歳暮せいぼ)” の例文
土地とちにて、いなだは生魚なまうをにあらず、ぶりひらきたるものなり。夏中なつぢういゝ下物さかなぼん贈答ぞうたふもちふること東京とうきやうけるお歳暮せいぼさけごとし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
というのが、去年の暮れに、お妾は自分の親もとへ歳暮せいぼの礼に行った。その時にかの女中を供に連れて出て、こっそりと意見をした。
私はべつにそんなつもりでもなかったのであるが、なかには「新聞やさんから歳暮せいぼをもらったのは初めてだ。」と云う人もあった。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
先日せんじつ歳暮せいぼまゐつたらまつうめ地紋ぢもんのある蘆屋あしやかま竹自在たけじざいつて、交趾かうちかめ香合かうがふ仁清にんせい宝尽たからづくしの水指みづさしといふので一ぷく頂戴ちやうだいしました。
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついては、としも押しつまりましたし、久々で御健勝の体をも仰ぎ申したく、近く歳暮せいぼの儀をかねて、出府しゅっぷいたすつもりです。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音、目まぐるしい仁丹じんたんの広告電燈、クリスマスを祝う杉の葉のかざり蜘蛛手くもでに張った万国国旗、飾窓かざりまどの中のサンタ・クロス
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すすけた壁のところには、歳暮せいぼの景物に町の商家で出す暦附の板絵が去年のやその前の年のまで、子供の眼を悦ばせるためにはり附けて置いてある。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのくらいはまだよいとして弟子共が持って来る中元や歳暮せいぼの付け届け等にまで干渉かんしょうし少しでも多いことを希望して暗々裡あんあんりにその意をふうすること執拗しつよう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歳暮せいぼにはなにほどくださりますかと、あさより寢込ねこみてちゝかへりをちしは此金これなり、は三がい首械くびかせといへど、まこと放蕩のらおやばかり不幸ふかうなるは
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
母親のもとへとお歳暮せいぼのしるしにお弟子でしが持つて来る砂糖袋さたうぶくろ鰹節かつぶしなぞがそろ/\とこならび出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
生前お関取りとまで綽名あだなされていただけあって、大兵肥満の撰十は、こうして歳暮せいぼの鮭のように釣り下がったところもなんとなく威厳があって、今にも聞き覚えのあるみ声で
「こんな時に婆さんの手をぬかれたんでは、やり切れませんわ。どうせ正木へは、二三日中に、歳暮せいぼのものを届けることにしていますから、その折、一緒でもよかありませんか。」
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私はひかるのためにあのことも書いて置きませう。これは一昨年をとヽし歳暮せいぼのことでした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
今でも重吉の手塩てしおにかけられた弟子たちは、毎年鏡餅をもって歳暮せいぼ挨拶あいさつに来る。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
叔父をぢんだ。叔母をば安之助やすのすけはまだきてゐるが、きてゐるあひだけた交際つきあひ出來できないほど、もう冷淡れいたんかさねて仕舞しまつた。今年ことしはまだ歳暮せいぼにもかなかつた。むかふからもなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
知り合いへ年末の歳暮せいぼの品を届けることを言い付けられました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
逗子ずしの父母から歳暮せいぼ相模さがみの海のたい薄塩うすじおにして送って来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
国へのお歳暮せいぼをしましょう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
仰付おほせつけられたり尤も當年十二月もはや月末つきすゑこと歳暮せいぼかた/″\來春の御用はじめまで嘉川家の一件は御さし置との事にて何方も歳暮せいぼ又は新年のことぶ賑々敷にぎ/\しく御用も多ければ其うちに正月も立て早二月となりしにぞ近日きんじつ嘉川家の一條も吟味に取りかゝらんとの事どもなり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紳士はポケツトをさぐつて、原稿用紙と万年筆まんねんひつとを出した。外では歳暮せいぼ大売出しの楽隊の音がする。隣のテエブルでは誰かがケレンスキイを論じ出した。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
歳暮せいぼ、新春の御祝儀をかねて、多忙の陣中から上府し、右大臣家にえっし、一両日は滞在はすれど、すぐにもふたたび中国の御陣へ帰らねばならぬ身ゆえ——
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今歳ことし今日けふ十二ぐわつの十五にち世間せけんおしつまりてひと往來ゆきかひ大路おほぢにいそがはしく、お出人でいり町人てうにん歳暮せいぼ持參ぢさんするものお勝手かつて賑々にぎ/\しく、いそぎたるいゑにはもちつきのおとさへきこゆるに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
押掛おしかけのお座敷に往っても御祝儀は下さいませんから誠に困りますよ、お歳暮せいぼの時なんぞは御祝儀処か、おやお出でかえ誠に取込んで居るからと云うんで、無しさ、幇間たいこもちなんどは暮はいけませんなア
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それらの人々からの歳暮せいぼの辞や礼物を、こんどは受ける身に立つ秀吉であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歳暮せいぼをもらいに来たのだろう」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)