にじ)” の例文
細身の蝋塗鞘ろふぬりざや赤銅しやくどうと金で牡丹ぼたん目貫めぬきつか絲に少し血がにじんで居りますが、すべて華奢で贅澤で、三所物も好みがなか/\に厭味です。
(興奮しつつ、びりびりと傘を破く。ために、きずつき、指さき腕など血汐ちしおにじむ——取直す)——畜生——畜生——畜生——畜生——
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悪食あくじきに彷彿すとあるが、ちょうどそれと同じような作用を、このハンカチににじんだ毒薬が起しているので、如何に烈しい毒であるかは
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見ると其の人夫の頭を巻いた衣片にはなまなました血がにじんで、衣片の下からのぞいている頬から下の色は蒼黒くなって血の気が失せていた。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは、地味な衣裳と無造作な髪の形が、すんなりとしたからだつきに、一種のつゝましい媚態のようなものをにじみ出させていることだつた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
だんだん夕暮れて行くあたりの陰影が忍び込んで、そこの空気はぼんやり翳り、長い廊下の彼方に、細まつて円錐形に見え、黝くにじんで物の輪郭もぼやけてゐた。
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
見れば秀子は左の前額ひたいに少しばかり怪我をして血がにじんで居る、仆れる拍子に何所かで打ったのであろう、余は手巾を取り出し、其の血を拭いて遣ろうとするに
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
偶然にも、その時計は、その偽りの贈物は、お兄さんの血で、真赤に染められていたのです。衝突のときに、硝子ガラスが壊れたと見え、血が時計の胴ににじんでいたのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何日いつぞやは障子を開けておいたのが惡いとかいつて、突然手近にあつた子供の算盤そろばんで細君の横面よこつらを思ひきりなぐつた。細君の顏はみる/\腫れ上つた、眼にも血がにじんで來た。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
弱い日の光りが、雲ににじんで、其等の景色をほんのりと明るく見せていたかと思うと、急に風が変って、雨が降って来る。晩方ばんがたにかけては、空は暗くなって、あられや、みぞれなども混って降って来た。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
地平の彼方に血のにじむ頃
傾ける殿堂 (新字旧仮名) / 上里春生(著)
その幹深く枝々をすかして、ぼーッとすす色ににじんだ燈は、影のように障子を映して、其処に行燈あんどうともれたのが遠くから認められた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はひどく眠かつたので幾らかよろよろしながらその男の所まで行くと、彼はうつぶせになつて、枕の上にのり出し、片手には赤黒く血のにじんだガーゼを掴んで喘いでゐるのである。
続癩院記録 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
軽い出血があつたと見え、その白つぽい時計の胴に、所々真赤な血がにじんでゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
平次の心には、この不幸な男に対する憐愍あわれみが、油のごとくにじむ様子でした。
ぬしありやまたあらた調ととのえたか、それは知らない、ただ黒髪の気をうけて、枕紙の真新しいのに、ずるずると女の油がにじんでいた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軽い出血があったと見え、その白っぽい時計の胴に、所々真赤な血がにじんでいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
畳はかなり新しく、まだほのかに青みを有つてゐたが、処々に破れ目や、赤黒く血のにじんだ跡等があつた。壁は白塗りであつたが、割れ目や、激しく拳固で撲りつけたらしい跡があつた。
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
平次の心には、この不幸な男に對する憐愍あはれみが、油の如くにじむ樣子でした。
自分じぶんかへりましたとき兩臂りやうひぢと、ちゝしたと、手首てくびみやくと 方々はう/″\にじんで、其處そこ眞白まつしろくすりこな振掛ふりかけてあるのがわかりました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、最後に、母が刺されたその夜に、身に付けてゐた、白い肌襦袢に、手を触れなければならなかつた。それには、所々血がにじんでゐた。美奈子は、それに手を触れるのが恐ろしかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
その前に彼は立つたが、斜に貼りつけられた貸家札が、黒く風雨ににじんでゐた。彼は裏へ廻つて見た。水道の来ない時からあつた井戸が、そのままあつた。その井戸でよく面を洗つたものだつた。
月日 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
指の先が色に染まって、赤くなって血がにじんだようなのをあやしんで聞くと、今日お墓参りをした時濡れ手で線香を持ったといって
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、ようやくスイッチをひねったとき、明るい光は、痛ましい光景を、マザ/\と照し出した。母の白い寝衣ねまき、白いシーツ、白い毛布に、夜目には赤黒く見える血潮が、ベタ/\と一面ににじんでいる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
三月四日のの事であった。宵に小降りのした雨上り、月は潜んでおぼろ、と云うが、黒雲がにじんで暗い、一石橋いちこくばしの欄干際。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
霜月しもつきの末頃である。一晩、陽気違ひの生暖い風が吹いて、むつと雲が蒸して、火鉢のそばだと半纏はんてんは脱ぎたいまでに、悪汗わるあせにじむやうな、其暮方だつた。
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
霜月しもつき末頃すゑごろである。一晩ひとばん陽氣違やうきちがひの生暖なまぬるかぜいて、むつとくもして、火鉢ひばちそばだと半纏はんてんぎたいまでに、惡汗わるあせにじむやうな、その暮方くれがただつた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……トタンに額を打って、鼻頭はなづらにじんだ、大粒なのに、むっくと起き、枕を取って掻遣かいやりながら、立膝で、じりりと寄って、肩までまくれた寝衣ねまきの袖を引伸ばしながら
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はッと声に出して、思わず歎息ためいきをすると、にじむ涙を、両の腕。……おもてをひしとおおうていた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よじって伸ばす白い咽喉のどが、傷々いたいたしく伸びて、蒼褪あおざめる頬の色が見る見るうちに、その咽喉へくまを薄くにじませて、身悶みもだえをするたびに、踏処ふみどころのない、つぼまった蹴出けだしが乱れました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細雨こさめにじむだのをると——猶予ためらはず其方そちらいて、一度いちどはすつて折曲をれまがつてつらなく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、あれ、どこともなく瀬の音して、雨雲の一際黒く、おおいなる蜘蛛のにじんだような、峰の天狗松の常燈明の一つが、地獄の一つ星のごとく見ゆるにつけても、どうやら三体の通魔めく。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言いながら白に浅黄をへりとりの手巾ハンケチで、脇をおさえると、脇。膝をずぶずぶと圧えると、膝を、濡れたのが襦袢をとおして、明石のしまにじんでは、手巾にひたひたと桃色の雫を染めた。——
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お澄は、胸白く、下じめのほかに血がにじむ。……繻子しゅすの帯がするすると鳴った。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猫が鳴いた事は、誰の耳にも聞えたが、場合が場合で、一同が言合わせたごとく、その四角な、大きな、真暗まっくらな穴の、はるかな底は、上野天王寺の森の黒雲が灰色の空ににじんで湧上わきあがる、窓を見た。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は冷い汗を流した、汗と一所いっしょてのひらに血がにじんだ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
灯前あかりさきの木の葉は白く、陰なる朱葉もみじの色もにじむ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)