)” の例文
金色の髪は、耳朶みみたぶを掠めて頬を流れ、丸い玉のような肩に崩れ落ちた。それを左の手でそっとき、また右の手でゆっくりと梳いた。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お婆さんはまずブラシで、メリーの頭から、頸、肩、背、腰、あしという順に丹念にマッサージをして、それから金櫛かなぐしで丁寧にいた。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
そうして、櫛でくと、はじめは少し、二度目は一つかみほどの、もつれ毛がからみ落ちて、そうした跡は、光りもせぬ不気味な白地。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「すこし髪がくずれましたのね、私が、いてあげましょうか」と、鏡台から取出した櫛をつまんで、甘えるように、背なかへ寄る。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中で最も風変りな二つの流行は、襟足を剃ることときまき毛をブラ下げることである。これは流石さすがの福岡でもまだ行われていない。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
さんざん考えた揚句、湯へ行くので持っていた黄楊つげぐしに、自分の毛を五六本抜いて巻きつけ、万兵衛のたもとにそっと入れた。
のちの日のことをはかなんで病床にいる姿には、またもない品よさが備わり、白の衣服を着て、頭はくこともしないでいるのであるが
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ローウッドの生徒はどうしてあんなに靜かで質素しつそなのでせう。髮を耳の後へき上げて、長い前掛をして、麻布あさぬののポケットのついた着物を
私の頭の雲脂ふけを落したり、いたりしてくれた上に、「少しお頭を拝借させて下さい」と、水油を少し附けて、丸髷まるまげに結ってくれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
柔かい髪をぴったりと横幅のひろい額の上にきつけて、黒ぶちのロイド眼鏡をかけているのだが、その髪と眼鏡と上唇のうすい表情とが
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
静かに少しずつ恢復へ向っているようなきざしも見えた。柔かい陽ざしが竹の若葉にゆらぐ真昼、彼女は縁側に坐って女中に髪をかせていた。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
九時過にそつと寄つて戸から覗くと桃色の寢衣を着た二十四五の婦人が腰を掛けて金髮をいて居た。夜明の光で見た通りの美しい人である。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私が朝日の昇るよりも早く、ウラスマルの家を驚かした時、彼れは既に髪をき終へ、石油厨炉で一個の鶏卵をゆでてゐた。
アリア人の孤独 (新字旧仮名) / 松永延造(著)
化粧や着付けは、向うへいってからする、ということで、髪だけ結いあげたが、潮水につかったのだから、くだけでも相当な手間であった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
毛をかるる際しばしばその脚の端蹄のうしろちょうど人の腕にあたる処へその絆に付けた木丸きだまはさみ、後向きに強くげて馬卒にてたものあり
余所よその障子を張ってやりの筆法で芸妓げいしゃ用達ようたしから傭婆やといばば手助てだすけまでする上に、ひまな時は長火鉢の前で飼猫の毛をいている。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「オ父ちゃん、じっとしとおいや」と櫛で頭の毛をかれると先生は「ああこそばいこそばい」と笑っていられるようなことも眼に残っています。
昔のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
その以前から、イースト・エンド全体にわたって細緻さいちな非常線が張られ、くしの歯をくような大捜査が行なわれていた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
若いころ香水の朝風呂へ這入って金のくしで奴隷に髪をかせた史上の美女が、いましわくちゃの渋紙に白髪しらがを突っかぶって僕のまえによろめいてる。
私は逢わない先から、フロールの笑顔が眼先にちらついて、母が襟飾ネクタイを結んだり頭髪かみいてくれるのさえも待ち切れずに、戸外へ飛び出して行く。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
頭の毛のなかにも蚤が居るやうな気がした。それをかうとすると、ひやりとしとつた生えるがままの毛髪は、堅くくしからんで、櫛は折れてしまつた。
ひたいからびんの辺へかけて、の力がはいるたびに、お民は目を細くして、これから長くしゅうとめとして仕えなければならない人のするままに任せていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「東京じゃもう、大抵毛捲きなんですがね。どうしましょうか。」髪結は油でごちごちした田舎の人の髪を、気味わるそうにほどいてきはじめた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
喜望峰のあちらからくる巻雲サアラスはりのきの枝にかれ、丸いかげを落としながら飛行船の銀の腹が、その上を通りすぎる。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
髪を綺麗にいて分けたボーイは野郎又来やがったなといった調子で、彼の方を上から下へとじろじろ眺めてから
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
そんなような心持でお雪ちゃんが神妙に髪結の座に直っていると、後ろへ廻ってお銀様は、のするように、くしを入れて、癖直しにかかりながら
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
店内には、強いびんつけ油のにおいがただよい、ときどき、元結もとゆいをしめる、キュ、キュ、という音、髪をく櫛の、シュウ、シュウという音が聞える。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
毎朝夫を送り出してから髪にくしを入れる細君の手には、長い髪の毛が何本となく残った。彼女はくたびに櫛の歯にからまるその抜毛を残り惜気おしげに眺めた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分の髪をくのは夜中の三時半ごろで、それを終ると、かまどに焚きつけ、朝食の仕度、見ていると眠る暇は三時間か多くて四時間である。驚くべき労働だ。
彼女は今まで小一時間も騒いでいたのは、昼飯前ちゅうはんまえに顔を洗ったり、髪をいたりするのがいやだったからだということも、けろりと忘れているようでした。
水夫が覗きこんだとき、その巨大な動物はレスパネエ夫人の髪の毛(ちょうどいていたので解いてあった)
「おい、目ッ吉、ここに頭髪が一本きこまれているが、これア古い時代のもんじゃねえ、昨日今日のもの」
くびすじが女のように白くたわわになり、き手の揺れをつたえるごとに、弥吉の手ごたえを重くした。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
少年の幽霊にも、自分の首を取ってつくえの上に置いているのがある。ひざの上に置いた自分の首の髪をいている幽霊は、お岩の髪梳きよりも一層ものすごいであろう。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
そして洋服箪笥だんすの蔭いて、帯ほどいて、髪ばらばらにして、きれいにいて、はだかの上いそのシーツをちょうど観音さんのように頭からゆるやかにまといました。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
き油や鬢付びんつけの匂いだ。元結もっといを始終あつかっていることは、その指をみても知れる。善昌は三十二三だというのに、あの肉や肌の具合が、どうも四十以上の女らしい。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ジナイーダが、となりの部屋から姿を現わした。黒い服を着て、かみきだして、青い顔をしている。彼女は無言のまま、わたしの手をとると、自分の部屋へ連れて行った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
女は肩に垂れかかる長い黄いろい髪をきはじめたが、私のほうへは眼もくれずに、耳を傾けるような、注意するような、待つような態度で、ドアの方を見つめていると
たてがみくし、細い尻尾も編む。手で、また声で、機嫌をとる。眼を海綿で洗い、ひづめろうを引く。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
僕は子供の時に頭髪を結うてもらった、八歳の頃までは髪を結ったのであるが、時々他人から髪をいてもらうと実に痛くて堪らない。その痛さ加減は今でも忘れられない。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いてください。どうぞ私の髪を梳いてください。そうすれば、わたしをなおすことが出来るでしょう。わたしの頭を見てください。どんなに私は苦しいでしょう。わたしの髪を
お照が髪をいて抜毛を丸めて、無雑作に庭に投げ捨て、立ち上るところがありますけれど、あの一行半ばかりの描写で、お照さんの肉体も宿命も、自然に首肯出来ますので
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
渋い古大島のあわせに萎えた博多の伊達巻。髪はき上げて頭の頂天に形容のつき兼ねる恰好かっこうにまるめてある。後れ毛が垂れないうちに途中で蓬々ぼうぼうみ切れてかたまり合っている。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それはさておいてまず娘は何も知らずに今日は遊びに行けるというので大悦びで、頭の毛を洗い古いくしで頭の毛を非常によくいて居ると、時分を計らって媒介人なこうどが出て来ます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
開けたとたんに、ぼくは吃驚びっくりしました。内田さんがたった一人で、それもシュミイズ一枚で、横坐よこずわりになり、かみいていたのです。白粉おしろい香水こうすいにおいにむっとみちた部屋でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
縄を解き、懐中ふところよりくし取りいだして乱れ髪けと渡しながら冷えこおりたる肢体からだを痛ましく、思わず緊接しっかりいだき寄せて、さぞや柱に脊中がと片手にするを、女あきれて兎角とかくことばはなく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
石鹸せっけんをつけ、ぬぐいをかけ、ひげり髪をき、靴墨くつずみをつけ、てかてかさし、みがき上げ、刷毛はけをかけ、外部だけきれいにし、一点のほこりもつけず、小石のように光らし、用心深く
五時近くたあちやんは私の髪をいて呉れたりして帰つた。後はまた寂しかつた。
日記より (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
と、亭主、印を見ながら女房に云っていると、髪をきながら眺めていた瀬川が
傾城買虎之巻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
郡司は女に一枚の小袿こうちぎを与えて、髪などもいて、よく化粧してくるようにと言いつけた。女は何んのことか分からなかったが、命ぜられたとおりの事をして、再び郡司の前に出ていった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)