けん)” の例文
また宴席、酒たけなわなるときなどにも、上士がけんを打ち歌舞かぶするは極てまれなれども、下士はおのおの隠し芸なるものを奏してきょうたすくる者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「あなたは、わしの刀を足げにした。わしだって、せめてそのあなたの頭へ、一けん与えるぐらいな返報をせねば、虫がおさまらぬ」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男の人たちはけんの勝負に夢中になってるのもあり、女の人たちはうとうとしてるのもあり、ただ一滄だけがいつまでも杯を手にしていました。
立札:――近代伝説―― (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
さてまたかくれあそびを繰返すとて、けんしてさがすものを定めしに、われその任にあたりたり。おもておおえというままにしつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其処そこで、五六人のものが輪を造って、りゃんけんぽと口々に言って、石とはさみと紙とで、けんをして負けたものが鬼となった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ジャンけんで負けて氷を買いに行ったお延は、やがて戻って来た。お俊はコップだの、砂糖のつぼだのを運んだ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同じ顔ぶれがたいがい顔を揃へてゐて、麻雀の者、碁を打つ者、花牌はなをひく者、けんを打つ者、酒を飲む者。
外套と青空 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「つきませんよ、どつちもわびを入れる氣はないんだから。仲に入つた國府彌八郎さんも大困り、いづれその内に、ジヤンけんか何んかで恰好をつけるでせうが——」
「じゃジャンけんよ」と云い出したお延は、ほそい手を握って勢よく継子の前に出した。継子はすぐ応じた。宝石の光る指が二人の間にちらちらした。二人はそのたんびに笑った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その前の地面をつき固めて光るほどに磨いた上でまりをつく、あるものは向き合ってを打って唄う、ある時はまた羽根をつく、おはじきをする、けんをうつ、立業たちわざでは鬼ごっこをする
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幕の間から、お揃いの手拭を、吉原よしわらかぶりにしたり、米屋かぶりにしたりした人たちが「一本、二本」とけんをうっているのが見える。首をふりながら、苦しそうに何か唄っているのが見える。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだ金太きんたの野郎が酒が強いからあにいもう一杯いっぺいやんねえと云った、いゝなアけんでは負けねえが酒では負けるな、もう一杯いっぺい大きいので、もう一杯いっぺえという、悔しいやん畜生かなわねえ、滅法やった
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一了簡あり顔の政が木遣きやりを丸めたような声しながら、北に峨々ががたる青山せいざんをとおつなことを吐き出す勝手三昧ざんまい、やっちゃもっちゃの末はけんも下卑て、乳房ちちふくれた奴が臍の下に紙幕張るほどになれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さッき横井さんの言われたいわゆる方針を誤らぬようにして行くのが確に得難い才である、その才を養う。どうせ世の中というものはジャンけんの世の中で、生れてから死ぬまで、ジャン拳しておる。
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おい、何かやらかさうか。けんはどうぢや、拳は?」
先生と生徒 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
けんを打つ二人の男たやすげにすべてを拒む形するかな
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
くじで行こうか、けんで行こうか」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けんの勝負を争う者もあり、カルタを取寄せる者もあり、女に戯れる者もあり、口をあけてうっとりしてる者もありました。
画舫:――近代伝説―― (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかしさすがに、けんや酒戦も、やがて飽いて、勝負なしに今度は飲み始めたと思うと、膝つき合せて、なにか議論だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どもはさざめき喜びたりき。さてまたかくれあそびを繰返すとて、けんしてさがすものを定めしに、われその任にあたりたり。おもておおへといふままにしつ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「つきませんよ、どっちも詫を入れる気は無いんだから、仲に入った国府弥八郎さんも大困り、いずれその内に、ジャンけんか何んかで格好をつけるでしょうが——」
御出おいでです。うも相變あひかはらずさむいぢやありませんか」とつねとほ元氣げんき主人しゆじんると、子供こども大勢おほぜい自分じぶんまへならべて、其中そのうち一人ひとり掛聲かけごゑをかけながら、じやんけんつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と一の洞門では、早くもその足音をさとって、ひとりが大手をひろげてどなると、鉄球てっきゅうのように飛んでいった伊那丸が、どんと当身あてみの一けんをついた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へそで煙草を吸はせて、お尻に彦徳ひよつとこの面を冠せて、逆立ちになつてかつぽれを踊つて、婆ア藝者のお粂とけんを打つて、ヘトヘトに疲れると、お燗番かんばんの周助にねだつて
こっちではけんを打ってる。よっ、はっ、と夢中むちゅうで両手を振るところは、ダーク一座の操人形あやつりにんぎょうよりよっぽど上手じょうずだ。向うのすみではおいおしゃくだ、と徳利を振ってみて、酒だ酒だと言い直している。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは越前ゑちぜん名代なだい強力がうりき一日あるひ狩倉かりくら大熊おほくま出逢であひ、てるやりくまのために喰折くひをられこと鉄拳てつけんげてくまをば一けんもと打殺うちころしこの勇力ゆうりよくはかくのごとくであるとくまかは馬標うまじるしとした。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
両手につかう達人だし、けんや棒も心得ているので、だれの手にもおえやしません。またの名、鉄牛のなんていわれて、恐がられているほどですから
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「よくおいでです。どうも相変らず寒いじゃありませんか」と云う常の通り元気の好い主人を見ると、子供を大勢自分の前へ並べて、そのうちの一人と掛声をかけながら、じゃんけんをやっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
取卷の清五郎は、藝者のお袖を相手に、引つきりなしにけんを打つて居りました。貫兵衞の義弟で一番若い菊次郎は、それを面白いやうな苦々しいやうな、形容のしやうのない顏をして眺めて居ります。
ぐらっと彼のこめかみの辺をいなずまが走ったと感じたときは、もう白玉喬はくぎょくきょうの体などは彼の一けんの下に素ッ飛んでいてそこらには見えもしなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取巻の清五郎せいごろうは、芸者のおそでを相手に、引っきりなしにけんを打っておりました。貫兵衛の義弟で一番若い菊次郎きくじろうは、それを面白いような苦々しいような、形容のしようのない顔をして眺めております。
バラバラッと蓆囲いを目がけて躍り込んで行くと、物蔭に隠れていた熊谷笠の大月玄蕃が、いきなりドンとこんがらの鳩尾みずおちを狙って突き出した当身あてみけん
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食つて居るかゝうどの喜八郎、これは藤八けんの名人
ふたりは真顔になって、けんを闘わせた。一勝一敗のつくたびに、どっちかが、杯をのみ乾し、その口惜しがりようを見て、みんなが笑い崩れるのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食って居る掛り人の喜八郎、これは藤八けんの名人
けんに気合いがのッてくると、妓たちはすぐ夢中になった。三人抜くと楮幣ちょへいが十枚、五人抜くと、二十枚。
それが、あだなを蒋門神しょうもんしんという稀代きたいなのっぽで、身のたけ九尺余り、槍も棒も、けんも脚もきくという凄者すごもの
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、組みついてきた目付役人を、たッた一けんのもとに仆してしまったのも、彼自身は意識しない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでおんなたちがする闘拳とうけん遊びを見ていると、けんの三則はふつうの拳とちがっていない。ただ狐と庄屋と猟人を、「公卿」と「天王さん」と「武士」に変えてあるだけのものだった。
けんがいい」