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燄
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ほのお
ふりがな文庫
“
燄
(
ほのお
)” の例文
狂える神が
小躍
(
こおど
)
りして「血を
啜
(
すす
)
れ」と云うを合図に、ぺらぺらと吐く
燄
(
ほのお
)
の舌は暗き大地を照らして
咽喉
(
のど
)
を越す血潮の
湧
(
わ
)
き返る音が聞えた。
趣味の遺伝
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこはまだ濃密な煙に包まれてい、倒れた倉の残骸を、
橙
(
だいだい
)
色の
燄
(
ほのお
)
が
舐
(
な
)
めていたし、穀物の焦げる香ばしい匂いが、
咽
(
む
)
せるほど強く漂っていた。
ちくしょう谷
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
然
(
しか
)
れども賽児の徒、
初
(
はじめ
)
より大志ありしにはあらず、官吏の
苛虐
(
かぎゃく
)
するところとなって
而
(
しこう
)
して後爆裂
迸発
(
へいはつ
)
して
燄
(
ほのお
)
を揚げしのみ。
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
その時背に負はれたるわれは、風に吹き
捲
(
ま
)
く
燄
(
ほのお
)
の偉大なる美に浮かれて、バイバイ(提灯のこと)バイバイと
躍
(
おど
)
り上りて喜びたり、と母は語りたまひき。
わが幼時の美感
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
寒夜火を焚いて
暖
(
だん
)
を取る。作者は何も
委
(
くわ
)
しいことを叙しておらぬが、屋外の光景らしく思われる。燃え
盛
(
さか
)
る赤い
燄
(
ほのお
)
が人の顔を照して、面上に明暗を作る。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
▼ もっと見る
(魔女杓子にて鍋を掻き廻し、ファウスト、メフィストフェレス、獣等に
燄
(
ほのお
)
を弾き掛く。獣等
懼
(
おそ
)
れうめく。)
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
その燃えさかりの
燄
(
ほのお
)
の中に、暗を縦横に引っ掻き廻し、入り乱れて手を突き、
肱
(
ひじ
)
を張っている。
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
と言って見て、残った草稿を一纏めにした時は、どうかすると紅い
燄
(
ほのお
)
が上った。その度に捨吉は草箒で火を叩き消した。色の焦げた燃えさしの紙片は苺の葉の中へも飛んだ。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
もっと好きそうなものが身近かに目つかるかすると、抑えがたい慾望の
燄
(
ほのお
)
がさらに彼女を駆り立て、別の異性へと飛び
蒐
(
かか
)
って行くのであったが、一つ一つの現実についてみれば
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
死ぬるか生きるか、
極
(
き
)
まるは今の
束
(
つか
)
の
間
(
ま
)
と思案するもまた束の間、心は
燄
(
ほのお
)
語
(
ことば
)
は
冰
(
こおり
)
、ほほほほほ
出抜
(
だしぬけ
)
だから
胆
(
きも
)
をお
潰
(
つぶ
)
しだらうね、話せば
直
(
じき
)
に分る事ゆゑ、まあちよつと下にゐて下されと
そめちがへ
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
按
(
あん
)
ずるに煽ぐという字は火偏に扇である、しかればますます
奴
(
やっこ
)
の
燄
(
ほのお
)
が
盛
(
さかん
)
になっても、消えて鎮まるべき道理はないが、そのかかることをいい、さることを
為
(
な
)
すは、深き仔細があったので。
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と
吩咐
(
いいつ
)
けながら竈の火を按排した。その
側
(
そば
)
で老栓は一つの青い
包
(
つつみ
)
と、一つの紅白の破れ提灯を一緒にして竈の中に突込むと、赤黒い
燄
(
ほのお
)
が渦を巻き起し、一種異様な薫りが店の方へ流れ出した。
薬
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
生死以上の難関を互の間に控えて、
羃然
(
べきぜん
)
たる爆発物が
抛
(
な
)
げ出されるか、抛げ出すか、動かざる二人の
身体
(
からだ
)
は
二塊
(
ふたかたまり
)
の
燄
(
ほのお
)
である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
すると煙が立って、いっとき
燄
(
ほのお
)
が隠れ、それから急に明るく燃えあがり、燄のさきが鍋底を
舐
(
な
)
めた。
橋の下
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
金
(
きん
)
の飾が光るのか。非常に強い
霊
(
れい
)
の力が
燄
(
ほのお
)
になって燃え立つのか。容易には分からない。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
割り口説いて云えば
斯様
(
こう
)
でもあるが、何もそれが一ツ一ツに存在しているのではなく、皆が皆一緒になって、青黄赤白、何の光りともない毒火の
燄
(
ほのお
)
となって
迸
(
ほとばし
)
り出て
掩
(
おお
)
いかかるのであった。
連環記
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
蓆囲
(
むしろがこ
)
ひの小屋の中に膝と膝と推し合ふて坐つて居る
浮
(
うか
)
れ
女
(
め
)
どもを竹の窓より覗いてゐる、古洲の尻に附いてうつかりと
佇
(
たたず
)
んでゐるこの時、我手許より
燄
(
ほのお
)
の立ち上るに驚いてうつむいて見れば
病牀六尺
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
甘い空想に
充
(
み
)
ちたその匂が津田という対象を得てついに実現された時、
忽然
(
こつぜん
)
鮮
(
あざ
)
やかな
燄
(
ほのお
)
に変化した自己の感情の前に
抃舞
(
べんぶ
)
したのは彼女であった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「ここを明けろ……」けれども答える者はなかった、「おおい明真、明真はいないか……」小坊主の名を呼びつづけたが、燃えあがる
燄
(
ほのお
)
と、すさまじい
呻
(
うめ
)
きのほかには
荒法師
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
(手づつなる飲み様をし、酒を床に飜す。
燄
(
ほのお
)
燃え立つ。)
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。仕舞には世の中が真赤になった。そうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと
燄
(
ほのお
)
の息を吹いて回転した。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
まえのときには圧倒され、たじろいだものが、二度めのそのときには激しいよろこびの
燄
(
ほのお
)
となった。おうたの全身はおれを包み、
譬
(
たと
)
えようもない微妙さでなみうち
痙攣
(
けいれん
)
した。
薊
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
沸
(
た
)
ぎる火の闇に
詮
(
せん
)
なく消ゆるあとより又沸ぎる火が立ち
騰
(
のぼ
)
る。深き夜を焦せとばかり煮え返る
燄
(
ほのお
)
の声は、地にわめく人の叫びを
小癪
(
こしゃく
)
なりとて空一面に鳴り渡る。
幻影の盾
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
不由はかすかに太息をついた、——胸いっぱいに
溢
(
あふ
)
れてくる烈しい情熱。昼、お徒士町で計らずも浅二郎の真の姿を見た
刹那
(
せつな
)
から、
堰
(
せき
)
を切ったように燃えはじめた愛情の
燄
(
ほのお
)
。
入婿十万両
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
互を
焚
(
や
)
き
焦
(
こ
)
がした
燄
(
ほのお
)
は、自然と変色して黒くなっていた。二人の生活はかようにして暗い中に沈んでいた。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そういう人間の多いことは慥かだが、気運がもりあがって、いよいよというときが来れば、そういう人間でもないよりあるほうがいい、枯木も山の賑わいと思わず、大きな
燄
(
ほのお
)
を
燕(つばくろ)
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
曝露
(
ばくろ
)
の
日
(
ひ
)
がまともに
彼等
(
かれら
)
の
眉間
(
みけん
)
を
射
(
い
)
たとき、
彼等
(
かれら
)
は
既
(
すで
)
に
徳義的
(
とくぎてき
)
に
痙攣
(
けいれん
)
の
苦痛
(
くつう
)
を
乘
(
の
)
り
切
(
き
)
つてゐた。
彼等
(
かれら
)
は
蒼白
(
あをしろ
)
い
額
(
ひたひ
)
を
素直
(
すなほ
)
に
前
(
まへ
)
に
出
(
だ
)
して、
其所
(
そこ
)
に
燄
(
ほのお
)
に
似
(
に
)
た
烙印
(
やきいん
)
を
受
(
う
)
けた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
曝露
(
ばくろ
)
の日がまともに彼らの
眉間
(
みけん
)
を射たとき、彼らはすでに徳義的に
痙攣
(
けいれん
)
の苦痛を乗り切っていた。彼らは
蒼白
(
あおしろ
)
い額を素直に前に出して、そこに
燄
(
ほのお
)
に似た
烙印
(
やきいん
)
を受けた。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
燃えついたばかりの
燄
(
ほのお
)
に照らされた主婦の顔を見ると、うすく
火熱
(
ほて
)
った上に、心持
御白粉
(
おしろい
)
を
塗
(
つ
)
けている。自分は部屋の入り口で化粧の
淋
(
さび
)
しみと云う事を、しみじみと悟った。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこには雨に降り込められた空の光を補なうため、もう電気灯が
点
(
とも
)
っていた。台所ではすでに
夕飯
(
ゆうめし
)
の支度を始めたと見えて、
瓦斯七輪
(
ガスしちりん
)
が二つとも忙がしく青い
燄
(
ほのお
)
を吐いていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
季節からいうとむしろ早過ぎる
瓦斯煖炉
(
ガスだんろ
)
の温かい
燄
(
ほのお
)
をもう見て来た。けれども乞食と彼との
懸隔
(
けんかく
)
は今の彼の眼中にはほとんど
入
(
はい
)
る余地がなかった。彼は窮した人のように感じた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
怒
(
いかり
)
の中心より
画
(
えが
)
き去る円は飛ぶがごとくに
速
(
すみや
)
かに、恋の中心より振り
来
(
きた
)
る円周は
燄
(
ほのお
)
の
痕
(
あと
)
を
空裏
(
くうり
)
に焼く。あるものは道義の糸を引いて動き、あるものは
奸譎
(
かんきつ
)
の
圜
(
かん
)
をほのめかして
回
(
めぐ
)
る。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
代助はこう云う
上
(
うわ
)
の空の生活を二日程送った。三日目の
日盛
(
ひざかり
)
に、彼は書斎の中から、ぎらぎらする空の色を見詰めて、上から吐き下す
燄
(
ほのお
)
の息を
嗅
(
か
)
いだ時に、非常に恐ろしくなった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
代助は無言のまま、三千代と抱き合って、この
燄
(
ほのお
)
の風に早く己れを焼き尽すのを、この上もない本望とした。彼は兄には何の答もしなかった。重い頭を支えて石の様に動かなかった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
女王の
該撒
(
シイザア
)
に送れる
文
(
ふみ
)
に云う。願わくは
安図尼
(
アントニイ
)
と同じ墓にわれを
埋
(
うず
)
めたまえと。
無花果
(
いちじく
)
の繁れる青き葉陰にはナイルの
泥
(
つち
)
の
燄
(
ほのお
)
の
舌
(
した
)
を冷やしたる
毒蛇
(
どくだ
)
を、そっと忍ばせたり。
該撒
(
シイザア
)
の使は走る。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
坂の中途へ来たら、前は正面にあった
燄
(
ほのお
)
が今度は
筋違
(
すじかい
)
に後の方に見え出した。坂の上からまた左へ取って返さなければならない。
横丁
(
よこちょう
)
を見つけていると、細い
路次
(
ろじ
)
のようなのが一つあった。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
羨
(
うらや
)
みから嘆賞に変って、しまいに崇拝の
間際
(
まぎわ
)
まで近づいた時、偶然彼女の自信を実現すべき、津田と彼女との間に起った相思の恋愛事件が、あたかも神秘の
燄
(
ほのお
)
のごとく、継子の前に燃え上った。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分は彼女の
蒼白
(
あおじろ
)
い頬の色を
燄
(
ほのお
)
のごとく
眩
(
まぶ
)
しく思った。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
燄
部首:⽕
16画
“燄”を含む語句
火燄
大光燄
燄々
気燄
大気燄
威燄
炎燄
猛燄
光燄万丈
忿怒燄曼徳迦
気燄家
氣燄
汗気燄
燄牙
逆燄
魔燄