所有もの)” の例文
金銀用度も皆兄まかせにて我が所有ものといふものもなく、ただることと食ふこととに不足なさざるばかりなれば奴隷といふてもかるべし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「お前はお嫁になることもできないで、おんだされたのをじないの。まだ人の家の財産を自分の所有ものにしているつもりなの。」
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
みんな私の所有ものなんだ。そしてみんな私の涙が流るるような愛の抱擁を待っているんだ。私は其処に身を躍らして飛び上った。
蠱惑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そこでこの不思議な朗快が彼の観照と形成との作用へ浸徹するのであるが、この朗快は彼をまって初めて音楽の所有ものとなった。
あらゆる、自分の心を引き着ける、そんな美しい部分を綜合的そうごうてきに持っている生き物を自分の所有ものにしてしまわなければ、身も世もありはせぬ。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「いや! しかしな、貴様からお母さんに話して、この開墾した土地を、我々の所有ものにしてもらわねえと困るからな。そこを頼むわけなのさ。」
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
小次郎はにわかに恍惚となり、心も体も自分の所有ものでなく、他人によって勝手自由に、使われているように思われて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お定の家は村でも兎に角食ふに困らぬ程の農家で、借財と云つては一文もなく、多くはないが田も畑も自分の所有もの、馬も青と栗毛と二頭飼つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「さあ、」校長はつまつたやうに頭へ手をやつた。「いや、あの方のぢや無からう、多分神様の所有ものでがせうよ。」
そうだ! しかもその寝台の柱は彼自身の所有ものであった。寝台も彼自身のものなら、部屋も彼自身のものであった。
「馬鹿」ガルールは苦笑いをして、「おれ達の所有ものになったって、この中に船を動かせる奴は一人もいやしねえ」
眼について欲しいなと思ったものは何でもシモンの所有ものでした。シモンが兵隊をさし向けると、兵隊はシモンの欲しいものを立ちどころに持って来ました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
、なんぼ自分の所有ものだといつて、さうぽん/\と無造作むざうさに取上げられたんぢや、全くやりきれやしない。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
花と望みし峯の白雲あとなく消れば、殘るはお蘭さまの御身一つと、痛はしや脊負ふにあまる負債ものもあり、あはれ此處なる邸も他人ひと所有ものと、唯これだけをさとり得ぬ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれみなみいへからりたのこぎり大小だいせう燒木杙やけぼつくひ挽切ひつきつた。しまひかれうしろからけたたけつてのやうによこたへてひくゆかつくつた。たけつたなたかれ所有ものではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
されば巨万の財産を挙げて娘の所有ものとなし、姉の下枝に我をめあわせ後日家を譲るよう、叔母はくれぐれ遺言せしが、我等の年紀としわかかりければ、得三はもとのまま一家いっけを支配して
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等のとび越えただけのものは、彼等の所有ものになるのだ。中世のダンテが忽然こつぜんとして怪しげな情ないものに変った。此の古式の(又、地方的な)儀礼は、流石さすがにサモア人の間にさえ笑声を呼起した。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「とにかく時機は過ぎ去った。かの女は既に他人ひと所有ものだ!」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「べつに何んでもありません、ただちょっとした禁厭まじないでございますから、一度地べたへ落してくだすったら、もう用はありませんから、ぐ拾って、貴郎の所有ものにしてください、お礼にさしあげますから」
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「お、痛えや、親分。他人ひと所有ものだと思って——。」
世界は今、黒猫の所有ものになる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
誰の所有ものでもない
「神様の所有ものにしても、いづれは将軍の舅さんからお買取りになつたのだらうが、どの位お仕払ひになつたか知ら。」
最後の京丸の秘密境へ埋めておいた莫大の金子は、この綴じ紙が手にはいったので、我々の所有ものとなることになった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お定の家は、村でも兎に角食ふに困らぬ程の農家で、借財と云つては一文もなく、多くはないが田も畑も自分の所有もの、馬も青と栗毛と二頭飼つてゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しい女が思うように自分の所有ものにならぬためにそんなに気が欝いでいるせいか、そのころ私はちょっとしたことにもすぐ感傷的になりやすくなっていた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
自分達の帰って来ることの出来る自分達の所有ものとしての土地が、この生まれ故郷にあるのなら、或いは、梅三爺は伜と一緒に行く気になったかも知れなかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
如何いかほど働きたりとて唯この家を富ますのみにて汝の所有ものゆるにもあらねば、まことにもって楽み薄し、と賢顔かしこがおに説きければ、弟はこれより分居の心を生じて
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
草臥くたびつた身體からだかれその二人ふたりれて、自分じぶん所有ものではないそのしげつたちひさな桑畑くはばたけえてみなみ風呂ふろつた。其處そこにはいつものやうに風呂ふろもらひに女房等にようばうらあつまつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そりゃ借りた金だ抵当のお藤が居なくなれば、きっとお返済かえし申すが、まだ家の財産も我が所有ものにはならず、千円という大金、今といっては致方がございません。どうぞ暫時しばらくの処を御勘弁。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思念イデーが突然、道の上や散歩や会話の最中に彼を襲うと、彼は(彼および彼の近しい人々がいったように)忘我状態(raptus)になった。もう自分が自分には属さず、思念イデー所有ものとなった。
結局、わたし達はもう、世間のひとのようにはなれないということを悟りましたので、赤ん坊を両女ふたり所有ものにして育ててゆこうと相談しました。それで、あの子は彼女あのひととわたしの共同の子供なのです。
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「はい、足袋はたしかに寺男佐平の所有もの。」
彼女を自分ひとりの所有ものにして楽しんでいる限りなきよろこびが、そのためにたちまち索然として、生命いのちにも換えがたい大切な宝がつまらない物のような気持になった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
公子 (窓外の月を眺め)あの月がひとまず沈み、やがて再び現われる頃、貴女は私の所有ものです。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その眼には、「今迄この私は貴方の所有ものと許り思つてました。恁う思つたのは間違でせうか?」
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
さうしてとう自分じぶんんで土地とちまでが自分じぶん所有ものではなかつた。それは借錢しやくせんきまりをつけるためひとつて東隣ひがしどなり格外かくぐわいたせたのである。それほどかれいへきうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
一時ひとしきりは魔の所有もの寂寞ひっそりする、草深町くさぶかまちは静岡の侍小路さむらいこうじを、カラカラといて通る、一台、つややかなほろに、夜上りの澄渡った富士を透かして、燃立つばかりの鳥毛の蹴込けこみ、友染のせなか当てした
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただただ土地を、完全に自分達の所有ものにしてしまえばいいとの考えから、荒皮を引んいたばかりの畑は、他の方を耕しているうちに他の一方が熊笹や野茨や茅に埋められるという有様だった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「いい湖水だ。誰のだらう、やつぱり将軍の舅さんの所有ものなんですか。」
そして今ではもうこの本は私の所有ものではなくなっている。
しめたっ! この船はおれ達の所有ものだ!」
自分にとっては何物にもまさる、欲しい物品であるのだと思うと、どんなにしても自分の所有ものにしたい。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
その眼には、「今迄この私は貴君の所有ものと許り思つてました。う思つたのは間違でせうか?」
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
同じ運命の呪詛のまと! (女子を見て)そして女子よ、お前は俺の所有ものとなった
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白刃の下に臨める刹那せつなさいわいにして天地は悪魔の所有ものに非ず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女子 (窓に寄り二人の使女の口争くちあらそいを聞きおりしが、軽く笑い消し)お客様のお噂は、もういい加減にして止めておくれ。どのようにいいと思ったとて、所詮お前方の所有ものにはなるまいに。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、俊吉が十五の春、土地の高等小學校を卒業した頃は、山も畑も他人の所有ものに移つて、少許すこしばかりの田と家屋敷が殘つて居た丈けであつた。其年の秋、年上な一友と共に東京に夜逃をした。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
淫婦よ! 多情者よ! 色餓鬼め! まだ処女おぼこの身でありながら、男の生肌なまはだ恋しがり、あだ厭らしく小次郎を追い、ウカウカソワソワいたしおる! ……小次郎は姉の所有もの! 年月手がけて磨きあげ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)