りん)” の例文
何かこう特別な電気とかりんとかいうものが、その肉体にふくまれているようにさえ、一種言いがたい変な気がしてきたのであった。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すなわちSは硫黄、Bは硼素ほうそ、Fは弗素ふっそ、Pはりん、Hは水素、Kは加里カリー、Aはアルゴン、Cは炭素、Nは窒素、Vはバナジウムだ。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
雪はりんのようなかすかな光を放って、まっ黒に暮れ果てた家々の屋根をおおうていた。さびしいこの横町は人の影も見せなかった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
は暗く霧は重く、ちょうどはてのない沼のようでところどころに光る燈火がりんの燃えるように怪しい光を放ちて明滅していた。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
屋外そとは昼間のように明るい。りんのような光に誘われて、復た三吉は雑木林の方まで歩きに行きたく成った。お俊は叔父に連れられて行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし空気を管中に入れる前にりんの中を通してやれば非常に美しい黄金色になるという。また炭酸瓦斯を用うれば太陽の光と同じ純白色となる。
ムーア灯 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浮きあがる腰巻きのはじに青いりんがぴかぴか光る。思い切って重たい水の中へすっとおよいでみる。胸が締めつけられるようでいい気持ちだ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
人の心がりんの様に燃え上るのです。その不可思議な激情が、例えば『月光の曲』を生むのです。詩人ならずとも、月に無常を教えられるのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
を見ると掌にも血。——顔を撫でると顔にも血。ぬるい、ねばりのある液体が、りんのように体じゅうへねているのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう云えば眩しげに浅二郎を見る双眸にも、今まで一度として現われたことのない、あやしい情熱の光が、ちらちらとりんのように燃えているではないか
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……のみならず私は暫く歩いて行くうちに、そこいら中がいつともなく薄明るくなって、青白い、りんのような光りに満ち満ちて来たことに気が付いた。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かかる時船ばたのりんの光の時得顔ときえがほ金光きんくわうを散らしさふらふこと、はためざましくさふらひき。カトリツクの尼君昨夜よべ紐にてりんを釣られしなど語る人もおはしき。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
白い物がつい私の足の下から遠い向うの真暗な方にまで無数のりんが燃えるようにぱっと現れては又消えてしまう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「で一般に、この鶏の肉に限らず、鳥の肉には私たちの脳神経を養うに一番大事なりんがたくさんあるのです。」
茨海小学校 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
実は、これは心すべき事だつた。……船につくあやかしは、魔の影も、鬼火も、燃ゆるりんも、可恐おそろしき星の光も、皆、ものの尖端せんたんへ来てかかるのが例だと言ふから。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
心中——そう云う穏ならない文字が、まるでりんででも書いたように、新蔵の頭脳へ焼きついたのは、実にこのお敏の言葉を聞いた、瞬間だったと云う事です。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
青物屋のねぎは日に光つた。りんのやうに光つた。湯村は晒者さらしものになつたやうに思つて蒼白い額を両手におさへた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
肥溜こえだめ桶があった。いたちの死骸がりんの色にただれて泡をかぶっていた。桶杓ひしゃくんだ襤褸ぼろの浮島に刺さって居た。陀堀多はその柄を取上げた。あたり四方へ力一ぱい撒いた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
打つことにしよう。それから、りんで青く光る甲板かんぱんも、しばらくこのままにして置こう。そうでもしなければ、誰もこの大事件のあったことを信用しないだろうからね
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
利用したのさ。甲羅へりんを塗って庭へ逃して置いたら、夜になって、家のものが絶叫したんだ。人魂ひとだまが出たって騒ぎさ。そこで思いついて、君の方のお寺へ持って行った
ある温泉の由来 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
もっと葉のやわらかなような、色の緑色のほうきを立てたように鬱然こんもりとした、而して日の弱い光りを浴びてろうのような、りんの燃えるような、或時は尼が立っているとも見え、或時は
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ふたりの子供は、りんびんの中に差し込んだ付け木に火をつける音を聞いた。化学的のマッチはまだできていなかった。フュマードの発火器も当時では進歩した方のものだった。
こうして彼は暇さえあれば実験に熱中していましたが、そうするとる日列車の振動で棚の上に載せておいたりんがころげ落ちて、燃え出したので貨車のなかが焼けてしまいました。
トーマス・エディソン (新字新仮名) / 石原純(著)
小次郎の細い頸足えりあしと、刀を捧げているがために、いかって見える両肩と、頭の上にこちらに向かって切っ先だけを突き出して、その切っ先をりんかのように、蒼白く月光にさらしている
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女たちは金銀のケエプをしっくりと身体からだに引き締めて、まるでりんうろこを持った不思議な魚のようだった。彼女らの夜会服の裾は快活に拡がっていて、そうしてうしろの一部分は靴にまで長かった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
秋雨めかしい、りんのにおいの小雨である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
りんの火だ!
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
夢にも見たことのない大きな蛇が、木の幹にからみついて、鎌首をもたげて、りんのように光る目で、ジーッとこっちをにらみつけていたのです。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
雪をたっぷり含んだ空だけが、その間とわずかに争って、南方には見られぬ暗い、りんのような、さびしい光を残していた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「墓場の屍肉しにくから、りんぐらいのものはとれるか知らないか、赤光しゃっこうを出す薬液などがとれるものか。ばかばかしい」
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表の戸を開けてみると、屋外そとは昼間のように明るかった。りんのような月の光は敷居の直ぐ側まで射して来ていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこは茂りあった枝のかげで、まっくらでしたが、二疋はどっちもあらんかぎりりんと眼を開いてゐましたので、ぎろぎろりんを燃したやうに青く光りました。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
その頃彼の父は彼に農業の趣味を養うために郷里で豚を飼わせ、その収入を彼の小使銭にてた。この銭は多くは化学材料を買うために費やされ、ある時はりんで指を焼いた。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ツンドラ地帯ちたいって、沼地ぬまちみたいな、こけばかりはえているところがある。そこへがつくと、なかなかきえない。何年なんねんということなく、りんのようなのがしたからもえがる。
赤土へくる子供たち (新字新仮名) / 小川未明(著)
まるでりんでも燃えるかのように、きらきらとあやしく光るのが万三郎に感じられた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或る日、汽車がれた拍子ひょうしに車内の薬品棚やくひんだなから、りんの壜がおちてこわれ、たちまち燐は空気中の酸素と化合をはじめ、ぼーっと燃えだした。火事だ。汽車の中に火事がはじまったのである。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
嵐の気味でございまして、窓に近寄って眺めましたら空はクッキリと晴れ渡って、りんのように蒼い無数の星が遠くにすがすがしく輝いて居て、時々千切れた雲のきれが飛んで行くのが見えました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜ぞらに擦れてうすい明りをもつりんのように、ちらちら光って見えた。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
いろ/\のものをりんのような色で一様に塗りつぶしてしまうので、滋幹も最初の一刹那せつなは、そこの地上によこたわっている妙な形をしたものゝ正体がつかめなかったのであるが、ひとみらしているうちに
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
りんめりてつきまと
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして、りんほのおが燃えるかと疑われる、爛々らんらんたる四つの眼が薄闇うすやみに飛び違い、すさまじい咆哮が部屋の四壁をゆるがした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
間を置いて道わきにともされた電灯のが、ぬれた青葉をすべり落ちてぬかるみの中にりんのような光を漂わしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして又、急いで、水桶から水をすくい、ぐいと飲みほした。青い粉末がすこし溶けて、唇をりんのように光らした。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十字架の形をすこし斜に空に描いたような南極星も生れて初めて彼の眼に映じたものであった。暗い海を流れる青いりんの光も半ば夢の世界の光であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこはしげりあったえだのかげで、まっくらでしたが、二疋はどっちもあらんかぎりりんと眼を開いていましたので、ぎろぎろりんを燃したように青く光りました。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ちょうど、このはなうつった太陽たいようひかりは、りんほのおのように青白あおじろくさえられました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そのとき講演者の眼がりんのような光を放つのを、伊兵衛は、はっきりと見た。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暗澹あんたんりんの火し
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蒲団ふとんを積み重ねた奥の方から、あいつの無気味な眼が、りんのように燃えて、じっとこちらをにらんでいるのじゃないかしら。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
きょうを雪辱せつじょくの日となす気が——白布しらぬのにつつまれた眉に見える。りんとなって、白い炎をたてているように見える。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)