悉皆すっかり)” の例文
ところが今の空っ風で病院が無暗に流行はやるでしょう。到頭此方で女房を貰う。子供が続々出来る。最早もう悉皆すっかり土着してしまいましたよ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それがお前さん、動員令が下って、出発の準備が悉皆すっかり調った時分に、秋山大尉を助けるために河へ入って、死んじゃったような訳でね。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
東京は火事があぶねえから、好い着物は預けとけや、と云って、東京の息子むすこの家の目ぼしい着物を悉皆すっかり預って丸焼にした家もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すると、驚いたことには小刀が悉皆すっかり赤錆あかさびになっております。これを見た時、私は何ともいえない慚愧ざんき悔恨の念が胸にこみ上げて来ました。
多くの家具を腹の立つほどやすく売払っても、老婆の給料まで悉皆すっかり払って行くことは覚束おぼつかない、いずれ名古屋から送る積りだ、とも言った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
中で幾束かの美しい麻糸をさげて売っている。悉皆すっかり買おうと申込んだが、売主がおらず探しても現れず、ついに惜しい別れをしてしまった。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「いや、冗談じゃア無い、真剣なんだ。その代り悉皆すっかりこっちの味方になって、大働きに働いて貰わなければならないんだがね」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
知れているところでも悉皆すっかりは私に話す事ができなかった。したがって慰める私も、慰められる奥さんも、共に波に浮いて、ゆらゆらしていた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此処こゝに寝ているのが亥太郎の親父おやじ長藏ちょうぞうと申して年六十七になり、頭は悉皆すっかり禿げて、白髪の丁髷ちょんまげで、頭痛がすると見え手拭で鉢巻はちまきをしているが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから厚い毛布けっとかフランネルを二枚にたたんでも三枚に畳んでもようございますから今の桶の上へ悉皆すっかりかぶせて氷の速くけないようにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「いや、まだ悉皆すっかりいという訳には行かないよ。何でも三週間ぐらいはかかるだろうと思うが……。しかしまあ、生命いのちに別条の無いのが幸福しあわせさ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私とお嬢さんとの動作だけは、悉皆すっかり見えたに相違ない。然し会話は聞えなかったろう。少し間隔が離れ過ぎていたから。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
う御座います。僕も決して自滅したくは有りません貴様あなたが僕の物話はなし悉皆すっかりきいて、そのうえで僕を救うの策を立てて下さるのなら僕はこのうえもない幸福です。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから、何だろうかと思っていると、やがてその女郎屋の主人が、釣棹つりざお悉皆すっかりまとめて、祖父じじい背後うしろへやって来たそうです。それで、「もう早く帰ろう。」というんだそうです。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
恐らく此広い世界でまことの罪人をしったのは己一人だろう、是まで分ッたから後は明日の昼迄には分る、面白い/\、悉皆すっかり罪人の姓名と番地が分るまでは先ず荻沢警部にも黙ッて居て
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今度こそ本当のことを悉皆すっかり申し上げてしまいます。——致し方もございません。
遺書に就て (新字新仮名) / 渡辺温(著)
「おまかせしてもよい。……けれども、相馬殿(彼は将門をそう呼んだ)——この武芝が、興世や経基のために、祖先代々の居館も財物も、悉皆すっかり、焼き払われたことは御存知でしょうな」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この讃美歌は新約路加ルカ伝第十五章第十一節より第三十二節にわたり、放蕩児ほうとうじが金を持ち、親や兄を捨て旅行して遊蕩にふけり、悉皆すっかり費消し尽して悲惨なる目にい、改心するまでをんだもので
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
では兄さん、この残り餌を土でまるめておくれでないか、なるべく固く団めるのだよ、そうしておくれ。そうしておくれなら、わたしが釣ったさかな悉皆すっかりでもいくらでもお前の宜いだけお前にあげる。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
片岡君は朝から鎧を着たような重苦しい気分に圧迫されていたが、今やそれが取れて悉皆すっかりくつろいだ。元日が元日らしくなって来た。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あれが悉皆すっかり判ればほど面白かろうと思うのですが、うでしょう、あなたには……。読んで下さることはできますまいか。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おい山本。一寸ちょっとあちらの貯蔵庫を検べて見てくれないか。先刻さっきの騒ぎで悉皆すっかり壊れているかもしれない。あれが使えなくなってはそれこそ大変だ。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
先ず悉皆すっかり洗い上げて、すうッと湯屋から出てうちへ帰って来ますと、ポーンと鳴る、是が申刻なゝつと云うので、それから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうして養蚕ようさんせわしい四月の末か五月の初までに、それを悉皆すっかり金に換えて、また富士の北影の焼石ばかりころがっている小村へ帰って行くのだそうである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのため富五郎は悉皆すっかり気を落としてしまい、気の狭い話だが、自暴やけを起して、商売の方は打っちゃらかして
一尺足らずの獲物ながら、名人の構えた扇であった、浪之助にはその扇が、差しつけられた白刃より凄く、要介のからだがそれの背後に、悉皆すっかり隠れたかのように思われた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十分やって行けるようにするからと云うんで、世帯道具や何や彼や大将の方から悉皆すっかり持ち込んで、漸くまあ婚礼がすんだ。秋山さんは間もなく中尉になる、大尉になる。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
嘘を吐け、一度二度じゃあるまい、と畳みかけてめつけると、到頭とうとう悉皆すっかり白状してしまいました
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よろしい! 何卒どう悉皆すっかり聴かしてもらいましょう。今度は僕の方からお願します。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
玄渓の病家先の絹屋弥兵衛きぬややへえという者に、討入装束として着用する鉢金頭巾や、着込きごみ、羽織、その他を註文して、それも悉皆すっかり出来できあがったので、すべて手元を空にして支払ってしまっている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取てから仮粧蹈舞は悉皆すっかり無くなるしそれかとて立茶番たちちゃばんも此頃は余り無い
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「いや、現に然う宣言しているんだもの。悉皆すっかり分った。これじゃ僕よりは余計飲むくせに、一滴も飲まないことになっている筈だ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
というので、おかめも一人旅で、連が出来たから心嬉しく思っておりますと、最う悉皆すっかりそのおかみさんに馴染んで、おかみさんと一緒に寝なければ聞かない。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
多年東京の空気にまじっているうちに、そんなお伽話のような奇怪な伝説は、彼の頭脳あたまから悉皆すっかり忘れられていたのを、今や再び七兵衛老爺おやじから叱るが如くにさとされて
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
内部の献立こんだて悉皆すっかり出来上がり、会名が附いたのでとどけを出し、許可になったので、その年の秋すなわち明治十九年十一月むこう両国の貸席井生村楼いぶむらろうで発会することになった。
たちまち村中の問題となりいくらか残っていた彼の信用は是で悉皆すっかり地に墜ちて了った。
例年れいねん隣家となりを頼んだもち今年ことし自家うちくので、懇意こんいな車屋夫妻がうすきね蒸籠せいろうかままで荷車にぐるまに積んで来て、悉皆すっかり舂いてくれた。となり二軒に大威張おおいばり牡丹餅ぼたもちをくばる。肥後流ひごりゅう丸餅まるもちを造る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
要するに運動というより気儘きまま勝手に遊び暮したという方で、よく春の休みなどになると、机を悉皆すっかり取片附けてしまって、足押、腕押などいう詰らぬ運動——遊びをしては騒いでいたものである。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは相も悉皆すっかり崩れていたという話でね。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
拭取りながら椅子にり「唯だ大変とばかりでは分らぬが手掛でも有たのか(大)エ手掛、手掛は最初の事です最う悉皆すっかり分りましたまことの罪人が—何町何番地の何の誰と云う事まで」荻沢は怪しみて「何うして分った(大)理学的論理的で分りましたしかも非常な罪人です実に大事件です」
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかし然ういつも柳の下に泥鰌どじょうはいない。その日の中に下り始めたから、慌てゝ手放した。前に儲けただけを悉皆すっかり吐き出してしまった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
本堂や墓場の掃除でもして罪滅しをして一生を送りいので、段々のお話で私は悉皆すっかり精神たましいを洗い、誠の人になりましたから、どうか私をお弟子にして下さいまし
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに当時は私ももっぱら師匠の仕事を手伝い、また自分が悉皆すっかり任されてやったといってもいものもあって、自分の腕にもあたまにも少なからずためになったものでありました。
翌日になるとアマは変な病気にかかりぼんやりして不吉な事ばかり言うようになった。家人は不図ふと昨日来た巫女の話を聞き、早速その通りお祈りをすると、不思議にも二三日して悉皆すっかり癒った。
「御前聴いてたんだろう、悉皆すっかり
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「すると悉皆すっかり見切ってくれと電話をかけた時にはもう決心がついていたんです。お郷里の方へ言ってやっても見込はないでしょうな?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その侍を打ん殴ろうとしたから侍の姿なり形は悉皆すっかり知ってるから、いかえ、お前が幽霊になって刀の詮議をするよりか、生きていて知れりゃア死ぬにゃア及ぶめえ
まだ本尊が悉皆すっかり出来上がらない中に、附属品も、納まるものもチャンとそろっている。
「僕はこれから家へ帰ってマザーに悉皆すっかり謝罪する。明日から生れ更った積りで働く。君は一つはたから大いに気を利かしてくれ給え」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
茂「こゝにおぜゝが有るからお前に遣る、もう私は要らないから是だけ悉皆すっかりお前に遣るから、これをお父さんの形見だと思って、これでお母さんに何か買って貰いな」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)