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渓川
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たにがわ
ふりがな文庫
“
渓川
(
たにがわ
)” の例文
旧字:
溪川
下の狭い
渓川
(
たにがわ
)
のあたりである。突然
歩哨
(
ほしょう
)
していた兵の大きな声がしたと思うと、間もなく、そこから駈け上がって来る足音がする。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
時節が時節ですから、紅葉は無論見られませんでしたが、
渓川
(
たにがわ
)
があって、山があって、山の行き当りに滝があって、大変好い所でした。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこには竹の
栞戸
(
しおりど
)
があった。武士は
渓川
(
たにがわ
)
の
縁
(
へり
)
に往くに一二度そこを
出入
(
ではい
)
りしていたのでかっては知っていた。武士は
栞戸
(
しおりど
)
を開けて外に出た。
山寺の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
こうしてこの一群の立ち去った後は、嶮しい山と
急流
(
はや
)
い
渓川
(
たにがわ
)
とで、
形成
(
かたちづく
)
られている十津川郷の、帯のように細い往来には、人の影さえまばらであった。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
食は
野菜
(
やさい
)
のみ、魚とては此辺の
渓川
(
たにがわ
)
にて捕らるるいわなというものの外、なにもなし。飯のそえものに野菜
煮
(
に
)
よといえば、
砂糖
(
さとう
)
もて来たまいしかと問う。
みちの記
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
▼ もっと見る
足元から
崩
(
くず
)
れ落ちる真黒な山路も、物の
怪
(
け
)
のような岩の間を
轟
(
とどろ
)
き流れる
渓川
(
たにがわ
)
も、慣れない身ながら恐れもなく、このような死人の息さえきこえぬ山奥で
道成寺(一幕劇)
(新字新仮名)
/
郡虎彦
(著)
澄んだ水の流れている岩の多い、
渓川
(
たにがわ
)
の
辺
(
ふち
)
を通って、私達は歩いた。こんもりと繁った樹の間には、
虎杖
(
いたどり
)
や
木苺
(
きいちご
)
や
山独活
(
やまうど
)
が今をさかりと生い立っていた。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
或る日
瀧道
(
たきみち
)
の終点で落ち合ひ、
神有
(
しんゆう
)
電車で有馬へ行つて、
御所
(
ごしょ
)
の
坊
(
ぼう
)
の二階座敷で半日ばかり遊んで暮らしたことがあつたが、涼しい
渓川
(
たにがわ
)
の音を聞きながら
猫と庄造と二人のをんな
(新字旧仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
今山紫水明のピリポ・カイザリヤに来て、イエスのたましいは深く神に交じわり神の慰めを受けて、渇きし鹿が
渓川
(
たにがわ
)
に下り立ったような蘇生の思いがありました。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
十五節—二十節においては友を沙漠の
渓川
(
たにがわ
)
に
譬
(
たと
)
えて、生命を
潤
(
うる
)
おす水を得んとてそこに到る
隊客旅
(
くみたびびと
)
(Caravan)を失望
慚愧
(
ざんき
)
せしむるものであるとなしておる。
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
東晋
(
とうしん
)
の
太元
(
たいげん
)
年中に
武陵
(
ぶりょう
)
の
黄道真
(
こうどうしん
)
という
漁人
(
ぎょじん
)
が魚を捕りに出て、
渓川
(
たにがわ
)
に沿うて漕いで行くうちに、どのくらい深入りをしたか知らないが、たちまち桃の林を見いだした。
中国怪奇小説集:04 捜神後記(六朝)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
今夜の
貴方
(
あなた
)
の御声というものは、実に
白蓮
(
びゃくれん
)
の花に露が
転
(
まろ
)
ぶというのか、こうその
渓川
(
たにがわ
)
の水へ月が、映ると申そうか、いかにも
譬
(
たと
)
えようのない、清い、澄んだ、
冴々
(
さえざえ
)
した
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
少時
(
しばらく
)
三人が茶を
喫
(
きっ
)
している際でも、別に会話をはずませる如きことはせぬので、晩成先生はただ
僅
(
わずか
)
に、この寺が
昔時
(
むかし
)
は立派な寺であったこと、寺の庭のずっと先は
渓川
(
たにがわ
)
で
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
けれども何より
嬉
(
うれ
)
しくって今思いだしても堪りませんのは同じ年ごろの
従兄弟
(
いとこ
)
と二人で遊ぶことでした。二人はよく山の
峡間
(
はざま
)
の
渓川
(
たにがわ
)
に
山鰷
(
やまばえ
)
を
釣
(
つ
)
りに行ったものでございます。
女難
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
私は山かげの暗い洞穴のなかで、
渓川
(
たにがわ
)
の音の咽び泣くのを聞きながら、神様に祈りました。
青春の息の痕
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
最初に
渓川
(
たにがわ
)
の流に物を洗いに降りて、美しい
丹塗
(
にぬ
)
りの
箭
(
や
)
が川上から
泛
(
うか
)
んできたのを、拾うて還って床の
側
(
かたわら
)
に立てて置いたという例があるのを見ると、また異常なる感動をもって
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
まさに帰ろうとしたがこの奥に別の窯場があると聞いて、元気づき
渓川
(
たにがわ
)
を縫って
溯
(
さかのぼ
)
る。飛石伝いを三度曲ればと草刈る村童に教えられて足を急いだ。川を離れると急に坂路にかかる。
全羅紀行
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
悲しいことに山登りの経験を持っていない頼門には、
渓川
(
たにがわ
)
に添って里に下ることも知らず、北斗星を見定めて、その逆の方に辿る智慧もなく、足に任せて、
何処
(
どこ
)
ともなく、
唯
(
ただ
)
歩きに歩いて居たのです。
奇談クラブ〔戦後版〕:09 大名の倅
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
渓川
(
たにがわ
)
に危うく渡せる一本橋を前後して横切った二人の影は、草山の草繁き中を、
辛
(
かろ
)
うじて
一縷
(
いちる
)
の細き力に
頂
(
いただ
)
きへ抜ける
小径
(
こみち
)
のなかに隠れた。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「ゆうべの大雨に、諸所、崖はくずれ、道は消え失せ、それに至るところ
渓川
(
たにがわ
)
が生じてしまったものですから、馬も渡すことができません」
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
摺鉢
(
すりばち
)
の底のような
窪地
(
くぼち
)
になった庭の前には
薬研
(
やげん
)
のように
刳
(
えぐ
)
れた
渓川
(
たにがわ
)
が流れて、もう七つさがりの
輝
(
かがやき
)
のない
陽
(
ひ
)
が渓川の
前方
(
むこう
)
に在る山を
静
(
しずか
)
に染めていた。
山寺の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
或る日
滝道
(
たきみち
)
の終点で落ち合い、
神有
(
しんゆう
)
電車で有馬へ行って、御所の坊の二階座敷で半日ばかり遊んで暮らしたことがあったが、涼しい
渓川
(
たにがわ
)
の音を聞きながら
猫と庄造と二人のおんな
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
そうして、廟に近い
渓川
(
たにがわ
)
のほとりまで登って来ますと、一人の
卒
(
そつ
)
が出て参りました。卒は青い着物をきて、白い皮で膝を蔽っていましたが、つかつかと寄って来て、かの役人を捕えるのです。
中国怪奇小説集:09 稽神録(宋)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
橋流れて水流れず、橋流れて水流れず、ハテナ、橋流れて水流れず、と口の中で扱い、胸の中で
咬
(
か
)
んでいると、
忽
(
たちま
)
ち昼間渡った
仮
(
かり
)
そめの橋が
洶〻
(
きょうきょう
)
と流れる
渓川
(
たにがわ
)
の上に
架渡
(
かけわた
)
されていた景色が眼に浮んだ。
観画談
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
崖
(
がけ
)
を降りて
渓川
(
たにがわ
)
へ水を
汲
(
く
)
みに行くよりも、台所へ水道を引く方が好くなった。けれども南画に似た心持は時々夢を襲った。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ついそこの、
渓川
(
たにがわ
)
に遊び跳ねている童の群れを見るにつけ、その中に、妹の幼い頃の姿もあるように……正成の瞼は、遠い過去を、描いていた。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
路の
遥
(
はるか
)
の下の方で、どう、どう、ど、ど、どうと云うような音が聞えて来た。渡って来た
渓川
(
たにがわ
)
の音であろうか。
山寺の怪
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
障子の外にはささやかな庭があって、そこからだらだらと
渓川
(
たにがわ
)
の縁へ下りられるようになっており、庭からその
崖
(
がけ
)
へかけて咲いている
萩
(
はぎ
)
がもう散りかかってしたたか雨に打たれていた。
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「なに、
渓川
(
たにがわ
)
があるから、ひとりでに消える。あれで含月荘の侍たちが消しにくる頃には、死骸はみんな灰になる」
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
道は草の峰になり、岩の
聳
(
そび
)
えた
渓川
(
たにがわ
)
の間になり、大木の
生
(
お
)
い茂った真暗な林になるなど、眼まぐるしく往く道が変化した。寒い風が吹き、
雲霧
(
くもぎり
)
が飛び、星が見えたり隠れたりした。
神仙河野久
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
丁度瀬の早い
渓川
(
たにがわ
)
のところどころに、
澱
(
よど
)
んだ
淵
(
ふち
)
が出来るように、下町の
雑沓
(
ざっとう
)
する
巷
(
ちまた
)
と巷の
間
(
あわい
)
に
挟
(
はさ
)
まりながら、極めて特殊の場合か、特殊の人でもなければめったに通行しないような閑静な
一郭
(
いっかく
)
が
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
晁蓋は、深夜、ひとりで
渓川
(
たにがわ
)
を渡って行き、西岸の供養塔を
担
(
かつ
)
いで帰った。そして東渓村の見晴らしのいいところへ、それをでんと据えこんで、澄ましていた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
寿真は河野を
伴
(
つ
)
れて岩屋を出た。そして二人で山を
降
(
くだ
)
って往った。一里あまり往って、深林を
出放
(
ではな
)
れると
渓川
(
たにがわ
)
が来た。左右には高い山が天空を支えて
聳
(
そび
)
えていた。渓には夏の夕陽があった。
神仙河野久
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
京方
(
きょうがた
)
の
討手
(
うって
)
がこの地方へ
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
んだとき、どうしても自天王の御座所が分らないので、山また山を
捜
(
さが
)
し求めつつ、一日
偶然
(
ぐうぜん
)
この峡谷へやって来て、ふと
渓川
(
たにがわ
)
を見ると、川上の方から黄金が流れて来る
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
柳生から近い月ヶ瀬に、ことしも
鶯
(
うぐいす
)
の声が
渓川
(
たにがわ
)
伝いに聞えてきた。——折から、奈良の
宝蔵院
(
ほうぞういん
)
の僧を案内として、柳生村へ入って来た一行九人づれの武士がある。
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
某
(
ある
)
日
(
ひ
)
、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星が
斑
(
まばら
)
に光っていた。路のむこうには真黒な峰が重なり重なりしていた。路は
渓川
(
たにがわ
)
に沿うていた。遥か下の地の底のような処で水の音が聞えていた。
殺神記
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
もうその辺は
構
(
かま
)
えの外であるらしく、泉石のたゞずまいも人為的な庭園の
風情
(
ふぜい
)
はなくて、次第に殺風景な山路になっているのであったが、ふと向うを見ると、
渓川
(
たにがわ
)
の岸の崖の上に、一本の大きな桜が
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
さしもの夏侯惇も、
渓川
(
たにがわ
)
におちて死ぬものやら、馬に踏まれて落命するなど、おびただしい味方の死傷を見ては、ひっ返して、趙雲に出会う勇気もなかったらしい。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
言い残すと、そこからすぐ
渓川
(
たにがわ
)
道へ降りて、
鵯
(
ひよ
)
のごとく、その迅い影を、沢づたいに消してしまった。
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
猿のさけびが
掻消
(
かきき
)
えると、ぐわっ——と谷底の鳴るのが逆しまに、顔をふきあげてくる。そそり立っている
岩峭
(
がんしょう
)
に
打
(
ぶ
)
つかってくる冷たい風と、
渓川
(
たにがわ
)
のうなりである。
源頼朝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そもそも、この山
裾
(
すそ
)
には、一すじの
渓川
(
たにがわ
)
を境として、
西渓村
(
せいけいそん
)
と
東渓村
(
とうけいそん
)
との、二
聚落
(
じゅらく
)
がある。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
権之助がふと仰ぐと、向いの崖の上に、左の眼の上に
腫
(
は
)
れ上がった
青痣
(
あおあざ
)
のある山伏の顔が見えた。その痣は、ゆうべ金剛寺の
渓川
(
たにがわ
)
から、伊織の投げた石つぶてを、直ぐ二人に思い起させた。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「ばか、ばか、逃げる気か。——もうそこから下は、
渓川
(
たにがわ
)
の
絶壁
(
きったて
)
だぞ」
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
渓
常用漢字
中学
部首:⽔
11画
川
常用漢字
小1
部首:⼮
3画
“渓川”で始まる語句
渓川崖
渓川橋
渓川道