渡世とせい)” の例文
『夜蕎麦売とは、変った渡世とせいをしているな。おれも、の日が、生涯のわかれ道になって、とうとう、つまらない刀鍛冶に成っている』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右の如く平安を好むの人情は、世界中に通用してたがうことなく、各国の交際も人々にんにん渡世とせいも、その目的、平安にあらざるはなし。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それにひきかえてこういう貧しい裏町に昔ながらの貧しい渡世とせいをしている年寄を見ると同情と悲哀とに加えてまた尊敬の念を禁じ得ない。
目科はあたかも足を渡世とせい資本もとでにせる人なると怪しまるゝほど達者に走り余はかろうじて其後に続くのみにてあえぎ/\ロデオンまちに達せし頃
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
それをまた仲間のうちに語り伝えて、彼らの執念の深さを人に感ぜしめ、暗々裡あんあんり渡世とせいの地をしたらしい形跡もあるのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おれは、代々、僅少わずか扶持ふちをもらって、生きているために、人間らしい根性をなくしてしまった、侍という渡世とせいが、つくづくいやになったんだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
世間のうわさが私の耳にも入ります。人もあろうに、小博奕こばくち渡世とせいにしている、安やくざとねんごろになっては、娘の一生も台なしでございましょう。
見る時は不便心が彌増いやまほどこすことのすきなる故まうけの無も道理ことわりなり依て六右衞門も心配なしいつそ我弟が渡世とせい先買さきがひとなりはぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もと豊国国貞の風を慕って、浮世絵師の渡世とせいをして居たゞけに、刺青師に堕落してからの清吉にもさすが畫工えかきらしい良心と、鋭感とが残って居た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかもその怪しからぬと思うような職業を渡世とせいにしている奴は我々よりはよっぽどえらい生活をしているのがあります。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両親りょうしんのない自分じぶんは、ついに、こんな渡世とせいにまでとしましたが、いつも、とりつかまえたときの呼吸こきゅうひとつで、どんなあぶない芸当げいとうも、やってのけるのであります。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「床屋が渡世とせいの新吉と申す者でござります。髪床は人の寄り場所、したがって世間のことを少々——」
しがねえ渡世とせいこそしているが、あんたのお繩を最後に、立派に十手を返上して——頭を丸めやす。へえ、坊主になって、一生あなた様の後生ごしょうをおとむらい申しやす。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
盆栽にしてもうですよ。お年寄には好いものを高く押っ付けます。それで忰にもく教えてありますが、御隠居さんをおびき出すことですよ、植木屋渡世とせいの呼吸はね
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
半次郎 これが堅気の瓦屋なら、逃げ隠れもしよう、だがヤクザ渡世とせいの泥沼へ、足を入れた男としては、奴等と白刃しらはをブッつけなくちゃ、男じゃあねえと人にいわれる。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
それにやることも当世とはだいぶ趣が違っていたし、それを渡世とせいにしていた人の数も、いまに比べるとぐっと少なかったようだから、なにやらはくがつくというものである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「ほかにもいろいろの渡世とせいがありんしょう。喧嘩商売、よしなんし。あぶのうおざんす」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その翌朝よくちょう、思いたった大石先生は、みさきの村へ船で出かけた。船頭せんどうは小ツルの父親とおなじく、わたし舟をしたり、車をひいたりするのが渡世とせいの、一本松の村のチリリンヤであった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「へえ、わつしは深川の六間堀ろくけんぼりで、これでも越後屋重吉と云ふ小間物渡世とせいでござりやす。」
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
乱世には士は命を的にして働き、農は汗を流し耕作をかせ歩役ぶやくを勤め、工はそれぞれ加役に用いられ、商人は武具の外に調ととのうる物なく、その時に至りて渡世とせいなく如何いかよう致し候心得か。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
文「ふうむ、聞けば旅商人たびあきんどということじゃが、渡世とせいなんだか知っておるか」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
パパには鋸楽師のこがくしのおいぼれを連れて行くことを云い出した。おいぼれとただ呼ばれる老人はのこぎりを曲げながらいていろいろなメロディを出す一つの芸を渡世とせいとして場末ばすえのキャフェをまわっていた。
売春婦リゼット (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
テレビジョンに犯人が現れた。なアんだ。これあ同じ渡世とせいの競争相手のヤーロの奴じゃないか。オヤ真青まっさおになって、四十番街を歩いているぞ。よオし、無線電話で交番を呼び出せ……ナニ出たって。
一九五〇年の殺人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聞合せけるに神田三河町二丁目にて彼質かのしち兩替渡世とせい伊勢屋五兵衞方にて子供をかゝへたきよしを聞込早々頼み入れ吉日をえらんで奉公にぞつかはしける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
活力節減の方で例を引いてお話をしますと、人力車をいて渡世とせいにするか、または自動車のハンドルを握って暮すかの競争になったのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
弱りましたな、御都合は百も二百も御尤でございますが、手前のほうも、渡世とせいでして、そうはお待ちができません。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども要するに、それはみんな身過ぎ世過ぎである。川竹の憂き身をかこつ哥沢うたざわの糸より細き筆の命毛いのちげ渡世とせいにする是非なさ……オット大変忘れたり。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
阪急はんきゅうの方が開けたり新国道が出来たりしてから、年々さびれつゝあるので、こんなところでいつ迄荒物屋渡世とせいをしてゐても思はしい訳はないのだけれど
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「安ばくちと押借りと、女たらしを渡世とせいにして居るくづのやうな男ですが、そんな野郎に限つて男つ振りは好い」
仕官もまた営業渡世とせいの一種なれども、俸給の他に位階勲章をあたうるは、その労力の大小にかかわらず、あたかも日本国中の人物を排列してその段等だんとうを区別するものにして
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
つわ、飲むわ——博徒ばくとの仲間にはいって、人殺し兇状を重ね、とうとうほんものの泥棒渡世とせいをかせいで、伝馬町てんまちょうの大牢でも顔を売り、ついに、三宅島みやけじまに送られ、そこを破ってからは
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
気のあらい大工の渡世とせいには少しおとなし過ぎるとも思われたが、その弱々しいのがいよいよ親方夫婦の不憫を増して、兄弟子あにでしにも朋輩ほうばいにも憎まれずに、肩揚げの取れるまで無事に勤めていた。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小納戸頭取こなんどとうどりの重職すらいただく身が、漁師渡世とせいの者よりこれほどまでにののしられて、上の御政道相立つと思うか! よこしまの恋に心がくらみ、御恩寵うくる妹に不義しかけさせるさえあるに
... いいなさるものじゃありませんよ)(なあに、かまやしないよ、わしは、若いとき井戸掘りで渡世とせいしていたんだから)(だって、あまり名誉な仕事でもないわ)(そんなことはない。第一、お前もわしが井戸掘り稼業かぎょうを ...
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると私の推察通り、彼はむかし寺町の郵便局のそばに店を持って、今と同じように、散髪を渡世とせいとしていた事が解った。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
渡世とせいになし居ると申されしなりと云ければ久兵衞は茲ぞ付込處つけこみどころなりと思ひすれば其市之丞殿の家主の名前なまへ又當時本人の名は何と申され候や紙屑買を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
水茶屋渡世とせいの通例ですが、その頃、大岡亀次郎と、同苗どうみょう市十郎と申す従兄いとこ同士の遊び客が折々見えるうち、お袖は、その市十郎と、恋仲におち、いつしか
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供の時から朝夕に母が渡世とせい三味線しゃみせんを聴くのが大好きで、習わずして自然にいとの調子を覚え、町を通る流行唄はやりうたなぞは一度聴けばぐに記憶する位であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「その信兵衞は腹の底からの町人ですが、飯田町といふ場所で、武家の客を相手にして、親代々質屋を渡世とせいにして居たら、人間の性根はどんなことになると思ひます」
ながねんのあいだもみりょうじを渡世とせいにいたし、おわかいお女中さまがたをかずしれず手がけてまいりましたが、あれほどしなやかなからだのおかたをいろうたことがござりませぬ。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
松浦屋ともいわれた方が、役人や、渡世とせい仲間や、悪番頭の悪だくみにはめられて、代々の御身代は奪い取られ、如何いか密貿易ぬけにの罪をきたとはいえ、累代御恩の子分こぶん児方こかたさえ、訪ねて来る者もない始末。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
久助は、さびしい裏町へお蝶を導いて、何を渡世とせいにする家とも分らない一軒のしもたやの戸を開けて、顔を出したそこの内儀ないぎと小声で話しておりましたが
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供の時から朝夕あさゆふに母が渡世とせい三味線しやみせんくのが大好きで、習はずして自然にいと調子てうしを覚え、町をとほ流行唄はやりうたなぞは一度けばぐに記憶きおくするくらゐであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その里というのは、無論私の記憶に残っているはずがないけれども、成人ののち聞いて見ると、何でも古道具の売買を渡世とせいにしていた貧しい夫婦ものであったらしい。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなところでいつ迄荒物屋渡世とせいをしてゐても思はしい訳はないのだけれど、動くには此の店を売り退かなければならないし、さて売り退いても何処で何を始めようと云ふ成算がない。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それに倉松は繩を拔けるのが渡世とせいで、縛る方は得手ぢやなかつたんだ」
「まアいいわ、手先や同心の内幕を聞くのも慰みだし、第一おめえ渡世とせいのためだ。ところで三次、今夜おれはいろは茶屋で泊まるから、こいつを乗せて先に帰ってくれないか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寄席よせ、芝居。何に限らず興行物の楽屋には舞台へ出る芸人や、舞台の裏で働いている人たちを目あてにしてそれよりもまた更に果敢はかな渡世とせいをしているものが大勢出入でいりをしている。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は洋風の指物さしもの渡世とせいにする男の店先に立って、しきりに算盤そろばんはじく主人と談判をした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんなところでいつ迄荒物屋渡世とせいをしていても思わしい訳はないのだけれど、動くにはこの店を売り退かなければならないし、さて売り退いても何処で何を始めようと云う成算がない。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)