幾夜いくよ)” の例文
「ええ、いい加減にやりましょう。——この一夜ひとよと女が云う。一夜? と男がきく。一と限るはつれなし、幾夜いくよを重ねてこそと云う」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それ故私は幾夜いくよも眠られなかつた程煩悶したに係らず、とう/\其の看護婦に對しては、自分の心中を打明け得ずに退院してしまつた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
彼等かれら幾夜いくよをどつて不用ふようしたときには、それが彼等かれらあるいたみちはたほこりまみれながらいたところ抛棄はうきせられて散亂さんらんしてるのをるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
幾日いくにち幾夜いくよ看病かんびょうつかれがて、いくら我慢がまんをしても、しきれずに、うたこえは、だんだんかすれて、とぎれたのでした。
雲と子守歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今年ことし非常ひじやうあつさだつた。また東京とうきやうらしくない、しめりびた可厭いや蒸暑むしあつさで、息苦いきぐるしくして、られぬばん幾夜いくよつゞいた。おなじくあつかつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
丸窓まるまどにうつるまつのかげ、幾夜いくよながめてつきやみになるまゝにいとこゝろそのとほり、うちあけてはひもならぬ、となりひと素性すじやうきゝたしとおもふほど、意地いぢわろくれもげぬのかそれともにらぬのか
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
神経の痛みに負けて泣かねども幾夜いくよねねば心弱るなり (アララギ)
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
波まくら幾夜いくよ経にけむほのぼのと今朝けさ目さむれば松風の音
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
常陸の新治にいはり筑波つくばぎて幾夜いくよたか。
新治にひはり筑波つくばを過ぎて幾夜いくよか寝つる
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幾日いくひ幾夜いくよの 熱病ののちなる
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
其人そのひとゆかしからねど其心そのこヽろにくからず、ふみいだきて幾夜いくよわびしが、れながらよわこヽろあさましさにあきれ、ればこそはけばこそはおもひもすなれ、いざ鎌倉かまくら退がれて此人このひとのことをもわす
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし、そのひとたちの死骸しがいは、えたおおかみやくまにべられたか、つかりませんでした。ただ、この物悲ものがなしい音色ねいろは、かぜおくられて、そののち幾夜いくよも、この広野ひろのそらただよっていたのです。
春になる前夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
思いけりすでに幾夜いくよ蟋蟀きりぎりす
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくてあな幾夜いくよにし。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あはれと思ふ幾夜いくよさぞ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いたまぬならねどしゆうへなほさらにづかはしくかげになり日向ひなたになり意見いけん數々かず/\つらぬきてや今日けふ此頃このごろそでのけしきなみだこゝろれゆきてえんにもつくべしよめにもかんと言出いひいでしことばこゝろうれしく七年越しちねんごしのえて夢安ゆめやすらかに幾夜いくよある明方あけがたかぜあらくまくらひいやりとして眼覺めさむれば縁側えんがは雨戸あまど一枚いちまいはづれてならべしとこ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あはれとおも幾夜いくよさぞ
古調月明集:01 月明二章 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)