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くつぬぎ
ふりがな文庫
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沓脱
(
くつぬぎ
)” の例文
馬耳は
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ降り、戸に
閂
(
かんぬき
)
をおろした。尨大な夜の深さが、馬耳の虚しい寂寥を漂白するために、ひえびえと身体を通過していつた。
麓
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
道也先生は親指の
凹
(
くぼ
)
んで、
前緒
(
まえお
)
のゆるんだ下駄を立派な
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ残して、ひょろ長い
糸瓜
(
へちま
)
のようなからだを下女の後ろから運んで行く。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
まだ薄暗い方丈の、朝露に濡れた
沓脱
(
くつぬぎ
)
石まで
転
(
こ
)
けつまろびつ走って来た一人の老婆が、
疎
(
まば
)
らな歯をパクパクと噛み合わせて
喘
(
あえ
)
いだ。
狂歌師赤猪口兵衛:博多名物非人探偵
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
別当は客の長靴を
沓脱
(
くつぬぎ
)
の石の上に直して置いて、主人の長靴を持つて自分の部屋に帰つたが、又すぐに出て来て、門の
扉
(
とびら
)
を締めた。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
二人は
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上に立って、
犇
(
ひし
)
と抱き合って居りました。女の涙は男の襟を濡らし、男の温い息が、女の顔と前髪を撫でて居ります。
奇談クラブ〔戦後版〕:10 暴君の死
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
「面倒臭いや、そこへ入り込むと、
畏
(
かしこま
)
らなけりゃならないから、沢山だい。」といって、片足を
沓脱
(
くつぬぎ
)
に踏伸ばして、片膝を立てて
頤
(
おとがい
)
を支えた。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
表の戸には錠が
卸
(
おろ
)
してなかったので、引くとすぐにさらりと明いた。半七は
沓脱
(
くつぬぎ
)
へはいって、揚げ板になっている踏み段を手拭で拭きながら腰をかけた。
半七捕物帳:06 半鐘の怪
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
私がはいった後の戸締りをするために、
沓脱
(
くつぬぎ
)
に降り立った嫂が、そこでだれかと話をしているらしいのであった。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
多い髪の毛を忙がしい折からとて結び髪にして、少し長めな八丈の前だれ、お
召
(
めし
)
の台なしな半天を着て、急ぎ足に
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ下りて
格子戸
(
かうしど
)
に添ひし雨戸を明くれば
わかれ道
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
最初にそこへ来合わせた人は、もしや敷居の溝から
沓脱
(
くつぬぎ
)
に血がこぼれていはしないかと怪しむでしょう。
大菩薩峠:32 弁信の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
すると十兵衛は
沓脱
(
くつぬぎ
)
から縁側へあがり、刀を右手に持って座敷へはいって来た。
大股
(
おおまた
)
に近よって来る足つきで、彼が察したよりもひどく怒っていることを、半三郎は認めた。
あだこ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
門
(
かど
)
には
幕
(
まく
)
をうち、よきほどの処をしぼりあげてこゝに
沓脱
(
くつぬぎ
)
の
壇
(
だん
)
をおき、
玄関式台
(
げんくわんしきだい
)
に
准
(
なぞら
)
ふ。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
宏子は、古風な
沓脱
(
くつぬぎ
)
石の上に立って、茶っぽい靴の踵のところを右と左とすり合わすようにして揃えてぬぎ、外套にベレーもかぶったまま、ドンドンかまわず薄暗い奥の方へ行った。
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
格子戸作
(
かうしどづくり
)
になつて
居
(
ゐ
)
ましてズーツと
洗出
(
あらひだし
)
の
敲
(
たゝき
)
、
山
(
やま
)
づらの一
間
(
けん
)
余
(
よ
)
もあらうといふ
沓脱
(
くつぬぎ
)
が
据
(
す
)
ゑてあり、
正面
(
しやうめん
)
の
処
(
ところ
)
は
銀錆
(
ぎんさび
)
の
襖
(
ふすま
)
にチヨイと
永湖先生
(
えいこせんせい
)
と
光峨先生
(
くわうがせんせい
)
の
合作
(
がつさく
)
の
薄墨附立書
(
うすずみつけたてがき
)
と
云
(
い
)
ふので
世辞屋
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
「フーム、Fの字見たいな建方だな、この離れが一番上の横線に該当するね、中庭を隔てて御主人の居間と向合うて二階が弟さんの御部屋か……」こう呟いて
沓脱
(
くつぬぎ
)
の駒下駄を履くと
誘拐者
(新字新仮名)
/
山下利三郎
(著)
自分の家の玄關の
沓脱
(
くつぬぎ
)
のある『タタキ』を、毎朝、自分で、
雜巾
(
ざふきん
)
がけをする、そのかはり、そこからはいかなる人でも
出
(
で
)
はひりをさせない、といふやうな事を、私は、誰からとなく、聞いた。
「鱧の皮 他五篇」解説
(旧字旧仮名)
/
宇野浩二
(著)
それを押して、おそるおそる奥座敷の縁下、
沓脱
(
くつぬぎ
)
のまえにうずくまると
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
と腹のなかで思ひながら、
勢
(
せい
)
のない顔をして玄関まで見送りに往つた。
沓脱
(
くつぬぎ
)
に立つた爺さんは一寸
頤
(
おとがひ
)
に手をやつたと思ふと、その儘髯を外して片手に持つた。そして素知らぬ顔をして帰つて往つた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
白い
脛
(
はぎ
)
もあらわに、
褄
(
つま
)
を蹴りみだして、
沓脱
(
くつぬぎ
)
に跳ね下りると、庭下駄を、素あしに突っかけて、短銃を片手に、雪之丞の前に歩み寄るお初——闇太郎は、
俄
(
にわ
)
かに咲き出した毒の花のようなすがたを
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
然
(
しかる
)
に清十郎が
沓脱
(
くつぬぎ
)
に腰をかけて奥の
方
(
かた
)
の嫁入支度を見て
「歌念仏」を読みて
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
沓脱
(
くつぬぎ
)
から
草履
(
ぞうり
)
をはいて歩み出た。
剣の四君子:02 柳生石舟斎
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
平次は朝飯を濟ましたばかり、今日の日程を考へて、お茶を呑んでゐるところへ、八五郎は隣りの赤犬と一緒に
沓脱
(
くつぬぎ
)
に
顎
(
あご
)
を並べるのです。
銭形平次捕物控:319 真珠太夫
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
女は
厭
(
いや
)
な顔もせずに立ち上った。私はまた「夜が
更
(
ふ
)
けたから送って行って上げましょう」と云って、女と共に
沓脱
(
くつぬぎ
)
に下りた。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
二階の裏窓から漏れる電燈に、片頬を片袖ぐるみ笠を黒髪に
翳
(
かざ
)
して、隠すようにしたが、蓮葉に
沓脱
(
くつぬぎ
)
をひらりと、縁へ。
白花の朝顔
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
裏へまわって格子をあけると、狭い
沓脱
(
くつぬぎ
)
は草履や下駄で埋められていた。お竹は泣き顔をしてすぐ出て来た。
半七捕物帳:02 石灯籠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
それ故丁度
沓脱
(
くつぬぎ
)
のあたりであらうか、殆んど枕の横手あたりに聴きとれるほど程近い階下にあたつて、与里の一家は癇高い叫喚を張り上げ乍ら口論に耽つてゐた。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
急ぎ足に
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ下りて格子戸に添ひし雨戸を明くれば、お氣の毒さまと言ひながらずつと這入るは
一寸法師
(
いつすんぼし
)
と仇名のある町内の暴れ者、傘屋の吉とて持て餘しの小僧なり
わかれ道
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
といったけれども、何の返答もなく、刀を提げてそろそろと縁を下りて、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上に並べてあった草履をつっかけると、声をしるべに
徐々
(
しずしず
)
と弁信の方へ近寄って参ります。
大菩薩峠:21 無明の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
伊助は
沓脱
(
くつぬぎ
)
に腰をかけ、いかにも静かに茶を味わいながら、真沙の問に少しずつ答えた。
柘榴
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その鼻の先の
沓脱
(
くつぬぎ
)
石へ、
鍬
(
くわ
)
を荷いだ若党の金作がポカンとした顔付で手を突いた。
斬られたさに
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
右の草履が
碾磑
(
ひきうす
)
の飛石を一つ踏んで、左の草履が麻の葉のような
皴
(
しゅん
)
のある鞍馬の
沓脱
(
くつぬぎ
)
に上がる。お雪さんの体がしなやかに
一捩
(
ひとねじ
)
り捩られて、長い書生羽織に包まれた腰が蹂口に卸された。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
それも考えられない事はありませんが、
匕首
(
あいくち
)
を土の中へ打ち込んだ石を、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の側に転がしておいたのはどうしたわけでしょう。
銭形平次捕物控:061 雪の足跡
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
三十分ほど
経
(
た
)
って、お時の
沓脱
(
くつぬぎ
)
に
揃
(
そろ
)
えたよそゆきの
下駄
(
げた
)
を
穿
(
は
)
いてまた表へ出る時、お延は玄関まで送って来た彼女を
顧
(
かえり
)
みた。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
門
(
かど
)
の戸引開けて、
衝
(
つ
)
と入りざま、
沓脱
(
くつぬぎ
)
に立ちて我が名を
慌
(
あわただ
)
しく呼びたるは、
隣家
(
となり
)
なる広岡の琴弾くかの美しき君なり。
照葉狂言
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
急
(
いそ
)
ぎ
足
(
あし
)
に
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ
下
(
お
)
りて
格子戸
(
かうしど
)
に
添
(
そ
)
ひし
雨戸
(
あまど
)
を
明
(
あ
)
くれば、お
氣
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さまと
言
(
い
)
ひながらずつと
這入
(
はい
)
るは
一寸法師
(
いつすんぼし
)
と
仇名
(
あだな
)
のある
町内
(
ちやうない
)
の
暴
(
あば
)
れ
者
(
もの
)
、
傘屋
(
かさや
)
の
吉
(
きち
)
とて
持
(
も
)
て
餘
(
あま
)
しの
小僧
(
こぞう
)
なり
わかれ道
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
半七に
眼配
(
めくば
)
せをされて、女房のお仙が出てみると、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の土間に一通の封じ文が落ちていた。
半七捕物帳:56 河豚太鼓
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「今夜も呑む約束なんだ」さう言ひすてて自分はさつさと
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ降りて行つた。
小さな部屋
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
対問所の
沓脱
(
くつぬぎ
)
までおりた平四郎は、そこにいる同心の一人に、耳うちをした。
山彦乙女
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
私どもが御機嫌伺いに参りましても
根府
(
ねぶ
)
川の
飛石
(
とびいし
)
伝い、三尺の
沓脱
(
くつぬぎ
)
は徳山
花崗
(
みかげ
)
の
縮緬
(
ちりめん
)
タタキ、黒縁に
綾骨
(
あやぼね
)
の
障子
(
しょうじ
)
。音もなく開きますれば青々とした三畳敷。五分
縁
(
べり
)
の
南京更紗
(
なんきんさらさ
)
。引ずり
小手
(
ごて
)
の砂壁。
名娼満月
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
沓脱
(
くつぬぎ
)
のところから石灯籠の側まで引摺って行き、その上へ一と思いに石灯籠を転がしてしまった——二階の人達は、その音を聞いたのだよ
銭形平次捕物控:245 春宵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
下へ
降
(
お
)
りて玄関へ出た時、僕は母を送って来るべきはずの吾一の代りに、千代子が彼女の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
沓脱
(
くつぬぎ
)
から
上
(
あが
)
ったのを見て非常に驚ろいた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
向う歯の金歯が光って、
印半纏
(
しるしばんてん
)
の番頭が、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の
傍
(
そば
)
にたって、長靴を磨いているのが見える。いや、磨いているのではない。それに、客のではない。
貝の穴に河童の居る事
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
妻や女中に注意をあたえながら、ありあわせた下駄を突っかけて、
沓脱
(
くつぬぎ
)
から硝子戸の外へ飛び出すと、
碧桐
(
あおぎり
)
の枯葉がばさばさと落ちて来た。門の外へ出ると、妻もつづいて出て来た。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「今夜も呑む約束なんだ」そう言いすてて自分はさっさと
沓脱
(
くつぬぎ
)
へ降りて行った。
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
庇
(
ひさし
)
の下はほんの少しばかり埋め残してありますが、物馴れたお市の眼には、そこに脱ぎ捨ててある、
沓脱
(
くつぬぎ
)
の下駄までハッキリ読めるのです。
銭形平次捕物控:021 雪の精
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
それを受取った彼女はまた自分で玄関の
格子戸
(
こうしど
)
を開けて夫を先へ入れた。それから自分も夫の
後
(
あと
)
に
跟
(
つ
)
いて
沓脱
(
くつぬぎ
)
から
上
(
あが
)
った。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ぐるりとその両側、雨戸を開けて、
沓脱
(
くつぬぎ
)
のまわり、縁の下を
覗
(
のぞ
)
いて、念のため引返して、また
便所
(
はばかり
)
の中まで探したが、光るものは
火屋
(
ほや
)
の
欠
(
かけら
)
も落ちてはいません。
草迷宮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
酒屋の路地へはいって、格子の前に立つと、入口の障子は半ば開かれて、線香の匂いが狭い
沓脱
(
くつぬぎ
)
にまで溢れていた。ここはもう薬の匂いではなかったので、林之助は急に暗い心持ちになった。
両国の秋
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
出てみると、さつきの本が
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上へ置いてあるのだ。
狼園
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
源吉は狭い庭の
沓脱
(
くつぬぎ
)
の上を指しました。一抱えほどの自然石の上は、春の陽に乾いて血潮がベットリ、もう玉虫色に光っているのも不気味です。
銭形平次捕物控:076 竹光の殺人
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
沓
漢検準1級
部首:⽔
8画
脱
常用漢字
中学
部首:⾁
11画
“沓脱”で始まる語句
沓脱石
沓脱台
沓脱越