殺生せっしょう)” の例文
この僧も、眼があいていた頃は、一火流の砲術などを習って、さかんに殺生せっしょうをやったというような話から、いつか懇意こんいになっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
須利耶さまがお従弟さまにっしゃるには、お前もさようななぐさみの殺生せっしょうを、もういい加減かげんやめたらどうだと、うでございました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
浜育ちとはいいながら、無益むやく殺生せっしょうはせぬものじゃ。この蟹を海へ放してやれ。その代りにわしがよいものをやりましょうぞ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いままでやらしておいて、帰れはねえでしょう。旦那、そりゃあ殺生せっしょうですよ。なるほど愚痴は言いましたろう、が、いわばそいつはあいの手。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「それだけの話じゃ間違いもなく自害じがいじゃないか。お前一人で御検死までらちを明けるがい。この真夜中に俺を引っぱり出すのは殺生せっしょうだぜ」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
ト思ひしが。有繋さすが義を知る獣なれば、眠込ねごみを噬まんは快からず。かつは誤りて他の狐ならんには、無益の殺生せっしょうなりと思ひ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
すると渡月橋上下六町の間、殺生せっしょう禁断になっている川中では、平常から集りんでいた魚類が寄って来て生飯をべます。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お前さんは、どうもやるつもりらしいが、殺生せっしょうをしてはいかん、魚でも人間でも、生命いのちの欲しいことは一つじゃからな」
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「仏門で禁じている殺生せっしょうをしたり、鮮魚を喰ったりするあなた方世俗の人に、この法師が大事に養っている魚は、けっしてさしあげられません」
老人が樹にじて戯るれば、子供は杖をついて人の世話をやき、孔夫子が門人を率いて賊をなせば、釈迦如来は鉄砲を携えて殺生せっしょうに行くならん。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まま、おかげでおれも、いやな殺生せっしょうを一つせずに済んだというもの。また彼奴きやつとても命拾い、こりゃいっそ両得かもしれぬ
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おかしら、おじじはちとむずかしいようじゃ。苦しめるだけ、殺生せっしょうじゃて。わしがとどめを刺してやろうかと思うがな。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「駒井さん、僕はこういう岩畳がんじょう身体からだをして美人を描いているのに、あんたは虫も殺さないような顔をしていながら、殺生せっしょうな武器を作るのですね」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そねエな殺生せっしょうしたあて、あにが商売になるもんかよ。その体格からだ日傭ひよう取りでもして見ろよ、五十両は大丈夫だあよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
それを世の中の坊さんたちが殺生せっしょうは残酷だとか無慈悲だとか言つて、一概に悪くいふのはどういふものであらうか。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ぼく新年しんねん早々そうそう殺生せっしょうするのはいやだといったら、ゆうちゃんもゆくのをよして、二人ふたりで、ボールをげてあそんだ。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仏教の精神によってこの時に規定せられた殺生せっしょうの制限は、ついに長い後代まで菜食主義の伝統となって残った。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「お柳さんの方は大丈夫、私がはなしをつけてあげます。その代り私がうらまれます。少し殺生せっしょうだが、そのくらいのことは奥さんのために、私がきっとしますよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
殺生せっしょうだが一つからかってやろう)というのは、そのお侍さんの誰であるかが、私にわかっていたからで。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殺生せっしょうもなさらず、肉も食わず、妻も持たず、まるで生きた仏様みたようでございますよ。心の内で人をのろう事もなければ、おんなを見て色情も起こりませぬのでな。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
一体釣やりょうをする連中はみんな不人情な人間ばかりだ。不人情でなくって、殺生せっしょうをして喜ぶ訳がない。魚だって、鳥だって殺されるより生きてる方が楽にまってる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吉兵衛を打ち殺したく思うももっともながら、もはや返らぬ事に殺生せっしょうするは、かえって菊之助が菩提ぼだいのため悪し、吉兵衛もあさましや我等われらへの奉公と思いてしたるべけれども
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
同氏は禅学熱心家で殊にそういう殺生せっしょうな商売をしなくても充分生活の出来る人であるに拘わらず、依然いぜんとして鶏商かしわやをやって居りますから東京からしばしば書面を送っていさ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
夜も大概お茶屋で泊つて、藝者や仲居と雑魚寝ざこねをする。その雑魚寝と云ふのが殺生せっしょうなもので、好きな女でも交つてゐると、終夜安眠が出来ないで明くる日まで頭がぴん/\する。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どうしても、俺に無駄な殺生せっしょうをさせる気だな。それ程命が不用なのか。……だが、明智君、もう一度考え直してはくれまいか。俺は使命の為には、君の命をとる位何でもないのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おばはん、せせ殺生せっしょうやぜ」と顔をしかめて突っ立っている柳吉を引きずり込んだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
いうまでもなく、もしそれなる永守熊仲が、僧形の身をも顧みず殺生せっしょう戒を犯したとしたら、その場に力をかして少年僧黙山のために、兄のかたきを報じてやろうと思いついたからです。
これが罪になって地獄の鉄札てっさつにでもかかれはせぬかと、今朝けさも仏様に朝茶あげる時懺悔ざんげしましたから、爺が勧めて爺がせというは黐竿もちざお握らせて殺生せっしょうを禁ずるような者で真に云憎いいにくき意見なれど
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
地獄の沿道には三途さんずの川、つるぎの山、死出しでの山、おいさか賽河原さいのかわらなどがあり、地獄には叫喚きょうかん地獄、難産地獄、無間むげん地獄、妄語地獄、殺生せっしょう地獄、八万はちまん地獄、お糸地獄、清七地獄等々があって
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
うれしがらせは殺生せっしょうでげす。——おっとねえさん。おせんちゃんはどうしやした」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「やれやれ、醤どののためとはいえ、殺生せっしょうなことをしてしまったわい」
血腥ちなまぐさ殺生せっしょうを唯一の趣味としていた因縁も、その血腥い殺生行為のアトで、異常な性的の昂奮を見せるという、変態的な性格も、その故郷の血族の絶滅している理由も……そうして現在の品夫が
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死骸をそのままにしておけばうじがわく。然るに蛆が食うだけ食ってしまっておしまいにその食物が尽きるとそれらの蛆がみんな死んでしまわなければならない。これは甚だ殺生せっしょうであるからいけない。
マルコポロから (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「残念どころではない、それは殺生せっしょうというものだ」と平五は呟いた
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
殺生せっしょうするにゃ当らねえでがすから、藪畳やぶだたみへもぐらして退けました。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四時下山し、殺生せっしょう小屋を過ぎ、二十分で坊主小屋、屋上には、開山の播隆上人の碑、それを見越して上は、先きに吾々われわれの踏まえていた大槍、今は頭上をうんと押さえつけて来る、恐ろしいほど荘厳だ。
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
「そうじゃ、わしは、生きた人間を殺さぬ。そんな殺生せっしょうはせぬ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
同じ殺生せっしょうをするにしても、釣りなら一ぴき一ぴきですが、網を
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「衰えきった老いぼれ、大したことはあるまい。じゃ一刻も早く殺してやるほうが、せめて殺生せっしょうの罪も軽かろう。おい、天堂」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も驚くことはない、昔から例のあることじゃ、この石和川で禁断の殺生せっしょうしたために、生きながら沈めにかけられた鵜飼うかいの話がうたいの中にもあるわい。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然し殺生せっしょう戒は犯し度くない。たとえわたしが人から殺される事であっても、理由なく殺されることはわたし自身が殺生戒を犯したと同じ事になるのです。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
浦島太郎うらしまたろうは、かめをたすけたために龍宮りゅうぐうへいって、おとひめさまにであったのだから、ぼくもこれから殺生せっしょうをしないことにしようと、次郎じろうさんはおもいました。
きれいなきれいな町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お前さんも又、殺生せっしょうなことまでして何故なぜ人間になりたいのだ、そんなことは、ふっつり思い切ったらどうだ」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、あの婆は狂言だと思ったので、明くる日鍵惣が行った時に、この上はもう殺生せっしょうな事をしても、君たち二人の仲を裂くとか、大いに息まいていたらしいよ。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
官命とはいいながら、何分にも殺生せっしょうの仕事であるから、寺院を詰所に宛てるのを遠慮するのが例であった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
松若 松若のおとうさんは渡り者のくせに、百姓をいじめたり、殺生せっしょうをしたりする悪いやつだって。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
チベット人は殺生せっしょうすることが非常にすきですから一つ殺生を戒めてやろうという考えで、どうもこの子は寿命がない、誠に気の毒な事だと言っていろいろその因縁いんねんを話しました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ちくしょう! むだな殺生せっしょうをやっていやがらあ。ろう疲れで足腰もまだ不自由なはずだから、そう遠くへは行くめえよ。さっそくお奉行さまに遠出のお届けをしておいて、すぐにも中仙道を
綱吉に殺生せっしょうの禁を勧めて、三十年間天下を苦しめた怪僧隆光は、祟りを恐れて故郷の長谷はせへ逃げ出し、護持院は名題の札屋敷を取りこわし、銅瓦を売り払って維持の料に当てるという有様
さは云へ折角の御芳志ならば、今すこしばかり彼方かなたの筑前領まで御見送り賜はりてむや。さすれば御役目とどこり無く相済みて、無益むやく殺生せっしょうも御座なかる可く、御藩の恥辱とも相成るまじ。此儀如何や。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)