流行唄はやりうた)” の例文
流行唄はやりうた——少しも讃州らしい匂いのない、江戸の流行唄——を二つ三つやると、やがて、達弁な口上の声につれて立ち上がりました。
ションガイナは今のみなさんの「しょうが無いな」と同じ意味の言葉で、もう今から三百年もまえの流行唄はやりうたはやしの文句であった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その時戸を明けて貸自動車屋の運転手らしい洋服に下駄げたをはいた男が二人、口笛でオペラの流行唄はやりうたをやりながら入って来たので
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おりからあちこちの遊女の室から、品のいい、なまめかしい流行唄はやりうたが、自分の不幸を訴えるかのように、哀々とした調子で聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宵の口だけまだ、土地柄、人通りが賑やかで、流行唄はやりうたをうたったりして通る二三人位ずつの群が、夏のなごりを残していた。”
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
流行唄はやりうたを謡うものがあったりした。ひろ子のわきで、若い女と膝組みにもまれこまれた父親の好色めいた冗談を、その娘が
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
益満は、濃染の手拭で顔をかくし、富士春は、編笠をきて、益満が唄うと、女が弾く、流しの、流行唄はやりうた唄いの姿であった。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
淺薄な流行唄はやりうたの文句のやうなこんな標題で、ありもしない惡名を書き立てられたのかと思ふと、自分の心は暗くなつた。
私が玄關の小部屋に机を控へて勉強して居りますと、彼等の一人が主人の子供を抱いて來て、窓の外を見せながらよく當時の流行唄はやりうたを歌ひました。
時々古臭い「カチューシャ」や「沈鐘」の流行唄はやりうたを唄ったり、大声で嬉しそうに父親に話し掛けたりしていたとの事。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
見たところ元気のいい子で、顔も背中も渋紙のような色をして、そして当時流行はやっていた卑猥な流行唄はやりうたを歌いながら丸裸の跣足はだしで浜を走り廻っていた。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
フツフウ、ユウユウと云ふ流行唄はやりうたの二つの間投詞を取つて名づけた二匹の小犬が居て食卓の下で我我われわれの足に突当りながらうろうろする。膝へ駆上かけあがつても来る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼はなかなか我慢がまんづよく、そしてふだんは黙り屋であったけれど、どうかすると、鼻をぶりぶりと、ラッパのようにならして、軍歌や流行唄はやりうたなどをふいてみせた。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹「私は少しも知らないので、何か無駄書むだがき流行唄はやりうたかと思いましたから、丸めて打棄うっちゃってしまいました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
活動写真ともなれば流行唄はやりうたともなり、中学校の国文教科書にも載れば絵葉書にも発行され、今ではどんな田舎の片山里でも『金色夜叉』の名を知らないものはない。
なるほどお前のこゝろでは、五百石のお家が大事であらうが、主とわたしの戀を唄うた此ごろの流行唄はやりうたを、お前はなんと聞きなさんした。なんの五千石君とねよ……。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
例えば『春色梅暦』巻之七に出ている流行唄はやりうたに「気だてが粋で、なりふりまでも意気で」とある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
卑猥ひわいな雑談にふけったり、流行唄はやりうたを唄ったりして夜更けまで闇の中をあちこちとうろつき廻った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
しかしそれは伝法肌の隠居が、何処かの花魁おいらんに習つたと云ふ、二三十年以前の流行唄はやりうただつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
く先々の庄屋のものおき、村はずれの辻堂などを仮の住居すまいとして、昼は村の註文を集めて仕事をする、傍ら夜は村里の人々に時々の流行唄はやりうた浪花節なにわぶしなどをも唄って聞かせる。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「若い時ア二度無い」といふ流行唄はやりうたの文句まで引いて、熱心にお定の決心を促すのであつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
カフェーに居る時覚えた流行唄はやりうたを初め歌っていたが、いつのまにか、女学校や小学校の頃習った唱歌になってしまった。自分の声に聞き惚れていると、自然に涙が出て来た。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
今時いまどきは投節を面白く歌うて聞かせる芸子もなければ、それを聞いてよろこぶ客もない。あんなガサツな流行唄はやりうたや、突拍子とっぴょうしもない詩吟で、廓の風情ふぜいも台なし、いよいよ世は末じゃて
耳慣れぬユーゴの流行唄はやりうたの二つ三つを聞かせてくれたり、それが終るとまた三人で食卓を囲んで、湯気の出るスープやチキンのソテーや、新鮮なアスパラガスやセロリーのサラダなぞ……。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
云ふもまた可笑をかつひに我輩問ひて此地の流行唄はやりうたに及びしに彼またくはしく答へて木曾と美濃と音調のたがひあることを論じ名古屋はまた異なりと例證に唄ひ分けて聞す其聲亮々りやう/\として岩走る水梢を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
愛宕あたごの山蔭に短い秋の日は次第にかげって、そこらの茶見世から茶見世の前を、破れ三味線をきながら、哀れな声を絞って流行唄はやりうたを歌い、物をうて歩くめしいたおんなの音調が悪くはらわたを断たしめる。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「およしなさい。町の流行唄はやりうたなんか。もっといい鞠唄まりうたがあるでしょ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『京の三条の橋の上ツていふ流行唄はやりうたの主人公だね。此処の神は?』
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
声高に話し合って、カラカラと日和下駄ひよりげたを引きずって行くのや、酒に酔って流行唄はやりうたをどなって行くのや、至極天下泰平なことだ。そして、障子一重の家の中には、一人の女が惨殺されて横わっている。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつも流行唄はやりうたを真っ先に覚えて来ては
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
生活に對する今日こんにちまでの經驗が何事によらずすぐと物の眞底を見透みすかして興味をいでしまふし、其れと同時に、路傍に聞く新しい流行唄はやりうたなども
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
今から振返ってみると、歌がこのごろのように職業者の手に移ってきた路筋みちすじもほぼたどることができる。始めには頻々たる流行唄はやりうたの移植があった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
言葉のやさしいのと流行唄はやりうたの調子に近いのとで、手ぬぐいに髪を包んでそこいらの橋のたもとに遊んでいるような町の子守こもり娘の口にまで上っていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あおいの花はまもなくしぼもう、しかしその代わりに菊の花が、全盛をきわめて咲くであろう。夏の次には秋が来るものだ」——こういう意味の流行唄はやりうたなのであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「若い時ア二度無い」といふ流行唄はやりうたの文句まで引いて、熱心にお定の決心を促すのであつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのころの流行唄はやりうたに「死んでしまおか、お台場へ行こか。死ぬにゃしだよ、土かつぎ」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(すきなおかた相乘人力車あひのりじんりきしやくらいとこいてくれ、車夫くるまやさん十錢じつせんはずむ、かはすかほに、そのが、おつだね)——流行唄はやりうたさへあつた。おつだねぶし名題なだいをあげたほどである。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、上方の流行唄はやりうたを聞いたので、呼上げた。お俊はっかで見たような女だと思って、聞いてみると、お新であった。お新は三人が来馬を探していると聞くと共に、金入を出した。そして
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お松、お村の二人の美女が暫らく三味線と笛の合奏を續け乍ら、流行唄——少しも讃州らしい匂のない、江戸の流行唄はやりうた——を二つ三つやると、やがて、達辯な口上の聲につれて立ち上がりました。
その癖、ちょいとした事には、器用な性質たちで、流行唄はやりうたと云うようなものは、一度聞くと、すぐに節を覚えてしまう。そうして、修学旅行で宿屋へでも泊る晩なぞには、それを得意になって披露ひろうする。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
従つて寄席よせの客の大半は労働者で帽や白襯衣シユミイズを着ない連中れんぢゆうが多く、大向おほむかうから舞台の歌に合せて口笛を吹いたり足踏あしぶみをしたりする仲間もあつた。演じた物には道化たをどり流行唄はやりうたや曲芸などが多かつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
蒹葭は秋より冬に至って白葦黄茅はくいこうぼうの景を作る時殊に文雅の人を喜ばす。流行唄はやりうたにも「枯野ゆかしき隅田堤」というのがある。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところがこのごろいつとはなしにここへ集まって来る男女の間へ、一つの流行唄はやりうた流行はやりだした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
直樹の父親が来て、「木曾のナカノリサン」などを歌い出せば、達雄は又、すずしい、恍惚ほれぼれとするような声で、時の流行唄はやりうたを聞かせたものだった。直樹の父親もよくこまかい日記をつけた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
投銭にはちゃちゃらかちゃんなんて古風な流行唄はやりうたをやってますが、い声で、ぞッとするような明烏あけがらすをやりますんでね。わっしあ例のへべれけで、素見ひやかし数の子か何か、鼻唄で、銭のねえふてくされ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ロンドンの流行唄はやりうた、雷鳴の曲もありき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
子供の時から朝夕に母が渡世とせい三味線しゃみせんを聴くのが大好きで、習わずして自然にいとの調子を覚え、町を通る流行唄はやりうたなぞは一度聴けばぐに記憶する位であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
村田というのがその姓で、聞き香、茶の湯、鞠、揷花、風流の道に詳しい上に、当代無類の美男であったので「色の村田の中将や」と業平なりひら中将に例えられて流行唄はやりうたにさえ唄われた男。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は聞くともなしにその無心な流行唄はやりうたを聞きながら、宿役人らしいはかまをつけていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
子供の時から朝夕あさゆふに母が渡世とせい三味線しやみせんくのが大好きで、習はずして自然にいと調子てうしを覚え、町をとほ流行唄はやりうたなぞは一度けばぐに記憶きおくするくらゐであつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)