたようなものでした。
風の少しもない日の癖で、霧がたちまち細い雨になって、今まで見えていた樅の木立がまた隠れる。谷川の音の太い鈍い調子を破って、どこかで清い鈴の音がする。牝牛めうしくびに懸けてある鈴であろう。
木精 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
実に柔和なる牝牛めうしの産をもって立つ小にして静かなる国であります。
あえけものにおいさえもしないで、縦の目で優しくると、両方へ黒いハート形のおもてを分けた。が牝牛めうしの如きは、何だか極りでも悪かったように、さらさらと雨のあとの露をちらして、山吹の中へ角を隠す。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
乾鮭からさけの大きな奴を太刀たちの如くに腰にび、裸同様のあさましい姿で、せた牝牛めうしの上にのりまたがり、えらそうな顔をして先駆の列に立って、都大路の諸人環視の中を堂々と打たせたから、群衆は呆れ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
未亡人自ら、牝牛めうしのような身体を運んで、先に立つ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
牛部屋でホルスタイン種の牝牛めうしがモーッとうなる!
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
灰色のぶちの牝牛めうし
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
... 買って料理に使いますが犢の肉もやっぱり一週間位けますか」お登和嬢「イイエ犢の肉は牛肉よりも食頃たべごろが速いのでく寒い時でもほふってから三、四日目位でございます」妻君「犢の肉はやっぱり大牛おおうしのように牝牛めうしの方がいいのでしょうか」お登和嬢「犢の時は孰方どちらも同じ事ですが大概おすばかりでめす滅多めったほふりません。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
店の奥から我慢のならぬちゅうを入れたのは、年上らしい女房のお秋でした。これは頑強で、真っ黒で、牝牛めうしのような感じの女です。
この首と胴体どうたいとのあいだはせまい通路になっているので、その通路へ一番精巧せいこうな二つのわなをうめ、そのわなのはし牝牛めうしの首に結びつけた。
年とった牝牛めうしは、返事へんじを待っているらしく、しばらくだまっていました。しかし、ニールスがなんにも言わないので、また話しだしました。
かあさんになつた小鳥ことりうへなかたまごをあたためてをりました。するとまた今日けふ牝牛めうしがそのしたへやつてました。
お母さん達 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
とうとう、うちの中で、どうにかおかねになるものといっては、たった一ぴきのこった牝牛めうしだけになってしまいました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのほかなお庭には、もと施療院の料理場となっていた家畜小屋があったが、司教はそこに二頭の牝牛めうしを飼っていた。
草履を持って、くりやのそばを流れているみぞぎわの石に腰かけ、二、三度足をざぶざぶやっていると、その肩へ、まだら牝牛めうしがのっそりした顔をつき出した。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じょうだんごとじゃあねえ。おら、金をもらうだ。三日めえに、おめえさんとこのでっかい犬が、ぶちころした牝牛めうしを、まるごともってこなかったかね。」
眼がぼんやりしてきた。彼はしまいに插絵を見るのをやめて、茫然ぼうぜんと考え込んでしまった。荷馬車の音が遠く街道の上に響いていた。野には牝牛めうしが鳴いていた。
山村さんそんの農夫が一人ひとり、隣家の牝牛めうしを盗んだ為に三箇月の懲役に服することになつた。獄中の彼は別人のやうに神妙に一々獄則を守り、模範的囚人と呼ばれさへした。
貝殻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
検査室にも、待合室にも松が飾ってあって、繋留場けいりゅうじょうでは赤い牝牛めうしが一頭と、黒牛が二頭繋いであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
垣根はいつもばらばらにくずれ、牝牛めうしはどこかへ迷っていってしまったり、キャベツ畑へ入りこんだりした。雑草はたしかに彼の畠では、ほかのところより早くのびた。
アメリカである百姓の飼つてゐる牝牛めうしがものにつまづいて、脚を一本折つたことがあつた。百姓は人間ですら義足が出来る世の中に、牝牛に義足の出来ない筈はないと考へた。
半分に切った酒樽さかだるの中で、ルノワアルとルグリは、毛皮で温かく足をくるんだまま、牝牛めうしのように食う。彼らはたった一度食事をするだけだが、その食事が一日じゅう続くのである。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
なれない人たちには、荒れないような牛を見計みはからって引かせることにして、自分は先頭せんとうに大きい赤白斑あかしろぶち牝牛めうしを引出した。十人の人が引続いて後から来るというような事にはゆかない。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
牝牛めうしを頭にいただいたハトル女神のかお? アプシンベル神殿の岩窟いわやの四箇の神像のその一つのクラノフェルの面に似ていると言えば言えるかも知れないが、それでありようはずのないのは
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)